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文芸部の日常  作者: 太一
文芸部、始動
8/8

文芸部、活動する

またまた遅くなってしまいました。

申し訳ありません。


さてさて、今回から本格的に文芸部が動き出すみたいです!

 目覚まし時計の音で目が覚めた。

 寝起きはあまりよろしくない。何故か。昨日の最高気温は32度、そしてその気温を保ったまま夜に突入してしまった。つまるところ、あれだ、熱帯夜というやつだろう。まだ六月の半ばなのに、なんだこの異常な暑さは。おかげで夜は全く寝付けない、ようやく眠れたこと思えばすぐに目覚まし。これでちゃんと寝ろという方が無理だ。

 寝汗でべっとりになってしまった寝巻きは洗濯機の中にいらだち紛れにぶち込んでおいた。冷たい水で顔を一気に洗う。少し目が覚めただろうか、いやダメだな。目の下のくまはここ最近ずっとひどい。そりゃあ、眠れてないのだから当たり前だが、それにしてもなかなか酷いとは思う。寝ることすらロクにできないというのはなんとも省エネ精神に反することだろうか。さらにこうも朝から暑いのでは朝ごはんも喉を通らない。おかげでまた二時間目くらいにお腹がすくのだろう、悪循環以外の何物でもない。はぁ、至って省エネじゃないなぁ。




 制服の衣替えはもう済んでいる。が、半袖のポロシャツでもこの暑さでは全く意味をなさない。いつも通る通学路を自転車で駆け抜けるだけでも、背中に薄くシャツが張り付いてしまう。だが、しかし女子とはなんとタフな生き物だろうか。この上からなんとサマーセーターを着ているのだから。ありえない。日焼けと暑さどっちを取ると言われれば俺は間違いなく後者だ。まぁ、それは男子と女子の価値観の違いなのでいくら俺がそう考えたところで何一つ変わることはないが。

 がっくりとうなだれた様子で教室に入る。クラスのやつらとの挨拶もそこそこに、無愛想なやつだと思われるかもしれないが俺にはこれが限界だ。ただでさえ省エネできていないのにこれ以上無駄なことに力を率先して注ぎたいとは思わない。いや、挨拶が無駄なことだとは思わないが、せめて情けが欲しいところだ。

 「おはよう、要、って死んでる」

 「あぁ、死んでるからそっとしといてくれ。俺はもう限界だ」

 「限界って、まだ授業ひとつも終わってないよ、どころかホームルームすら始まっちゃいない。さすが要だね、ここまで弱いと情けなくなってくるよ」

 「もう何とでも言ってくれ」

 ははっ、とけらけらと笑いながら自分の席に戻っていく涼太。なんであいつはあんなに元気なんだ?今度暑さに負けない方法でも聞き出してみようか。

 と、そうこうしているうちにチャイムが鳴った。ホームルームだな。当然ながら、俺は机に突っ伏したままだ、当分起き上がれそうもない。




 さて、現在時刻は15時40分。暑さは色濃く残っている。

 一般に、一日の暑さのピークを迎えるのは午後2時頃らしい。正午にいちばん高くなる太陽の出す熱が地表にたまり、反射するのがちょうどそれくらいの時間なんだそうだ。一時間程度過ぎたくらいでは一向にこの暑さから逃れることはできない。さて、すぐにでも家に帰りシャワーでも浴びてさっぱりしたいところだが、あいにく外の天気は晴れ。こんな中外に飛び出してしまっては瞬く間に溶けてしまう。いや、比喩ではなく。ほんとに冗談じゃない。というわけで、必然的に俺の足はいつもの部室へと向かうことになる。日が傾くまで部室でだらだらとしているのがいちばん効率がいいだろう。今は本を読む集中力すら無いからな。

 横開きのドアを開ける。おっと、全員集合。どうやら俺は一番最後らしい。

 「遅い!!なにやってたの?」

 む。なんだ?いきなり怒鳴られるようなことを俺はしただろうか。

 「今日はみんなで話し合うことがあるからすぐ集合って話だったじゃない。それなのに、10分も遅れるなんて」

 しまった、あんまり暑いから人の話は半分に聞いていたせいだ。昨日そんなことがあったかもしれない、ふむ、今冷静に思い出してみれば昨日も全員が集まっていた。

 「あー、すまん」

 「ホントにもう!」

 「まぁまぁ、未奈さん。要さんも悪気があったわけじゃないんですから」

 「しかし、記念すべき文芸部初めての公式活動に遅れてくるとは、さすが要だね」

 ん?記念すべき?初めての公式活動?

