唯ちゃんと、シェアハウスの住人(12)
ヤバい! と思ったが、もう遅い。
いきなり告白してしまう、という暴挙に出てしまった自分に動揺する。言うべき事は他にあった。例え告白するにしても、もっと違うアプローチ方法がある筈だった。それらをすっ飛ばして、自分の気持ちをただ押し付けるなんて―――きっと、一番の悪手に違いない。
しかし焦りつつも『いや、しかし本当に言いたいコトはそれだったのだ』と、妙に腑に落ちるモノがあった。
そうだ。俺は―――彼女に魅力を感じて、好きにならずにいられなかった。その事実を、そう言う俺の気持ちを、心の底では彼女に知って欲しかったんだ。そう、この告白に嘘はない。なら、変な風に誤魔化してしまわずに、このまま、ありのままを伝えるしかないだろう! ええい、言っちまえ!!
「あの、そのまま! どうか、振り向かないで聞いて下さい」
立ち上がった彼女の背に向かい、俺はそう続けた。
とても目を見て話せる事じゃない、と思ったからだ。
ああ、俺は腰抜け野郎だ。だけど自分から女性にアプローチするなんて真似、これまでした事も無かったし、しようと考えたこともない。
みっともないのは百も承知だ。でも彼女に嘘は、つきたくない。
「二、三度会って話したくらいで……って、思うかもしれません。でも俺、こんな風に女性に惹かれたのは初めてなんです。本田さん、俺のこと、どう思いますか? ああ、今そう言う意味で何とも思っていないのは、分かっています。印象って言うか……そう言う程度のことで良いんです。」
背を向けている彼女からの返事はない。
当然だろう―――きっと驚いているに違いない。だけど、これだけはどうしても言っておきたい。
「そうですよね。管理しているシェアハウスの住人、としか思っていないですよね。けど、今何とも思っていなくても―――これから向き合って貰うことは、出来ないでしょうか」
「……」
「できれば―――俺と、付き合って欲しいです。でもまず、お互いのことを良く知ってから……」
そこで彼女が振り返り、俺を見上げた。
「ありがとう」
心臓が―――潰れるかと、思った。
振り返った彼女は―――どう見ても、本田さんとは似ても似つかない、年配の女性だったからだ。ただ、皮肉なことに背格好はよく似ている。ちょうど同じくらいの背丈で、細見で華奢な体つきも同じだった。全身を覆う格好をしていたら、それこそ区別がつかないくらいに……!
目の前で、その年配の女性―――六十代? 七十代くらいか?―――が、目尻を緩めて二ッと笑った。
「……夫に先立たれて、ずっと一人だったのよ。だから、ウェルカムよ。若い恋人って言うのも、悪くないわね?」
なっ……! 告白を受け入れられてしまった……っ?!
これ、人違いなんですけど?!




