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ここどこ?

「ここどこ?」

見渡す限りの草原の中私はつぶやいた。



その日、私は午前中だけの授業を終えて、自転車に荷物をのせて走っていた。

学校が終わったその足で、気球に乗りにいくためだ。

数年前に、気球に乗るという憧れていたチャンスにめぐりあえ、すっかりとりこになった私は、平日はバイトにはげみ、長期休暇にはサークルの仲間と一緒に渡良瀬川流域を早朝から飛ぶことにしていた。

今日は、そのまま現地に向かうつもりで、着替えやら防寒具やらがはいったバックを愛用の折りたたみ自転車にのせ、駅までの道を走っていたのだ。

曲がり角を曲がったところで、確かに青だったのに、自動車と接触をおこし、後の記憶がない。

目覚めたら今の場所にいた。


「なにがなんだかわかんない・・。けど、とりあえずここはどこなんだろう?天国?地獄?」

しばらく呆然とその場所に座っていたが、とりあえず身をおこしあたりを見回した。

すぐそばに愛用の自転車とバッグがみつかり、正直ちょっとほっとした。

それから自転車をおこすとしばらくあたりをうろついてみることにした。


どうもここは森の中で、たまたま私がいたところは開けていたが、四方八方は深い森に囲まれていた。いつもかばんにいれている方位磁石をとりだすと現在の位置を確認してみる。

とりあえず、正常に動くようだ。携帯は圏外であったが。

戻ってこられるように、木に目印をはりながら、奥へ進むと小川にでてその先に湖があった。あまり大きくないが、水は非常に清んでいて、きれいだった。

本当はもう少し散策したかったが、街頭もないこの場所で陽が落ちていく今動き回るのは、危険だと判断し、この湖ちかくでキャンプをすることにして、散策は明日にまわすことにした。

さいわい、小学生のころから、天文部に入り(別名アウトドア部ともいう)キャンプは慣れており、気球に乗るようになって、更に進化した。父は普通のサラリーマン兼変わり者の植物オタクで徹底的に英才教育という名の強制学習を受けていたため、小さい頃は何度も逃げ出そうともくろんだが、夕食がなくなるため耐えたものだった。日常全く役にたたない知識であったが、今こうして使えるということで、人生に無駄ってないんだなあとぼんやりと考えた。

また、ラッキーだったことに、多少であったが、キャンプ道具があり、着替えや防寒具、最低限の備えもあったので、とりあえず、なにかが起こらなければ、この森で夜を過ごすことに不便はなかった。

もともと、あるものでなんとかするという方針のキャンプだったので、多少の不便は問題なかったからだ。


風向きを考え、夜にならないうちに火の準備にとりかかる。万が一襲われないように、寝ることはできないが、そのまま行く予定だったので制服のなかはかなりの厚着でレギンスもしっかりはいており、今現在気温がかなり下がってきているが、まったく問題ない。(すごいな〇ニクロ)と某メーカーに感謝しつつ簡易バケツに水を汲み、火にかけ、お湯をつくった。そのお湯にタオルをひたし、顔やよごれた手足をぬぐう。ただそれだけのことなのに、お湯の温度で心が一息ついた。

空をみあげると、ちょうど夕闇がおとずれあと数刻で夜になるところだった。空は日本とかわりなく、雲の形も同じだった。

「ほんとここどこだろう。」またつぶやいたが、答えはなく、暗闇が辺りを覆った。


火花が散る音だけが、静寂の中に響いた。この目の前の明かりしかない真っ暗闇はちょうど気球にのって夜をむかえた状況に似ていた。風の音だけが、響くおそろしくも美しい暗闇の世界。普段完全な夜にならない今の世界で、飛んでいるときだけが、手元の光以外ほぼ真っ暗な世界を体験することになる。

はじめは、こころぼそかったり、こわかったりしたのだか、自然界ではこれが普通で、私たち人間の世界が明るすぎるのだと知った。真っ暗な中での視覚のきかない世界では聴覚が重要になる、自然と耳を風に傾け、唯一の月や星で方角を知り、鍛えられていった。

