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ポンちゃんと、キャビンアテンダント(1)

久し振りに追加投稿します。

ポンちゃんの同僚、同じ飛行機で働いているCAさん視点のお話です。


※負傷中のため、ちょっとずつ投稿します。

 先輩CA(キャビンアテンダント)がずっと付き合っていたパイロットと結婚したって話が、ちょっとした話題になった。何故ならそのパイロットは既婚者だったから。つまり不倫の末の略奪婚……と言うわけだ。いつもシャンと背筋を伸ばしてどんな時も落ち着いた対応をする素敵な先輩だったから―――びっくりした。え?あの人が?!って。


 一緒に飲む機会があって、だけど結婚の経緯に自ら触れようとしなかった彼女が酔った弾みにポロリと言った。




「ずっと好きで諦められなかったの。二番目で良いって思っていて。結婚出来るなんて思ってもみなかったんだけど……」




 パイロットの離婚は結構多いって聞く。夫が多忙で家を空けがちなので、妻の方が寂しさに耐えきれなくなって―――と言うのが定番の離婚理由らしい。そしてパイロットと結婚するCAって案外少ない。それにはいろいろな事情があるけど、まず同僚として仕事で接する頃には、素敵な人は既に売り切れているってのが大きいと思う。パイロットは最初地上勤務を経験するから、その間に接する職員から猛烈にアプローチを受けて結婚してしまうのがほとんどらしい。だからパイロットと結婚したければ、CAじゃなくて、グラウンドスタッフを目指すべき!……らしい。


 私はパイロットととの結婚とか考えてもみなくて、単純に子どもの頃よく乗っていた飛行機で優しく接してくれたお姉さんがカッコ良くて……と言うのが志望理由だから、そう言う事は仕事に就くようになってから知った。

 華やかそうに見えるし、合コンに呼ばれて実際モテモテ生活を満喫している同僚は確かにいる。だけど仕事なら大丈夫だけど、プライベートでは結構人見知りな私は合コンとかのノリが苦手で一、二度参加して以来かえって疲れてしまうばかりだったから、誘いはもう断っている。したがって、いまだにお一人様である。


 一人で映画を観たりカフェに行ったり、仕事で地方泊になる時にもアチコチ回って楽しめるから良いけど。素敵な先輩が秘めた恋を成就させて、世間体があるから喜びを露わにはしないけれど、ほんのり幸せそうにはにかむ様子を見ていたら……自分の中にある寂しさを強烈に意識してしまった。




 あー恋がしたい……!




 そして恋をしたい相手は―――パイロットになったばかりの本田さん。なりたてって所為かもしれないけれど、偉そうじゃなくて言葉も穏やか。盛り過ぎたお客様用のイヤホンがポロリと落ちたのを拾ってくれて「お疲れ様です」って微笑んでくれた時、ドキッと胸が高鳴って……それ以来その高鳴りが鳴りやまない。


 本田さんは背が高くてガッシリしていて男らしい。その上飛び切りの王子様みたいなイケメンで―――通り過ぎる人が振り返るくらい制服が似合ってカッコイイ。ベテランCAも初々しい彼には目を細めるし、新人CAに至っては興奮して浮足立ってしまって先輩に注意されてしまう。注意した先輩自身もブリーフィングの時なんか、機長より副機長の本田さんの方をガッツリ凝視しているくらいなんだ。


 だけど違うの。本田さんの素敵な所は見た目だけじゃない。


 『出会う時期が遅かった』―――ってよく不倫している人が使う常套句、他人事だった頃は『単なる言い訳じゃない』って笑ってたくらいなのに。今なら何となく分かる気がする。本田さんがもし私に視線を向けてくれるなら、その一瞬の為に誰にも言えない立場でも耐えて行けるかも……ううん、世間的な事も奥様の事も全て忘れて飛び込んでしまうかもしれない。それくらい、彼の目の前にいるとドキドキして胸が苦しくなる。


 もし本田さんの奥様が、寂しさを持て余すようなタイプだったら?なんて想像してみる。そしたらいつか……本田さんの結婚も良くある結末を迎えるかもしれない。


 なんて。想像だけなら幾らでも出来るんだけどな。


 胸を焦がすトキメキを、今まで直視しないようにして来た。

 だけど先輩の秘めた恋が成就したのを目の当たりにして……こんなに具体的に想像が膨らんでしまうものなんだ。


 いやいやいや……危ない、危ない。この妄想は危険……!


 一寸先は闇だから……!そんな上手く行く話なんて、ないし。大抵略奪したものは略奪されて終わるものだし……!


 ……と自らの妄想を爆発させ、その度に戒めて来た。


 だけど今、私は思いがけずブリーフィングで彼の忘れ物を手にしてしまった。

 すぐにその背を追って渡せば良かったのに。その後、機長(キャプテン)の誘いで全員でご飯を食べた時―――その時合間を見て渡せば良かったのに。言うタイミングを逃してしまった。




ペン一つくらい。




 たぶん、無くても彼は困らない。

 勿論、翌朝渡したって良い。


 だけど―――いつもはパイロットと違うホテルになるのに、今日は偶然ホテルが限られている地方泊で、たまたま同じホテルになって。


 私は今から……彼の部屋に、忘れ物を届ける事が出来るのだ。


 届ける?届けない?―――私はゴクリと掌の上の黒いペンを見て……唾を飲み込んだのだった。

ちょっとずつ続きを投稿します。

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