10話『ちゃんとお縄して連行致します』
「阿部阪くんは、どうするの?」
歩きながら後ろを振り向き、数歩後方の男子に訊ねる涼夏。
「……決まってない。でもレイさんが東京へ行くなら守護は別の者になる、多分」
「ここに残るの?」
「いや、どこかで就職すると思う。役目を果たしながら出来る仕事」
「そっかぁ〜、やっぱバラバラになるんだねぇ」
また寂しがる涼夏。
「東京で就職すればいいじゃん」
軽く応えるレイ。
「いや、力のバランスが大事。東京に集中しても仕方ない。それを決めるのは、父さんたちだから」
「そうなんだぁ〜」
「……それじゃ、こうすればぁ。私の護衛とかじゃなくて、涼夏と今のうちに付き合って、彼女と一緒にいたいって言えば!」
「…………」
赤身が増える少年の顔と耳。
「な、何言ってるの、レイちゃん」
焦りだす真友。
「冗談よ、じょ〜談」
笑顔で戯れ合う女子たちと、視線を逸らす無言の男子がいた。
「愉しそうだな」
その時後方から聞こえてきた、大人びいた声。
「あっ先輩、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
1年前と同じチャコールのハーフコートを着こなす、長身の男子生徒が女子二人に並んだ。
「そう言えば一条先輩、医大に受かったんですよね。おめでとうございます!」
「ありがとう。第一志望は無理だったけど、何とかね」
「いやいや、快挙ですよ。うちの学校から国立医大受かったの、ここ10年で先輩が二人目って聞いてますから。後輩として、鼻高々です」
「レイちゃん、それ、先生たちが使う場合だから」
「あっそっかぁ、私が教えたわけじゃないしね、ハハッ」
舌先を見せるレイ。
「いや、いいんじゃないかぁ。端上さんには、生命の有り難みを教わったし。今自分が立っていられるのも、真剣に医大を目指せたのも、君のお陰だしね。鼻高々でもいいと思うよ」
「先輩……」
大人しくなるレイ。
「あのぉ先輩」
「ん?」
「お体の調子は?」
レイの心配事は、あれから9ヶ月経った、一条和彦の生命。計算による予想は、この時期だったからだ。
「うん、すこぶる調子いいよ。特に変化はない」
「……良かったです」
「大丈夫。僕はもし今死んでも後悔はない。一日一日を大切にしてきたつもりだから。家族も同じ気持ちだと思う。
君には感謝してる」
「い、いえ」
改まるレイ。
「そうだ。向こうに行く前にちょっとしたお祝いをやるみたいなんだ。君たちもおいでよ」
「えっ、でもぉ」
「母も兄も喜ぶだろうし、多いほうが楽しいから」
顔を見合わせる女子たち。
「それじゃ、行かせていただきます」
「ありがとう。じゃぁ来週土曜18時頃に」
「「は、はい」」
「もし良ければ阿部阪くん、君も一緒にどう?」
「…………」
「迷惑じゃなければ……」
「め、迷惑だなんて、そんなそんな」
後方の嵩旡に駆け寄り、腕を組むレイ。
「一緒に行かせてもらいます」
「な、何勝手に」
「たまにはいいでしょっ。……ちゃんとお縄して連行致します」
「は、犯人じゃ」
「いいの! ……保護者には私からお願いしておきます」
「お、おい」
「んもっ! 心理学オタクですので、楽しみにしていてください」
「なっ」
「久しぶりのお母様のご馳走、楽しみです。よろしくお願いします」
嵩旡のコトバと意思を遮りながら、勝手に進めたレイは、お辞儀。さらに嵩旡にアイコンタクト。
「よ、よろしく、お願いします」
仕方なく、会釈した。レイによる無理矢理言わせた感を、漂わせながら。
「ハハハッ分かった。母さんに言っとく」
4人一緒に校門を通過した。それをジッと見つめる目があることも、気づかずに。
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