 「涼太、どう言う意味だ?」

 「あんた、それも覚えてないの?逆にすごいわね」

 そんなに褒めなくても・・・・・・違うか。

 「今日は、文芸部の活動方針と具体的な活動内容を決定しようという話でした。このまま、何も目的としないというのは不毛だという判断です」

 さいで。

 頷きながら、席に着く。ふう、暑さの弊害はこんなところにも出ていたらしい。

 「では、全員揃いましたので、始めましょう!」




 正直な話、気乗りしていない。俺にとって今までの文芸部は非常に居心地のいいものだった。その理由は・・・・・・まぁ、語るまでもないだろう。とどのつまり、楽だから、だ。目的もなくただ漫然と時間を過ごすだけ、形だけの部活ではあったが俺にとってはそれなりにウェイトを占めるものだったと言っていい。

 だが、ここに来て活動方針を決め、さらに具体的な活動内容まで決めるとなればそれは崩壊する。俺の大切だった部活は別のものへと変貌してしまう。まぁ、こんな大げさに書いてはいるが実際なくなってもたして困らないのだろうが。そんなものだ、俺にとっての大切なんて。新しい部活に興味はあるが、積極的に参加したいとは思わない。無論この部活に所属している以上は不可能な話であり、このメンバーに囲まれている今では荒唐無稽な話になっているだろうが。それでもいつも通りやる気は起きないだろう。

 「まずは活動方針ですね。過去の文芸部が何を目標にしていたかわかれば話は早いんですけど・・・・・・」

 「まぁ、それは無理だろうな」

 「はい・・・・・・」

 「え?なんでなんで?」

 「ん、夜守、お前日暮に話してないのか?」

 「・・・・・・」

 ・・・・・・む?なぜそこで黙るんだ?俺今なにかひどいこと言ったか?ちらりと横目で涼太を見ると、大げさな演技で首を横に振りやれやれといった表情をしている。なんだというのだ一体。

 「日暮、実はこの部活は・・・・・・」

 あれ、日暮まで黙り込んでしまった。まだ遅刻したこと怒ってるのか?・・・・・・あ、そういうことか。

 「悪かった、結希、未奈」

 にこりと満面の笑みを見せる二人。まったく、素直に口で言えばいいものを、手間をかける。

 「決めたじゃないですか、要さん」

 「ホントにね。頭のネジ抜けちゃってるんじゃあないの?」

 あははと笑う未奈。こいつは意外と笑い上戸なのかもしれない。

 「それで、結希、お前は未奈に話してないのか?」

 「そういえばお話してませんでしたね、もっと早い時期に話しても良かったとは思います」

 「なになに?」

 長々話されるのは嫌いなので、俺が要点だけまとめて話した。

 「この文芸部は、去年で廃部になる予定だったんだ。去年の卒業生が最後の入部者だったんだよ。つまり、部員がいなかった。それが今年になって俺ら5人が一気に入ったわけだ。」

 「へぇー、そうだったんだ」

 「ちなみに、その時まであっただろう活動記録みたいなものは、新年度と同時に処分してしまったらしい。俺らに昔の活動を確認する術はないっていうのが今の現状だ」

 「なるほど」

 「お前には一度話したろう、涼太」

 「いや、また改めて聞くとね。今年って珍しい年なんだなって思う訳だよ」

 涼太の言う通りである。廃部がほぼ確定した部活に新入部員が5人とは、なかなか驚異的な数字だ。

 「でも、それじゃちょっと面倒くさいわね。あたしたちで一から考えなくちゃいけないってことでしょ?」

 そう。俺の気乗りしないもうひとつの理由はこれだ。活動方針と活動内容の決定、これはいわばこの文芸部を活動のレールに載せるということだ。それも一から。まったくもって面倒、昔をなぞらえることがどれほど楽かというのがよく理解できる。そもそも、俺に最初から物事を立ち上げようとする気合があるわけがない。スタートし始めたマラソン大会に遅れて自転車で参加し、何事もなかったかのようにすんなりと周りに溶け込むことを得意とする人間がするようなことではないのだ。

 と、ひとりごちていると、

 「要さんは、なにかこの部活でしたいこととかあります?」

 いきなり俺か。ふぅ、やりたい事と言われても困る。何回も言うが俺はこの部活に活動を求めていない。安穏たる放課後を落ち着いて静かに過ごすことができればそれで十分なのだ。もとより何かを目指すわけでもない、無色な俺に期待してはいけない。

