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文芸部の日常  作者: 太一
はじめまして、そして、よろしく。
6/8

要、芸術に浸る

遅くなりました。

申し訳ないです ((+_+))


これでラストです、新入部員。

 二度あることは三度ある。昔の人は良く言ったものだ。温故知新、と言うべきだろうか。

どれだけ昔の時代に言われた言葉なのかは見当もつかないが、それが現代においても通用するというのだから、本当に感服するしかない。だが、この慣用句、実はあまりいい意味でつかわれることは少ない。どちらかといえば、不幸が立て続けに起こった際に使われるものだろう。そう、例えば三回連続で水たまりに足を踏み入れてしまうとか、三回連続で教科書を忘れてしまうとか、三人立て続けに部活に入部してくるとか・・・・・・あれ?




 ついでを言うと、物事というものはいつでも突発的である。つまりは前触れがない。世の中想定されている通りには動かないということだ。特に人生なんかはほぼ、本人の意識とは無関係に面倒な方向へと進んでいってしまう。これは俺の経験的推論だが、ほぼ間違ってないだろう。なにせ、この竜山高校へ入学してからというもの、楽な方向に転がったことがない。言葉を聞く限りではたいして大事ではないように聞こえるかもしれないが、実際に体験して見れば分かる。無駄なエネルギー消費のなんと多いことか。余剰エネルギーのすべてを使い果たしてもまだ事態は悪いほうへ転がっていくことさえあるのだから。

 しかし、この原因ははっきりしている。断言しよう。それは・・・・・・俺の所属している部活のせいだ。特に言ってしまえば、そのメンバーのせいだ。まぁ、なんの部活かはあえて確認する必要もない。

 当然、文芸部である。

 してさて、今日は水曜日の放課後、天気はあいにくの雨だ。雨の中を雨滴を躱すがごとく走って帰るような元気を俺は持ち合わせていないので、当然部室で雨宿りである。携帯を開いて天気予報を見る。ふむ、どうやら雨はしばらくすれば止むらしい。こうなればすることはひとつ。適当な席に座り、鞄から文庫本を取り出す。姿勢を固め、本を開き、ぼんやりと活字を眺める。

 最高だ。エネルギーを一切無駄に使用しないこのスタイル、俺にとっての至福の時と言ってもいいかもしれない。雨がやむまでこうしていよう。どうやら、今日は部室に誰も来ないらしい。結構なことだ、自分の時間を邪魔されるのは好きではない。厄介事の種を持ち込まれるのは御免だからな。




 が、はたして、この至福の時は簡単に崩壊を始めてしまう。先ほども言ったが、物事の発端は唐突だ。でも、まぁ、大抵のスタートは決まっている。あいつだ。

 横開きの扉を開ける音がした。俺は手元の活字を眺めながら、必死に願っていた。一橋だ、一橋が良い。そうじゃなかったとしてもせめて涼太だ。せめて涼太でお願いします。

 はぁ、現実は厳しい。入ってきたのは夜守・・・・・・ともう一人、誰だ?あんた。

 「なんですか?日ノ紅さん、いきなり溜息なんかついて。もしかして私が来るの嫌でした?」

 はい。・・・・・・なんて言えるわけがない。いや、別にとだけ返事をしておく。相変わらずの無愛想な態度かもしれないが、いつもの俺だ。

 「それより、夜守。隣にいるのは誰だ?」

 そう、俺の関心はそっちの女子生徒にある。いや、変な意味じゃなく。校章を見る限り、先輩ではない。一年生であることには間違いないのだが、あいにく俺の交友関係は狭くないし、広くない。知っている顔には限界がある。とりあえず、俺の知り合いではない。

 「はい!よろしくお願いします!」

 じゃなくて。

 「具体的に何組の何さんなんだ?」

 「ああ!えーとですね、こちらは」

 「一年D組、日暮未奈だよ。よろしくね、副部長さん」

 「文芸部に入るつもりなのか?」

 「まさか何の用事もないのにわざわざ特別教室入ったりしないでしょ」

 む。それはその通りだ。

 「未奈さんに以前この部活の事をお話したときに、面白いということでしたので、私が誘ったのです」

 面白いところなどどこにある?この目的のない部活に何の魅力を感じるのか。はっ、もしかしてこいつも俺と同じ省エネ推進派か!

