14話『嫌だ、私がやる』
ジワリと近づくタイヤ音。停車後、全てのドアから降りた者たち。バラバラなのにゆとりなく正門手前に集まった4人の女。
「私、見てるだけだからね」
大き目のヘッドフォンを首に掛けた幼い顔のセミロング女は、気乗りしていない雰囲気を前面に出す、三女。
「別にいいわよ! あんたがいなくたって支障ないんだから。……なぁんか暴れるのって久しぶりぃ~」
ツッコミを入れるボブカットの次女が、両腕を上に背中を伸ばした。本日、機嫌が悪いのか、良いのか。
「まぁいいじゃないの。大した仕事じゃないんだから」
ポニーテールの大人びた女は、妹たちを諌めた。
各々の立ち姿勢で見つめるのは、正門からの高等学校である。
「じゃぁ、始めよっかぁ。倉瀬橋さん、よろしくぅ」
長女の合図にコクッと頷き、キャップ帽の女は臆することなく、正門を通過。三姉妹は、敷地フェンスに沿った車両進入禁止の側道を、数十メートル歩いた。
「それでは……解放」
倉瀬橋には手で合図するレア。ティアを除く3人は、静命術を解いた。
ギィーーッ ゴッ
廊下側先頭席の男子生徒が、急に立ち上がる。
「ど、どうしたの、阿部阪くん? お手洗?」
教壇に立つ女教師は、少々の驚き姿勢と顔つき。それを無視するように、勇み足で窓へ。校庭を見下ろした。二階教室からの光景の変わり種とは、グラウンドフェンス外側にいる3人の女たちだった。
嵩旡の横に歩み寄ったのは、レイ。「こらっ、座りなさい!」という先生の指示を無視して。
「あの人たち、直毘師!?」
「……だね」
続けて傍に立ったのは、涼夏。優等生の彼女に釣られた生徒たち、そして先生までも、窓からの光景を確認し始めた。ざわつきながら。
「あの子、みたいね」
「ちゃっかりシールド、張られてるじゃない」
「同級生の建毘師って、最初に顔出したポッチャリ男くん?」
後頭部に両手を組み、ガムを噛みながらティアは訊いた。
「そのようね」
「棟梁の息子って言ってたっけ!?」
「気にすることないよ。一緒に片付けましょ」
「三穂様からは、端上レイだけって。でも、場合によっては仕方ないかも、ね」
淡々と意見した次女に、長女も同調を示す。
「息子の力、試してみたらぁ」
三女の意見も、重なった。
「そうね。……それじゃぁ、モア、宜しく」
「え〜〜っ、わたしぃ〜」
「だって、暴れたいんでしょっ。命毘師は相手にならないだろうから、あなたに譲ってるのよ。
それじゃぁ、私が建毘師誘き寄せておくから、あんたは命毘師お願い」
「嫌だ、私がやる」
「ったく、面倒臭い。それじゃ、さっさと片付けて、美味しいお魚食べて帰りましょっ」
「魚より、肉がいい」
「ティアが決めないでよぉ! 見てるだけなんだから、あんたはコンビニのオニギリで十分よ」
「ひどっ」
「モア!」
睨み顔と指で、行くよう指示するレアがいた。
「はいはい」
ズボンポケットに両親指だけを指し、ブツブツと愚痴らしき呟きと共に、歩み戻るモア。正門から違和感なく、敷地内へ。グラウンド裾まで移動した。
突然消える、教室の照明。
「停電?」
「違う。建毘師がいる」
「な、何で?」
「警察に通報させないため、だろうね」
光換命奉によって電気エネルギーは、転換されていた。光換命奉は、電気エネルギーを制御する建毘師の術。
世のエネルギーは変化しながら、存在せしめる。この時、電気エネルギーは故意に、別エネルギーに転換。つまり電気エネルギーで可動するモノは不可動となり、機能していない。
「……あの人たち、何しに来たの?」
怪訝そうなレイの眼は、フェンス外部の女に食らいつく。
「レイさん、ここにいて。いや、窓から離れたほうがいいかも」
教室を出て行く嵩旡がいた。
手の小瓶からスプレー噴射するモア。霧状化した鮮血を制御し、2つの塵旋風を即作した。
レイのいる教室のみならず、他教室からも騒声が高まり始めた。徐々に肥大化するそれは、生徒たちにとって危険なモノというより、好奇心の対象だった。スマホで写真撮影をしようとする者もいたが、無反応の機器に、さらに騒ぎ立てる。
校舎二階ほどの高さまで達した、時だ。自然の風に靡かれて、失せた。教室のどよめきの中で残念がる生徒の声さえも、聞こえてくる。
モアの、睨む先。校舎内の靴箱間で、仁王立ちし。左腕を差し出している学制服の、少年がいた。
「フン、この程度なら当然よね」
口角を上げ、ニヤつくボブカットの女。スプレーを再噴射するなり、霧状のそれを針化させ、右手人差し指を男に向ける。一気襲撃。
冷静かつ迅速な策。ドーム型のナチュレ・ヴィタール壁を、それらにぶつけた。何百という針状鮮血は、失速落下することに。
「まっ、これも普通よね」
次攻撃のための鮮血噴射。手振りせず制御。回旋し始める霧状鮮血。一呼吸する間に、十数個の視覚的球体が、現れた。寸刻、一個が高速移動。
ガシャン ガシャーン ガシャン
キャァーー
割れる音に繋がる悲鳴が、校舎内に轟く。一階教室を襲ったモノは、教室と廊下を貫通していた。
「さて、どうする?」