 「結希さん、要にそんなこと聞いても無駄だよ。なにせ、堕落を絵に書いたような奴だからね」

 む、ああは言ったが、別に堕落している訳ではない。ただ単に、エネルギー消費の少ない日常を送りたいだけだ。俺のポリシーに堕落は入っていない。

 「失敬な。お前は俺のポリシーを知ってるだろうが」

 「あぁ、そうだったね。ごめんごめん、堕落はちょっと表現が違うか」

 「なに?要のポリシーって」

 そういえば、こいつには話してなかったか。まぁいいちょうどいい機会だ。俺がどういう人間なのか知っておいてもらうのも損ではないだろう。

 「黒ではなく白でもない、熱血ではあらず冷徹でもない、努力家なわけではなく堕落家なわけでもない。これが俺のポリシーだ」

 「あぁ、それこの前聞いたよ。あれ、ポリシーだったんだ」

 どうやら俺の思い違いだったらしい、こいつには話していた。まぁ、言っても減るもんじゃない。別に構わないが。

 「でも聞けば聞くほど変なポリシーだよね。なんでそんなこと目標にしてんの?」

 失敬な。俺の崇高なるポリシーを。これさえみんな守れば間違いなく世界は平和だというのに。・・・・・・いや、世界はある意味で崩壊するか。うん、まあこれで帳尻を合わせているはずだ。亮太や未奈のように日々を精力的に活動する人間だけでも世の中は成り立たない、俺みたいな無色の存在も時には重要なファクターになり得るということだ。

 なんとなく無駄な考察をしていた気がするが、ふむ、「なんで」か。

 別段深い意味はない。ただ単に俺がそれを好んでいるだけの話なのだが、確かにこれに気づいたのは少し昔の話だ。それにはちょっと時間を遡らねばなるまい。

 「まぁ、俺にも色々あったってことだ。話すと長くなるからな、ここでは話さん」

 「ここではって、いつ話してくれるのよ?」

 「さぁ、気が向いたらだな」

 「あんた、前もそんなこと言ってなかった?ホントに意欲にかけるわね」

 ふぅ、とため息をつく未奈。まぁ、そんなもんだ俺なんて。自分の昔話なんて人に話したところでどうにもならない。過去を変えることなど出来はしないのだから。もっとも、俺の過去がそんな悲壮的なものだったかどうかはひとつところには判断できないが。

 「では、亮太さんはどう思いますか?」

 「うーん、やりたいことねぇ、たくさんありすぎて困るんだけど・・・・・・」

 ・・・・・・露骨に固まってしまった。ありすぎて困る、だと?有り得ない、俺からしてみれば無さすぎることはあってもありすぎることはない。それなのにこいつときたら、バスケ部だってあるだろうに、そんなこと言ってて大丈夫なのか?

 「そうだね、でもやっぱり文芸部なんだからやっておきたいことっていうのはあるよ」

 「え!それは何ですか?」

 「文集だよ!!」

 「・・・・・・文集?」

 文集というとつまり、あれか、自分の執筆したコラムなり、小説なりを載せて作るやつか?

 「せっかく文芸部に所属してるんだから、なにかそれっぽいことをやってみたいじゃないか。そう言う意味では文集はうってつけだと思うんだけど」

 まぁ、当然の筋だろう。文芸、辞書的に解説すれば「言語を媒介とする芸術の総称」となる。要するに作文だ。詩でもいいだろうし、小説、評論、エッセイ、ジャンルは様々だろう。それを各々が書き、収集するわけだ。

 「文集かぁ、うん!いいかもね」

 「私も悪くないと思います」

 「・・・・・・」

 おっと、ここで久しぶりに登場の翔一郎。相変わらずだな。ちなみにこいつは趣向で自らの意思を伝えてきた。つまり・・・・・・残るは俺のみだ。

 もう一度正直に話そう、やはり気乗りしない。文章を書くには下準備が必要だ。資料を集め、自分なりに再構成しなければならない。別に本を読むだけなら問題ないのだが、辛いのはそこではない。実際に執筆するとなった時にどう書くかだ。作文は苦手なのだ。その苦手分野にあえて挑むなど、反省エネの極地としか言い様がない。だがしかし・・・・・・

 「要さんはいかがですか?」

 これだ、現時点で賛成多数、可決しかありえない。俺がいくらあがこうと無駄である。多勢に無勢ということわざがあるのだ、わざわざ先人が残してくれた偉大な教訓を無視するような俺ではない。多人数と争うことがどれほどエネルギー効率の悪いことなのかぐらい、中庸の俺は知っている。

 「・・・・・・まぁ、いいんじゃないか。それで」




 かくして我が文芸部の活動方針は決定した。涼太の鶴の一声によって。俺にとっては大変残念な結末ではあるが、仕方ない。今からでも文章の構成を練っていたほうがいいかもしれない。何しろ俺は中庸なのだ。進むペースは早すぎもせず、遅過ぎもしない。ゆっくりと自分のペースで作業をする俺にとっては締切は最大のピンチだ。最悪の事態だけでも防がねば。あ・・・・・・でもまだ何を書くのかも決めてないのか。

 次は具体的な内容について話し合わねばなるまい。ふと、窓の外を眺める。日暮れはもう少し先のようだ。

 記念すべき初の公式活動はまだまだ終わらない。

感想、意見なんでもお待ちしてます。

ぜひよろしくお願いします。



もう少しで100ユニーク!!

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