とりあえず、明日の予定を考える。夢落ちならよいと思うが、擦り傷からいって現実な気がした。



朝日が昇るのは東からだった。ゆうべはラジオもつけてみたが通じず、ただひたすら防寒具にくるまり、火の側でうたたねしながら夜を越した。

今日はなんとかしたかったため、朝日が昇るのと同時に片付け、小川の側伝いに歩くことにした。基本町があれば、下流につくるだろうと、日本での常識を総動員して考えた末の結論だった。道は舗装されていないので、一応MTB使用だが、自転車を折りたたみ、カートのようにして荷物を乗せ、歩きだした。折りたたみ自転車に手を加えてつくりあげた自慢の愛用品だ。

しばらく歩くとまたひらけた場所にでたが、そこには何もなく、一時休憩をすることにした。昨日の残りのサンドウィッチを悪くならないうちに食べようと水筒と一緒にだして食べ始めたとき、川の向こうに人影がみえた。

大急ぎで飲み込み、とりあえず様子を伺うために木の陰にかくれながら、双眼鏡をとりだした。

痩せ型の170センチ以上はありそうな男の人で、軽く足をひきずっていた。髪は黒、高校の制服のようなものを着ていた。それをみたとたん、私はとびだして手をふった。なぜなら彼は通っている学校と同じ制服をきていたからだ。

「あのーすいません」

声をかけたが、川向こうの人はこちらにきづいていないようだった。しょうがないとそこらにある丸い石をひろい、三段投げをその人にむかって投げた。どうやら水を飲みにきたらしいその人は飛んできた石にびっくりしてみがまえたが、私の姿をとらえると呆然とした様子でこちらみていた。

「すいません。あの」

身振りでよびかけるとはっとしたように確認し、声をかけてきた。

「えっと日本人? その制服、同じ学校?」



川に挟まれていたが、狭くなっているところを私が石の上をとんで渡り、合流するとかれは、目を丸くして私をみていた。おだやかな整った顔立ちであったが、その顔色は悪く、格好は制服のみで、薄かった。あちこちに泥がついており、足は血がにじんでいてひどく疲れきった様子であった。

お互いに自己紹介をする。

「遠野凪です」 

「榊原海だ」

「どうして・・」

ユニゾンで疑問の声をだす。私は自分の事情を話すと、彼は同じように話した。

やはり学校の帰り道で、気づいたらここにいたようだ。また、彼の他に一緒に帰っていた幼馴染の男女があとひとりずついて、最悪なことにきづいたときには場所に泥があったことと、おりかさなるように倒れていて一番下敷きになったもうひとりの男の人が怪我をしたこと、夜が寒すぎて、かばん以外なにももっておらず、置いてきたふたりとも熱をだしていることがわかった。比較的怪我が軽かった彼がどうにかしようと偵察しにきたのだという。しかもここまでくるのに3時間以上かかったそうだ。ちなみにここに、きたのは彼らは2日前とのことだが、日本での記憶している日付は私と同じであった。時刻も一緒だ、何か時間のパラドックス的なことがおこったらしい、

「怪我が軽いって榊原さんもけっこうひどいですが。しかも熱もありますよね」

わたしは、血が制服についている足をみて、そういった。彼の顔色は近くでみるとより悪く、唇も青かった。とりあえず、手当てをしなければ。わたしは彼を促し、乾いた石の上に座らせた。そんな私をみて苦笑した彼は肩をすくめた。

「海でいいよ。タメだろ。たしかに傷はあるが、和はねんざか骨折がしていて立てないんだ。夏も上着がなくて薄着すぎてひどく熱がたかい。俺が一番ましだった。きみにあえてよかったよ。」

私の作業をみながら彼はため息をつく。

「すまない、ありがとう」

川から水を汲んできて、昨日使ったたきぎで小さく火をおこす。

「悪い。はやく二人の下にいって手当てしてほしいんだ。」

海は私を促した。様子を聞いてわかっているが、彼は自分のことがわかっていない。客観的にみて、怪我はひどい。化膿してしまっているし、着てる洋服もひどい。着替えがなくこれを着ているのは仕方ないが、熱が上がるだけだ。