 「いやぁ、ちょっと面白そうなメンバーが集まってるなぁと思ってさ」

 それには俺も入ってるのか?まぁ、とりあえずハッキリした、こいつは省エネ派ではない。面白そうな人がいるから、なんて理由だけで部活に入ろうと考えるのはどう考えても趣味人のすることだ。そして趣味人の人間に省エネなやつがいた記憶は俺にはない。結論、また楽しい楽しい仲間が増えたわけだ。

 「しかし、今更になって入部とは、今までよく先生に咎められなかったな」

 「いや、あたしは結構早い段階で部活入ったよ?美術部にね」

 掛け持ち!涼太然りこいつ然り、よくもまぁそこまでアクティブになれるもんだ。二つも部活をこなすなど俺には到底出来得ない。ただでさえ少ない俺のエネルギーが秒で消え去ってしまう。

 「御苦労さまだな。大変じゃないのか?」

 「ううん、別に。美術部って言っても好きな時に自分の好きな絵を描くだけだから。作品出すときはテーマとか期日とかはあったりするけど、それ以外は基本的に自由だからね」

 ふふっ、とはにかむ日暮。前から思ってたんだが、うちの文化系部活って自由度高くないか?美術部はそういう方針で活動を進めているのかもしれないが、うちはいまだに何を目的とすれば良いのかさえ分かっていない。前途多難だな。と、一人心の中で溜息をつく。

 「なるほど、じゃあ絵はうまいんだな」

 「それなりにはね」

 「そうです!日ノ紅さん、今度未奈さんの絵を見てみてください!きっと感動しますよ」

 「そんなにすごいのか?」

 「それはもう!」

 隣で日暮が照れているのが分かる。無理もない、夜守みたいに裏表のない奴からあれほどべた褒めされてはどうしたって照れる。

 「それじゃあ、俺の可処分エネルギーが余ってるときに気が向いたら行くかな」

 「気が向いたらって、いつ気が向くんですか?」

 いやそんなこと聞かれても。

 「さあな、いつかはわからん」

 「じゃあ今見に行きましょう!」

 「いやちょっとっ・・・・・・」

 待て、と言おうとしたときには時すでに遅し。俺の右腕は夜守に掴まれ、一気に扉の前まで引きずられていた。無念、あのタイミングで絵の話を持ち出した俺がバカだった。せっかくの至福の時が終わりを告げた。後ろで日暮が指をさして笑っている。おい、状況をよく見ろ。それどころじゃないだろうが。・・・・・・あれ、美術室ってどこだっけ?確か一階玄関から奥の細い廊下を通って、その先の階段を・・・・・・って辺境の地じゃねぇか。嫌だ、気が向いたときって言っただろ!お願いします、日暮さん、助けてください。




 すべてが片付いた時にはもうすっかり雨はあがっていた。確かに日暮の絵は見事だった。風景画だったが、素人目にもそのセンスの良さが窺える。もっとも、俺はそんなに芸術に関して特別な興味を抱いてるわけではないので、どこがいいのかなどは聞かれても答えられないだろうが。とにかく、まぁ辺境の地まで来てみる価値はあったかもしれない。玄関で外靴に履き替え、外に出る。空を見上げると雲の隙間からは光の柱が伸びていた。うん、芸術っぽい。こんな空もたまにはいい。

 「おーい」

 呼び止められた、誰だ?

 「ちょっと待ちなよ」

 「日暮か」

 「結希のほうがよかった?」

 「いや、別に。っていうかむしろお前でよかった」

 「あはは、あんたにはそーかもしれないね」

 にこにこと笑う日暮。楽しそうだな。

 「ねぇ、日ノ紅ってさ、結希といつもあんな感じなの?」

 駄目なのか?

