20話『何か知ってる!?私に隠してる!?』
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――『一昨日、大阪府堺市で発見された死後一週間ほどと思われる遺体は、DNA鑑定等の結果、平成27年の奈良女子高生強姦殺人事件の容疑者として指名手配されていた、原子雄29歳であることが判明。男に目立った外傷はなく、部屋には鍵がかかっていたことから、病死の可能性が高いとみて、通院歴がなかったか調べを続けている。
大阪府警によると、男が所持していた運転免許証および保険証は、林卓二郎となっており、別人になりすまし逃走していたとして、現在関係者への確認を急いでいる。これまでの調べでは、有印公文書偽造の可能性は低く、本物であることが判っており、住民票等の闇売買につながる可能性も視野に、奈良県警と合同で捜査を続けていくことになった。』――
「ねぇ、これって、直毘師?」
スマホでニュースサイトの記事を、見せながら。
「……分かんない」
無表情の淡白な反応。グレー色長袖カットソーを着たオールバックの阿部阪嵩旡が、レイの隣に座っていた。
「碧兄は、どう思う?」
「……俺じゃない」
真面目な顔で返答。カーキ色ブルゾンを着た茶系ドレッドヘア鬘の伊武騎碧が、いた。
「別に碧兄って言ってない」
「あっ、そっかぁ、ホホホッ」
「ホホホッって……」
海の見える窓側テーブルに、3人同席。白とスカイブルーで統一されたお洒落なレストランでの、お茶会。他客はなく、隣テーブルにいるダークジャケットの男のみ。伊武騎のお供だ。
「でも、この前横浜で逮捕された奴は、俺だよ」
「あ〜……えっ、うっそぉ!」
「嘘なんて言ったことない」
「……うそ!」
相手を突き刺すような、不信の眼。「う……えええ、んまぁ、でもホント」と、何とも歯切れの悪い反応を見せるしかないようだ。
「そうなんだぁ。やっぱり凄いねぇ。幽禍さんで犯人捜せるって」
両手を頭後ろで組み、仰け反りながら。
「恨みが強ければ強いほど捜しやすいよ。今回奴に奪われた金額がデカ過ぎて、ご主人亡くしたから、恨みは果てしない。と言っても、俺みたいに力量がないと捜せないけどね」
「ハイハイ、碧兄は凄いですよ」
ジュースをストローで飲みだす。
「あぁ~なんかレイちゃんのその言い方、引っ掛かるなぁ」
「ゴクッ、ん、そうですか? 正直に褒めてますけど」
「……感嘆符がない」
「それじゃ~……わぁ〜碧様って、スゴ~~~い!」
顎前で、軽く拍手するように。
「あぁ……そのくらいでいいや」
目元をピクらせ苦笑う碧に、プッと吹き出し大笑いするレイ。相手も吊られて哄笑した。大人しい男子も口角上げで、その場を共有した。それも束の間で、女子から笑顔が失せていく。
「陽くん、かなぁ?」
少年の事件との関わりに、不安を抱える少女がいた。証拠なし、他直毘師の可能性など、不安を和らがせようとする碧は、明るく繕った。だが心配するレイの表情は、変わらない。
「なぜ……なぜ陽くんは……」
「……彼に聞かないと……」
「嫌っていたはずなのに……勉強頑張るって言ってたのに……なぜ……なぜ復帰したの?」
「……ほら、人の気持ちなんて、変わるからさぁ」
「陽くんはそんな人じゃない。あんなにお姉さん想いで、やっと2人で楽しく暮らせるって……喜んでたのに……」
目を見合わす男たち。
「も、もしかして、お姉さんに何かあったの?」
レイの力眼が、碧に向けられた。
「ぃ、いやぁ〜……」
微妙な焦り。少女の眼は、嵩旡にも。彼は半眼で冷静そのもの。再び碧を睨む。
「碧兄、何か知ってる!? 私に隠してる!?」
「……ホ、ホホホホ」
「誤魔化すな!」
「ホ……」
「阿部阪くんも知ってるだろうけど、阿部阪くん、口硬いから。……だから碧兄に訊いてるの」
「お、俺だって、口硬いんだぜぇぃ。嘘も、つかないんだぜぇぃ」
「ア・オ・兄〜」
レイの鋭視が冴える。圧倒されたのか、徐々に碧の笑みが、薄まった。
「レイちゃん……」
「レイさん」
口を挟んだのは、嵩旡だ。
「この前も言ったけど、父さんの指示でまだ言えない。原因は今調査中だから、とにかく、待ってて」
「待っててって……待てないから、心配だから、訊いてるのにぃ……」
トーンも視線も落ち込んだ。その悲しそうな姿を、目前にして。
「それじゃぁ、教えるよ」