「気持ちはわかります。でも今あなたの状態をどうにかしておかないと、わたしは今夜怪我人三人みることになる。あなたの傷もひどいのです。今手当てしておかないと、傷がひどくなって、熱もこれからさらにあがるでしょう。まだ日が昼前です。一時間以内に準備していきましょう」

しゃべっている間に水をくんできて火にかける。その間に、温かい飲み物とサンドイッチの残りを手渡す。彼はそれをみると私に食べていいのかを確認し、むさぼるように食べだした。

「薬のアレルギーありますか?」

「いやないけど」

二日ぶりの食事でやっと温かいものを食べた彼は人心地ついたらしく顔が少しゆるんだ。

そのまま薬と水を手渡す。抗生剤と胃薬だ。

「抗生剤と胃薬です。飲んでください」

「ありがとう・・。」

その間に火にかけていた水が沸騰した。半分は傷用に半分は身体を拭くように分け、荷物からジャージをだした。(Lサイズでよかった)

普段、SかMサイズなのだが、夜寝るパジャマ代わりのジャージはゆったり寝れるように大きめを選んでいた。肌触りとあったかさ重視のため、かわいくもないジャージだが、彼には少し短いぐらいですむだろう。

「足だしてもらえますが?」

彼は無言で足をだした。傷にまいてあるハンカチをそっととり、状態を確認するが、やはりひどい。傷の周りの汚れをとったあと、飲料水をかけ傷を洗う。

「うっ・・。」

彼がうめくが、心を鬼にして無視し、洗った傷口へ大量に消毒液をかける。そのあと、ガーゼをつけ包帯をまいた。

少し涙目の彼が落ち着くのを待ち、Tシャツ、ジャージとバケツを手渡す。

「とりあえず、このお湯のタオルで身体とかふいてこちらを着てください。傷にさわらないようにしてくださいね。ぬれていたら、かぜが悪化するだけです。下着もぬれていたら脱いでください。はずかしいとかいっている場合ではないので。」

「…わかった」

「おわったら声かけてください。」

そういうと私は少し離れて反対側を向き、折りたたみ自転車を元の状態にもどしはじめた。彼の怪我はみかけよりひどく、歩いたら傷がひろがるだろう。しかも三時間もかけてここにきたといっていたが、熱が上がっている今はもっとかかるに違いなかった。自転車の荷台に彼を乗せたほうが、まだ速そうだ。

折りたたみ自転車であるが、性能はMTB使用のため、舗装されていないところを走れるタイプだ。実際キャンプにもっていくぐらいだ。通常は荷台がないが、買い物に不便なため、色々お願いして、改造してあるので、荷台がわりのものはつくれた。

「悪い。終わった。」

声をかけられてふりむくと所在無さげに着替えた彼がたっていた。やはり全体的に短いが、まあさっきよりましだろう。足をみるとはだしに靴を履いていた。

「そっか靴もだめか・・」

「いや靴ぐらい大丈夫だ」

「足元から冷えるんだよ。っていうか足さえあったかかったら上が薄くても問題ないんだから」

私は荷物をあさると靴下とレッグウォーマーとスリッパをだして足もぬぐってはきかえるよううながした。

「しかしこれから歩くから「大丈夫。あなたは自転車の荷台に乗っけていくから」

「えっ・・。しかしこれ折りたたみ自転車だろ?道は舗装されてないし、荷台って・・。」

「大丈夫だから、はやく支度してね」

彼に押し付けるように渡すと、バケツに汚れた服をいれ水をくんでまだ残っている火にかけた。さすがに洗剤はないし、石鹸も小さいものしかない。水で洗うよりはやいだろうし、よごれも落ちるはずだからだ。うえに乾燥ハーブをいれて汚れを落とすようにする。

