13話『あなたたちを先に調理したほうが良さそうね』
三階建ての色気のない鉄筋校舎。
廊下で戯れ合う男子生徒。井戸端会議する女子生徒。机で読書する生徒。参考書を解く生徒。腰かけてゲームしている生徒。伏せ寝する生徒。各々休憩時間の過ごし方は、様々。
「3年生いなくなるだけで、学校ってこんなに淋しくなるんだねぇ」
「ホント!」
暖かみを感じる教室窓側で、集う6名。
「去年はそれ程感じなかったけどなぁ」
「やっぱりあれじゃなぁい。わたしっちも後一年だからさぁ。それで感傷的になっちゃってるとか」
「そうかもね」
「後一年かぁ。それ考えただけでも寂しくなってきたぁ」
「レイなんて、もっと寂しいはずよ」
「えっ、何で?」
「一条先輩がいなくなって」
「……何で?」
「え~ぇ、惚けないでよぉ。好き合ってたんでしょ!」
「す、……はあぁ、何でそうなるのぉ」
「皆そう思ってるよ。先輩んちで食事したり、先輩が病院運ばれた時だって一晩中看病したり」
「それは、そのぉ、流れであって」
「いいのいいの隠さなくたって」
「隠すも何も、誤解だしぃ」
「レイだから皆陰で応援してたんだから」
「応援、って言われても、付き合ってないし」
「クラスの女子、今年は誰も一条先輩にバレンタインのチョコ渡さなかったわよ」
「私だって、渡してないし」
「卒業式の時もボタン貰わなかったし」
「私も貰ってないし」
「『一緒に写真撮ってくださぁ〜い』なんてお願いしてないし」
「私も撮ってないし」
「携帯番号交換してないし」
「私も番号知らないし、教えてないし」
束の間の沈黙。
「……レイ、本気?」
「……マジぃ!」
その女子の反応を、皆様子見。
「先輩への諦めた私の想い、返せぇ〜!」
後方からこめかみグリグリ攻撃される、レイがいた。
「ぅわわわ、何で、何でぇ」
「このやろ、このやろぉ」
「イタタタタッ。やめて、やめてぇ〜」
「レイ、私のために先輩の電話番号訊いてこ〜ぃ」
「何で何で? 鈴はサッキーと付き合ってたんじゃないのぉ?」
「いつの話じゃぁ〜」
女子たちの笑いは、廊下まで響いていた。
「レイちゃんってさぁ、恋話薄いよねぇ」
「そうだよねぇ。中学ん時から、好きな人って出てこないもん」
「男子とは仲いいのに」
「そうそう。中学の男先輩とも遊んでたりしてたもんねぇ」
「あんた、好きな男いないのぉ?」
「んんん、いない、かな!?」
首を傾げた。
「もしかしてレイ、年上好き?」
「先生とか?」
「ぃや、そんな目で見てないから……他にいるんじゃ?」
「分かった! 外出が増えたのは、大人の男に会うため。それも不倫!?」
「「ウソォ〜」」
同じ反応。
「そんなことあるわけないでしょっ」
本人による早々の否定。
「レイはお父さんいないから、意外とおじさまに憧れるんじゃない!?」
「うんうん、それは有り得る」
「んなんな、勝手に……」
苦笑い、と扇ぐ手。
「分かった! 阿部阪くんのお父さんだぁ」
「分かる分かる。スマートだしダンディーだし。あの眼で見られると、キュンとしちゃう」
「うんうん、格好いぃ。あのお方なら、抱きしめてもらってもいい」
「何だ、鈴がおじさま好きなんじゃん」
照れる鈴。
「阿部阪パパの奥さん、海外らしいから、アタックしたら意外とうまくいくかもよぉ〜」
「んにゃんにゃ、阿部阪さんに失礼だから」
苦笑のままで、再び扇ぐレイ。
「もしかして、レイちゃんって、女好き?」
「あっ、そうかもぉ。だって涼夏のこと、大好きぃ〜」
隣にいた彼女に抱きつくレイ。
「何ぃ〜、涼夏は私の恋人だぞっ!」
反対にいた優美も、涼夏の腕を絡ませる。
「おのれぇ〜、ライバル現れたりぃ」
睨みつける二人。
「あのぉ〜、私も入れてもらえるかしらぁ」
「うん、いいよぉ」
その声主に6人の視線が向いた。立っていたのは、ブレザーを着た人物だった。
「「すみましぇ〜ん」」
バタバタバタと個々の席に戻った、5人。
「ハァ〜イ、恋人募集中の私からお知らせぇ〜。先月の期末テスト〜、相性悪かった人多数でしたので、次回、リベンジ、相性占いの追加テストを行いま〜す」
教壇に戻りつつの、発言。
「「「えええ〜〜〜っ!」」」
教室に響く、合唱。
「それが聞きたかったのよぉ〜。うんうん、いい子たちだなぁ〜」
「せんせぇ〜い! そんなんじゃぁ、恋愛の神様、逃げるゼェ〜」
「そうだ! レイっ家にお参り行ったらぁ」
鈴が叫ぶ。
「あなたたち、知らないのねぇ。明水神社はねぇ、水の神様、ダイエットの神様なのよぉ」
「そんなこと知ってらぁ、なぁ!」
周囲に同意求め。
「そうそう。先生よりレイとは付き合い長いんだぜぇ」
「先生、そこまで調べてるって、意外と気にして、神頼みしまくってんじゃないの!?」
「そ、そんなことないわよぉ」
「先せ〜い、レイっ家でお参りしたらって言ったのは、ダイエットしたらっていう意味ですよぉ」
爆笑の渦。
「う、うるさい! ポッチャリ好きの男性を探してるのっ!」
「そっか。嵩旡のお母さんだってポッチャリなのに、あんなカッコイイ人と結婚したんだもんなぁ」
「そぉ〜よ。先生にもチャンスあるわよ、ねぇ」
笑いが増えた。
「お前ら、知らねぇんだなぁ。嵩旡のお母さんって、最低月一回ホームパーティーするくらい、料理の腕持ってるらしいぜ。雑誌で見たけど、レストラン並みの旨そうな料理並んでたもんなぁ。なぁ嵩旡」
「あっ、うん」
「それに比べて先生は、家じゃ酒とツマミ。料理と言えば、チヂミとチャプチェ」
「な、なぜそれを……」
「神頼みの前に、料理教室行ったほうがいいんじゃねぇの」
笑渦の再来。
「ぅぅぅ、あなたたちを先に調理したほうが良さそうね」
「ひっでぇ〜、俺たち、食材じゃね〜よ」
「うっさい、ほら教科書203ページ開いてぇ」
4時限目が、やっと始まった。
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