5:標的は、こいつです。
この作品はフィクションです。
「なんだよこのデータ。全然出来てねぇじゃねぇかよ。」
「え?いや、先輩がその形と項目で作れって…」
「はぁ?俺が?んなこと言わねぇよ。お前さ、なに自分の間違いを俺のせいにしてんの?」
「いや、だって…」
「じゃあ証拠出せよ。俺がそういう風に言ったって証拠をよ。」
「………。」
「いいか?なんかミスが出たらな、客に文句言われんのは俺なんだよ。俺が責任負わされてんだよ。愚図のお前に責任が取れんのか?あぁ!?」
「……………。」
…最初のターゲットは、あいつ。私の、元先輩社員。
ま、わかりやすいわね。他人を暴言と圧力で支配する暴君タイプ。
責任取るのは俺、とか言ってるけど、結局ミスした人に責任なすりつけるし、証拠出せ、とか言ってるけど、証拠を作らせないために口でしか説明しない。指示する立場なら、しっかり指示書作って作業指示するのが当然でしょ?
要するにこいつは、他人を怒鳴り付ける口実が欲しいだけ。あいてが怯える顔を見て、強者の気分に浸りたいだけ。
………ムカつくわね、ホント。さて、どんな悪夢を見せてあげようか…?
ゼルフに与えてもらった悪魔の能力は、変身、傀儡、吸精、とか。その中で、私が特に使えそうだと思ったのが、悪夢。
その名の通り、対象に悪夢を見せる能力。たかが夢と思うなかれ。強力な悪夢は精神を破壊し、場合によっては脳死に至らせることもある。悪魔が意図的に見せる悪夢は、凶悪な攻撃手段なのだ。しかも、相手が寝ていない時は、強制的に眠らせる事も出来るという、なんとも都合の良い能力。
私は音も無く飛び立つと、奴のスーツの襟首にとまった。
さて、まずは…。
「!…………」
「………?…あの?」
「いいから、ちゃんと、仕事、しとけ。ちょっと、出かけて、くるから。」
「は、はぁ…。」
急に、操り人形のようにギクシャクした動きでオフィスを後にするターゲットを、ポカンと見送る後輩。まぁ、今まで怒鳴り散らしてた男が急にこうなったら、そりゃ驚くだろうな。
これが、傀儡の能力。短時間ではあるが、対象を自在に操ることが出来る。悪魔って便利だなぁ、ホント。
道中、特に問題無く(何度か不思議そうな目で見られたものの)たどりついたのは、屋上。この時間帯、ここなら、滅多に人は来ない。
念には念を入れて、貯水タンクだかなんだかの陰へと移動させ、横に寝かせる。
これでよし。
…さぁ、始めるとしましょうか。
『………ん、…!?』
夢の中で目覚めた暴君男。驚いた顔でキョロキョロしている。まぁ、そうなるだろうな。今までオフィスで威張っていたはずが、何故か真っ黒な壁に囲まれた無機質な部屋の中にいるんだから。
『………。』
冷静に状況を理解しようとしてる。超無言。つまんない。なんかしろ。
『………(ぎゅうっ)。』
あはははははは!頬つねりやがった。やっぱりやるんだね〜。
『………ふぅ。』
痛くないから、これは夢。そう判断してホッとしてるみたいね。…でも、ホッとしてる暇はないわよ。
悪魔の悪夢は、ハンパじゃないから、ふふふ…。
次回、残酷描写ありかも(¨;)