そのあいだも自転車を組み立て、荷物を布にまとめて簡易リュックにする。

「何か手伝うか?」

はき終わったかれは私の様子をみながらいったが、今のかれにうごきまわられても傷がひらくだけだ。座っているように指示した。熱があがってきているようで、かれはもうしわけなさそうにしていたが、とりあえず火の近くの石の上に座った。ジャージに着替えたがおそらく今の彼にはそれだけじゃ寒いと思い、毛布をぐるぐるに彼にまいた。どちらにせよ荷物を本来なら荷台にくくるはずなのだ。そこに座るかれにもってもらうしかない。

一石二鳥だ。

洗濯を終えると火の前にに干し、ざっと乾いたら出発することをつげる。なぜ乾くまでまつかというと、おそらくまっているふたりもかれとおなじような状況だとすると、着替えが必要だが、あいにくそんなにもっていない。ましてやLサイズは彼に渡したジャージのみだ。かといって、泥だらけずぶぬれで乾燥した状況は具合が悪くなる一方だから着替えが必要。つまり彼の服が乾けばジャージを渡せるからだ。

彼にはそのように説明し、納得がいったのかうなずくと毛布に身をつつまれ、安堵感からか、うとうとしはじめていた。


思ったより乾くのに時間がかかりそうだった。大体かわいたが、まだしめっている。しかし、これ以上は得策ではないと思った時間に彼を起こし、火をけして、荷台へ乗せる。足はつかないように置き場をつくり、リュック上にした荷物をもってもらった。

「大丈夫?」

「ああ、問題ない」

食事をして服を着替え、少し寝たせいか彼の顔色は少しましになっていた。薬もきいているようだ。

「しっかりしがみついててね」

腰に手をまわすようにうながし、「ではいきますか」とかれが指す方角へ自転車をこぎだした。



とちゅう休憩をはさみ、かれがいう目的地へ2時間でたどりついた。私たちがいた川の支流らしく、さっきより川幅がせまかったが水はすんでいた。

「二人はどこに?」

彼に聞くと、この少し先にある木の下にいるはずだといった。方向をかえてそこまで進むと彼がいっていた大きな木の根元に身を寄せ合うように人がいるのがみえた。

「和人、夏」

かれは大きい声で叫んだ。すると男の人のほうが、こちらに気づき、手をあげた。自転車でそのまま近づくと、女の子もやっと気づき顔をあげる。

二人ともかなり具合が悪そうだった。

「はじめまして。遠野凪です。状況はわかりませんが、気づいたら私も昨日ここにいました。とりあえず説明は後にして傷の手当と着替えをしないと。」

そういうととりあえず薪の準備をし、火をおこした。さっきと同じ要領で、幸いこちらも近い場所に川があったので水をくみにいき、火にかける。けが人、病人が三人もいたら、今日はもううごけないだろうと、簡易テントの準備をした。そのあいだ、海にいってふたりに水筒の温かい飲み物とパンを食べてもらい、薬もアレルギーがないのを確認し飲んでもらった。二日間、水以外口にしていないとのことで、二人とも熱があったがどうにかごはんは食べれたようだ。お湯が沸騰し、火をかけてすぐにかわかしていた海の洋服も完全にかわいたため、海には自分の服を、和人くんには海が着ているジャージを身体を拭いて着替えてもらった。夏さんには簡易テントのなかで私の着替えとお湯とタオルをわたし着替えてもらった。

「どこがどういうふうに痛みますか?」

着替え終わってほっとして顔が緩んだ和人君にきくとどうもねんざより骨折か骨にひびかの状態であることがわかった。とりあえず現状できることは、しっぷと添え木ぐらいだ。とりあえず手当てをして、そのまま今日のキャンプの準備をいると時刻は夕方にさしかかっていた。簡易用テントは本来二人用で倍の人数寝るにはかなりきつい。しかし、空をみあげたら、夜にもしかしたら雨が降るかもしれない様子にかわっており、仕方なかった。ただ、毛布がたりないのでせまいところのほうがあったかいかもしれないとおもいなおした。

「火の番は私がしますので、とりあえずみなさんは寝て熱をさげてください。」



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