19話『あなたに恨みはない。もし恨むなら、幕府を恨め』
「あの組織が絡んでいるんじゃないかって思えたんですよ。形は違うんですが、何っていうか、同じ匂いがするっていうかぁ。でも確信が持てなくってねぇ。それで……」
取材によるポイントを、相手に伝えた。
<……可能性はゼロではないかもしれません。もし第三者によってコントロールされているとしたら、犯人像はブレて当然です。
そしてそのために警察が関与しているとしたら、勾留ではなく、拘束>
「! やはり、署ではなく他へ移動した!?」
進藤たちは、最寄り駅での聞き込みも行なっていた。しかし、有力情報得られず。車での移動を踏まえ、組織が拘束できる場所を考え始めていた。ただ、どこを探せば良いのか、一向に見当がつかない。
<その辺りは、私にも分かりません。組織の連中が出入りできる施設より、誰が組織のメンバーなのか、を探るほうが早いかもしれませんが……>
「ですよねぇ〜。そこが難点なんですよぉ。警察と繋がりがあるって考えれば考えるほど、取材困難な状況に追い込まれて……」
<そうでしょうね。……あまり深入りすると、危険ですし>
「まぁそこは覚悟してやってるんですが……。圧力かかって報道出来なくても、真相までは近づいておきたくて」
<……分かりました。その事件、組織が絡んでいるなら、私にも必要な情報になります。少女の証言も気になりますしね。……進藤さん、去年11月に起きた霞が関通り魔事件、憶えておられますか?>
「ああ、何となく。確か死者が出なかったからか、大きく報道されてませんよね」
<はい。犯人の男は捕まる前に自害してますが、メディアに取り上げられたのは、数日だけのようです。解雇されて女にフラれた腹癒せの犯行、で終わったようです。
ですが、あれは通り魔事件に見せかけた、目的に沿った殺人未遂事件です>
「殺人未遂!? 何故?」
<最初に襲われた男の証言によれば、犯人はこう呟いたそうです。『あなたに恨みはない。もし恨むなら、幕府を恨め』ってね>
「ば、幕府ぅ!? 時代錯誤な」
<確かに。ただ洗脳されているとすれば……>
「! それも、組織!」
<そうです。99パーセントの確率で>
「……最初の男を、葬りたかった!?」
<はい>
「でも、何故そう思うのですか?」
<オフレコでお願いします。実は最初の男、私です。ハハハッ、お陰で2ヶ月ほど入院してました>
電話の向こうから、一人笑いが聞こえていた。
「え〜っ、マジですかぁ!?」
驚嘆する進藤。その話題でしばらく盛り上がった。
札幌障害者施設殺傷事件については、柳刃が知人からの情報取得を試みることに。ただ襲撃日以来、その相手は情報提供を渋っていた。『生命の危険が増すから』ということらしく。
進藤は柳刃の件に関して、上層部に報告。真相解明活動はクルーにも危険が及ぶ、その可能性を指摘した。取材中止の案も出されたが、退けない進藤の覚悟。危険と隣り合わせの真相に辿りつくために、体制を変更した。急遽、年度末追加辞令にて旭真紀子は、他部門異動。事情説明後、共に取材継続できる者を選抜。他クルーは他件に、注力させた。
柳刃からアドバイスを受けていた進藤は、会社で徹夜。事件時の録画映像、警察公開映像を全チェックすることに。他社の報道映像も含めて、だ。同映像を幾度も幾度も、二人で確認した。組織に繋がる人物を、探り出すために。
「ん!? 進藤さん、ちょっと巻き戻してもらえますか。……はい、そこです」
再生。
「ここ」
ディスプレイに接近したクルーが、直差し。
「何をしてる?」
巻き戻し、繰り返し再生。
映像左端ギリギリに、警官の変哲もない行動。見逃してしまいそうな、些細なことだ。画面では確認できないが、何かを手渡しているシーン。相手は野次馬に混じった、コートを着たサラリーマン風の男。その後すぐに去っていた。
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