第1話
村の外に一歩出ただけでもそこは新しい世界だった。
草の感覚、土の硬さ、今まで気にも留めなかったものが新鮮に感じられる。
「どこ、いこっか」
ストラが僕に尋ねてくる。
僕だって村の外に出たのは初めてだ。村の外の事なんてよくわからない。
ふと、父親と昔話したことを思い出すを思い出す。
『ルリ山のほうに歩くと、すっこしデケえ町がある。俺はそこへも武器を仕入れているのさ。お前も大きくなったら、連れてってやる』
「ルリ山の方、街があるってお父さん言ってたよ」
『まぁ、お前が道中のモンスターをばったばった切り伏せられるようになってからだけどな!』
記憶はないけれど、知識として僕は知っている。
僕は二人目で、一人目は父とその町へ行く途中に魔物に殺された。
「死ぬかもしれないよ。やっぱ、ストラは戻って村で新しい皆と暮らした方がいいかもしれない」
「エクはいつもいらない気を回すのね。どこにいても死ぬよ?」
彼女は腕に抱き着いてきた。
震えを抑えるようにギュッと力が強まる。
「私は、エクの傍で死にたい」
彼女は一人目だ。
そして、前の僕がいなくなって、僕が現れることも経験している。
死が怖いのかもしれない。いや、怖いだろう。
「……分かった。いこう。一緒に」
歩みだす。が、ストラは歩みださない。
振り返ると、必死に、涙をこらえていた。
「あのねあのねっ
私のこと、死んじゃっても思い出してねっ
今頃村でのんびりやっているんだろうなあとか、幸せなんだろうなあとか思ってね!
戻ってこなくていいから! エクは自分の道を行ってねっ」
それだけ言うと、彼女の頬にぽろっと涙が零れ落ちた。
「な、なんで泣くの」
「ごめん、足手まといとか、いろいろ、ごめんなさい」
「僕だって足手まといになるよ。二人で支え合おうよ」
謝り続ける妹を連れて歩き出す。
朝日が昇ってくる。
武器屋の息子と娘を失ったあの村は、これからどう回っていくのだろう。