第8話
「あ、警護の依頼受けるんだー。はーい」
「僕たちでも受けられそうな依頼ですか」
「んー。もし誰も応募してなかったら、まあナシでいっかな―ぐらいだったし、危険なことにはならないでしょ」
「どんな人を守るのかしら?」
「えっと、ゲルっていう、王国図書館で働く歴史を調べる?人らしいよー。
死んだらここから首都までまー遠いから、戻ってくるのがめんどくさいし守るかっていうカンジ」
死んだら戻ってくるのがめんどくさい、ということは要人とは書かれてはいたけれど、登場人物ではないようだ。
登場人物ならちゃんとお金を払ってくれるか心配だったから良かった。
「明日ここに到着するらしいから、まー心の準備ヨロシクー」
「俺はゲルって言います。今日はよろしくね?」
ゲルさんは、黒髪に赤い眼鏡をかけたおとなしそうな男性だった。
「今日は俺はこの街の登場人物について調べます。それが俺の仕事」
「じゃあ私たちはそれに同行すればいいですか?」
「そうだね。そうしてほしい。あ、装備品も支給しないとね。二人はどんな風なのがほしいのかな」
「私は……ステッキってありますか?」
「あるよ。スケルトンステッキ。軽いから持ち運びも楽だし、一般人が使うにはまあいい武器になると思うよ」
「ありがとうございます!」
「僕は、盾はありますか」
「あーうん。アイロンシールドでいいかな」
「ありがとうございます」
渡された盾はずっしりと重たい。
「今日会う登場人物は、この街にいる予言者のムマハさん。
勇者が勇者であることを予言したり、魔王の復活を予言する役の人だね。
この予言者って立ち位置は、この街の60歳以上の人の中からランダムで発生する特殊な登場人物だね」
「60歳以上っていうのは、やっぱり若者が予言をしても“らしくない”からかしら?」
「だろうと俺たちは考えているよ。それに赤ん坊が予言を始めたら、勇者よりもその予言者の方がすごそうに思えるからねぇ」
「どうしてこの街からなんでしょうか」
「それは、この街の向こう側の村から、勇者が生まれてくるからだろうね。
予言者は勇者が生まれるとすぐここを出発して、その村へと向かわなければならない」
この街の向こう側の村。
僕らの村は世界の端の村だと聞いたことがある。
「それって私たちの村じゃないかしら?」
「おや、すると君たちは自分の住む地域から出てきたということかい? これは珍しいな。後で話を聞かせてくれ」
「僕らの村から勇者が生まれるとは知りませんでした」
「まあ勇者も今40歳ほどだからな。それに勇者の性格は――まあ、俺ごときがそれに言及するのはおこがましいか。
俺は次にその村へ行って、勇者の子供の頃についての話を聞く予定なんだ」
笑いながら話すゲルさん。
やっとこの仕事が終わる、という安堵と、純粋にこの仕事が好きなのだろう。
そしてそこで、僕は自分の心がそれとは対照的にとても冷たく硬いことに気が付く。
「焼けましたよ」
自分でも驚くほど冷酷な声が出て驚いた。
「僕ら以外、誰も生きていません」
僕は今どんな顔をしているんだろう。笑顔のまま固まっているといいんだけど。表情筋がこわばってしまっている。
「……そっか。じゃあ、村に行っても勇者の思い出話は聞けそうにないね。
勇者は前も村を焼いたんだ。その時は生き残りもいたんだけど」
しかし、と言葉を続ける。
「どうして始まりの村に行って、しかも故郷を焼くんだろうね。俺ごときにはわからないよ」
首をかしげるゲルさん。しかし、考えても仕方がないと思ったのだろう。
手をパンと鳴らして話題を終わりにして、言い放った。
「長話しちゃったな。いこっか。準備しておいで」