第6話
せめてもの手伝いを、と食後の片付けを名乗り出た。
しかしながら結局、セリさんもすることとなってしまった。
「エクくんはいい妹を持ったねー」
食器洗いをしながらセリさんが話しかけてくる。
話の話題のストラは食堂の方で片づけをしている。
「男の子を背負ってやってくるストラちゃんを見た時は驚いたよー。で、驚いたから声かけてみたんだけどねー。
なんかキゼツしてるし、っていうか子供二人だしねー。そりゃもうほんとにびっくり。びっくりぽん」
「助けてくれてありがとうございます。……トラウマの魔物と出会ってしまって」
「ひゃー。やっぱり魔物から逃げてきた口か。助かっただけでも良かったんじゃなーい?」
さらに食器を洗おうとして、セリさんは食器がもうないことに気付いたようだった。
二人で話しながら洗うと早いね、と笑った後、唐突に言った。
「お金、あげよっか」
「え?」
「さっきさ、言ってたじゃん。登場人物をぶっ潰すって。
こんなとこでわたしがだらだらお金使うよりも、キミたちにあげた方が――将来のわたしは幸せになるんじゃないかな?」
将来のわたし?
セリさんは死ぬことをどうしてそんなに確定的に考えられるんだ。
「あー、んー。幸せになる前の私には怒られるかも。何お金なくて餓死させてんだ、ばかって。
でも、わたしに積み上げないでキミに積み上げたら、ってゴメンねー。重いよねー? ジブンカッテ」
この人は自分の生を諦めて、希望を人に託そうとしているのか。
「このわたしが何かを残せたら、って思っちゃったり。オコガマシーね」
どうせ死ぬのに、なんて言わないでほしい。
やめて、やめてほしい。やめてください。
「生きるって言ってください」
どうせ死ぬからなんだ? 生きるから死ぬんだ。だから生きてください。生きて。
「生きないで死ぬことは、消えるっていうと思います。
僕はあなたに、諦めたまま存在するのではなく、生きてほしいと、押しつけかもしれないけれど、思います。」
「……生きたら死ぬもの。じゃあわたしは、何も残さず消えたい」
「あなたは、さっき積み上げようとしました。僕に積み上げていいです。全然重くない。大丈夫。
だからあなたもその、心の奥の想いに向き合って、認めてあげて」
僕がここまで口出しをしていいのか。
生きようとすることは苦しいかもしれない。
登場人物は強い。彼らが死を望めば、生きたくても、生きることは叶わないだろう。
でも、僕らだって、生きていいはずなんだ。
「……そうだね」
僕はそのあとストラに呼ばれてすぐキッチンから出ていったけど、そのあとあったセリさんの目は少しだけ腫れていたような気がしたから、泣いたのかもしれない。