 「いや、まさか。ただやっぱ面白いなって思ったから」

 「なにが面白いもんか、毎日毎日振り回されっぱなしだぞ?ゆっくり読書もできない」

 「副部長は部長の言うことちゃんと聞かないとね」

 「俺は割と聞いてると思うがな」

 「渋々、じゃなくて?」

 いやまったくその通り。

 「そもそも俺が副部長っていうのが間違ってる。俺はそんな人間じゃない」

 「じゃあ、どんなポジションなの?」

 そりゃあもちろん、

 「幽霊部員」

 「・・・・・・」

 あれ?なんか俺変なこと言った?と、突然日暮が腹を抱えて笑いだした。

 「あはははは、くくっ、幽霊部員か。あははは」

 何がそんなにツボに入ったんだ?

 「いやー、ずいぶん自分のこと冷静に見てるんだね。しかし、それにしても幽霊部員はないんじゃない?」

 「いや、間違いない。そもそも俺に部活動をするような気合があると思うか?この部活に入ったのだってそれこそ渋々だ」

 「つまり、自分はやる気のない無気力人間だと言いたいわけだ」

 厳密に言えば正解は九割なのだが、ほぼ間違っていない。及第点をあげてもいいだろう。いやいや、俺は何様だ。

 「無気力とは少し違うんだがな、別に俺はやれと言われたことすらやらない冷血人間じゃない」

 「どう違うの?」

 首をかしげる日暮。まぁ、それはそうだろう。日々を精力的に送っている日暮からして見れば俺の考えなど分かるはずもない。

 「俺は中庸なんだ。黒ではなく白でもない、熱血ではあらず冷徹でもない、努力家な訳ではなく堕落家なわけでもない」

 「ははーん、中庸ってあれでしょ?なんでも中途半端ってやつ」

 その通り。中途半端というとどうにも聞こえが悪いが、結局はそういうことだ。深すぎず浅すぎず、上澄みでもなく澱でもないところだけを掬って過ごす。それが俺の生き方であり、俺の俺たる所以なのだから。

 「やっぱあんた面白いよ。入ってよかった、文芸部。あんたといると退屈しないかも」

 「ふざけるな。俺といても面白いことなんてないぞ。事を持ち込んでくるのはあいつの仕事だからな」

 「つまり、いいコンビってことでしょ?」

 いいえ、解散寸前です。

 溜息をひとつ、また空を見上げる。お、今度は虹が出来てるな。つられて、日暮も空を見ていた。横でうわぁという声が小さく聞こえた。




 ごろり、ベッドで横になる。疲れた。これで五人か、思えば随分と人数が増えたものだ。スタートは俺と夜守のたった二人だけ、部活存続の条件をかろうじて満たしただけの小さな小さなものだったが、なるほど部員が増えるというのはなかなか大きい。フルメンバーで部室に集合すればそれなりに見えるだろう。

 まぁ、人数がいくら増えたところで俺のやることは変わらない。出来る限り中庸な日常を送るだけ。エネルギーは残しすぎず使いすぎず、無駄を効率よく省く。しかし、どうにもこの理想を貫ける気がしない。なぜだろう?変わったことと言えば人数だけだ。それでこんなにも理想が達成できなくなるようになってしまうのだろうか?おそらくは原因はそこにはない。

 俺が人と近くなってるからだ。ん、分かりづらいな。つまり、有り体に言ってしまえば距離感の近い人、いわゆる仲のいい人間というのが増えたのだ。おっと、仲のいい、は語弊がある。未来形で、仲が良くなりそうな人が、だ。俺はあまり人と深くかかわらない人間だ。それを話すと話は中学に遡らなくてはいけないのだが、今はやめよう。さっきも言ったが、疲れた。またいつか話す日が来る。その時はおそらく今の自分とそのときの自分を見て、周りの環境を見て、また考えることがあるかもしれない。今の日常で良いのか、どうか。結論を出すには早いだろう。高校生活にはまだ時間がある、肝心の部活も始まったばかりだ。とりあえず今は、この与えられた安穏たる日々を穏やかに満喫するしか出来ることはなさそうだ。

 静かに目を閉じる。アナログ時計の針の音がやけに大きく聞こえる。だが、それがまた絶妙に眠気を誘ってくる。さて、晩御飯の前に少し眠るとしよう。

さて、全員出揃いました。

ここから、文芸部の活動が始まります!


まぁ、要が言うようにまだ活動方針決まってないんですけどね ヽ(^o^)丿

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