続・太っちょのポンちゃん
高校生になった本田と鹿島のカップル、そして黛の三角関係(?)にハラハラしているバスケ部員視点のお話です。
同じバスケ部の本田は、イケメンだ。
影で『王子』と呼ばれている。
本田には小学校の頃から付き合っている彼女がいる。
目立つ美人、という訳じゃないけど、ホンワカした癒し系で甘えたくなるような雰囲気がある。正直羨ましい。
ちなみに本田の彼女、鹿島唯と俺は同じクラスだ。
ある日部活の帰りに本田と歩いていると、公園で本田の幼馴染でサッカー部の黛が、本田の彼女の鹿島とブランコに乗って楽しそうに笑っていた。
本田もイケメンだけど、黛も負けず劣らずイケメンだ。
本田は背が高くどちらかというと野性的と言える精悍な容貌で、黛は背は平均よりちょっと高い程度だが、アッサリした爽やかな美形だ。二人とも外見を裏切った性格で、本田は寡黙で優しく、黛は乱暴でちょっとガサツ。
本田はミステリアスだと女子生徒の憧れを集め、黛は強引で頼りがいがありそうだと、人気を集めている。
他人事ながら、俺は焦った。
これ……ヤバいんじゃね?
ブランコを漕ぎながら笑い合う二人は、結構良い雰囲気に見える。
冷や汗を掻きそうな気持ちで、隣の長身の男を見上げる。
その表情は穏やかで、微笑んでいるかのように見えた。そこから嫉妬心のようなものは伺えない。
鉄の神経?それとも強がり?
俺がハラハラしていると、あちらが俺達に気付き手を振って来た。
それに応えて本田も手を振る。
俺たちは横断歩道を渡って、ブランコまで近づいた。
「ポンちゃん!お疲れ~」
彼女がニッコリ笑った。う~ん、癒される……。
その笑顔には全く屈託がない。
きっと彼女の気持ちには後ろ暗い処が無いからだろう。
「モック寄ってこーぜ」
黛が言うと、本田はニッコリと笑った。
本田って自信家だなぁ。と感心した。
俺だったら彼女が他の男、しかもイケメンと仲良く話していたら、小学校の同級生だったとしても面白くない。きっと焼きもちを焼いたことだろう。
それから、四人でモックに寄って帰った。
その後も結構な頻度で黛が彼女の鹿島さんに話しかけている処を見掛けた。
鹿島さんも、楽しそうに笑っている。
本田と一緒にいる時にその様子を見掛けると、俺だけが勝手に動揺してしまう。
だけど本田は素知らぬ顔で、眉一つ動かさない。
ある日部活の休憩中に本田に尋ねてみた。
「お前、気にならないの?」
「何が?」
「黛だよ。アイツ鹿島さんの事、好きなんじゃねえか?」
「うん」
アッサリと頷く本田に、ついアングリと口を開けて呆けてしまう。
「……えっ、そうなの?」
「うん。アイツ唯ちゃんの事、小五の頃から好きなんだ」
「なのに、一緒に話すの止めないのか??」
「え?なんで?」
「嫉妬とかしないの?お前。取られちゃうとか考えない?」
「んー……」
本田はダムダムとバスケットボールを体育館の床に叩きつけながら、天井を見上げてちょっと考えた。しかしすぐに俺を振り返って、柔らかく笑った。
「それは、無いかな」
何と言う余裕。
モテる男は違うな、とその時俺は大層感心したのだった。
ところが、それは間違いだった。
鹿島と俺のクラスに、大型新人が現れた。
後藤と言う転校生だ。
すぐに『ごっつぁん』とあだ名をつけられた。お相撲さんみたいにぽっちゃりした大きな体の男だったから。
「ごっつぁん、ちょっと触っていい?」
そう言って鹿島とその友達が、ごっつぁんの膨らんだお腹や二の腕を指でつつく。
可愛い女の子に触れられて、ごっつぁんはご機嫌だ。
ぷよんとした脂肪を触るのが、すぐに我がクラスのブームになった。
すると昼休み。
本田がクラスに現れるようになった。
これまでそんな事無かったのに。お昼ご飯を食べるとすぐ、俺の席まで来てチラチラ鹿島の様子を伺う。
明らかに挙動不審だ。
だけど鹿島はニッコリと笑って本田に手を振り、友達と楽し気に話し続ける。
「何でそんなにソワソワしてるの」
「え?ソワソワなんかしてないけど」
大きな体でコソコソと鹿島を見る本田は、見慣れた寡黙で余裕のあるイケメンと、本当に同一人物なのかと疑ってしまうほど落ち着きが無い。
その時ガタリと、俺の机の前に座っていた本田が立ち上がった。
「本田……?」
声を掛けるがまるで聞こえない様子でズンズンと大股で歩き、ごっつあんを囲む女子の輪の中から鹿島を引っ張りだし、あっという間に教室の扉から出て行ってしまった。
その日の放課後、練習に現れた本田に尋ねた。
「なあ、最近どうしてウチのクラスに来るんだ?」
「……」
「昼休み、なんかあったの?鹿島さん引っ張ってってさぁ」
一応俺のところに通ってくるんだから、理由が知りたい。
口の重い本田に何度か尋ねると、しぶしぶといった感じでポツポツと返事をした。
内容を総合すると。
―――どうやら、本田は嫉妬しているらしい。
誰に?
なんと、『ごっつぁん』にだ!!
「いや、無いから」
俺が真顔で手を横に振っても、本田の慰めにはならないらしい。
「俺……部活辞めて太ろうかな……」
と、トチ狂った独り言を言い出したので、全力で止めた。
お読みいただき、ありがとうございました。
唯ちゃんの好みを知り抜いているからこそ焦る本田でした。楽しんでいただけたら、嬉しいです。