新しい仕事
あれから、4年が過ぎた。
まだ帰れない。
今日も冬の寒さとともに美しい朝焼けが広がっているのを深呼吸して確認する。
「さーて支度して今日も配達だ・・。しろー!」
私は朝ごはんの準備とともに飼っている猫の名前を呼びながら、仕事へ行く準備を始める。
現在の私が行う仕事は配達だ。こちらの小型飛行機のような飛行艇のようなもので各地へ物を運ぶ。
あれから4年。私は一人でこちらの配達を請け負う仕事をする人たちが集う中継の村の一つに住んでいた。
1年と少し前彼らとは違う道を選んだのだ。主に私が精神的に耐えられなくて。
同じ世界からきたという繋がりが私たち、主に私と3人を結びつけたが、1年がたち、こちらの世界にも慣れ、いくら考えても帰れない、どうやって帰っていいのかわからないことにみんな疲れていた。
一番初めはとにかく生活をしていかないとならないため、考えに考え、ある商店に品物を持ち込んだのだ。違和感なく価値の高そうなものを。細かい刺繍がほどこされたハンカチだった。
その刺繍がこちらではみない図柄と細かさであったため、高く売れた上に作り方も聞かれた。こちらでお金になることがわかり、刺繍を請け負うことになった。
基礎だけは私が知っていたためなんとなくこんな感じと夏さんに教えたところ、センスの良い図案と私にはない細かさですぐに夏さんのほうが上達し彼女がほぼ請け負うことになった。
他に仕事を探していたところ、最初にもちこんだ商店はわりと大きい商店の支店のようなものだったらしく刺繍を気に入ったようで、また他にもアイデアで商品を少し便利もしくは高級にすることで使えると判断されたらしく、そちらでの下働きを紹介された。
また売ったお金でパンを買い、そこのパン屋で新しい種類のパン、サンドイッチを教える代わりにそこのパン屋での手伝いも得た。少しずつだが、元の世界での知識(といっても専門的ではとてもないのでアイデアというべきだが)をもとになんとか仕事につなげ、まかないをもらえるからとおもに食関係のところをすこしづつ開拓しなんとか衣食住を定期的に確保したところで、少しずつたまっていたお互いに対する不満が表面に現れてきたのだ。
刺繍を主に請け負ったことで夏さんは私に対してそのほかの仕事をすべて回すようになった。私自身は確かに刺繍の仕事はしていないが、他に働きに出ており住んでいるところの家事や水汲み、掃除などは共同でするという話し合いであったが「急ぎの仕事だから。」「手がけがするから」などの理由を押し通し、私に対し「彼女ならなれてるから」と他の二人が手伝おうとするのを嫌がった。
また夕飯でそろった時にも主な話題は3人の昔のころの話を夏さんが必ず話はじめて、ここに来るまで他人だった私には相槌さえ打てなくなんともおいしくなくなる夕食が続いた。
海や和人さんはさすがに夏さんの態度をいさめたが、夏さん曰く幼いころから仲良くいつも自分を優先させてくれた彼らから注意されたことで、ますます意固地になった。
ここまでこじれる理由はわからなかったが、私が最後に言われたことでなんとなくわかった。
「話があるの」
ここのところ、ますます手がつけられなくなり、もうほとんど話していない夏さんからいわれたのは、もうここから離れようかなと思い、今後を模索しているときだった。
「海のこと好きかもしれないけど、海が好きなのは私だから。海も和もあなたに気を使っているだけだけだから。勘違いしないでほしいの」
夏さんは「それだけ」といって去って行った。
日々生活していく中で、私自身がよく話し、3人のなかでは一番一緒にいて心地よかったのは一番初めにあった海で確かに好意をもっていた。いうつもりはなかったが、海と話しているときにふとしたことで言ってしまい、海は困った顔をしたが、一緒にいて心地よく楽しいが、恋愛感情かといわれると悩むと伝えてくれた。また夏さんに対しては恋愛というより家族のような感じで、ちょっとわがままだけど大事なんだということも教えてくれた。
「わかった。ありがとう。」
「いや、ごめん」
そんな会話で終わり、二人は知らないはずだったが、なぜかそのことを夏さんが知っていて、これまた口をだしてきたことにもううんざりだと私の中でここを離れることを決定した瞬間だった。
離れることにはためらいもあった。もし帰れたら。その思いがずっと頭の中にあったからだ。でも考えれば彼らとは時間差もありついたため一緒に帰る可能性は少ないかもと自分を納得させた。
考えていた新しい仕事、配達の仕事には試験があり、気球に乗っていて、航空にも興味があった私は、なんとか合格を勝ち取りその日、私は3人にここから離れる旨を伝え、海と和人さんは再三とめてくれたが、次の日でていった。
もう1年半前の話だ。
「おはよう。今日はでるのか」
つらつらといままでのことを考えながら整備をしていると近所に住んでいるおじいさん、ジャンさんから話しかけられた。私がこの仕事を知ったきっかけになり、希望したときに「話聞いてる限り適正はいけるだろう」と幼少のころから空を飛びその高度にならすため、代々一族で受け継いでいるがために、めったに外の人間は入ってこれないこの仕事を掛け合ってくれた恩人だ。
今はジャンさん夫婦そろって、尊敬する先輩でもあり、茶飲み友達でもある信頼している方だ。
「おはようございます。はい3区のほうまで」
「3区か、今日は天気は大丈夫そうだが、風の流れがそっちだときついかもな。きをつけろよ」
「ありがとうございます!行ってきます」
最終点検が終わり、荷物をのせて私は空へと飛び立った。