FILE4:歯車の軋む音と満天の星空
〜1997年8月〜
『じゃあ、宇宙。
私、仕事いくわね。
ちゃんとご飯食べなさいよ。
』
『はい。
行ってらっしゃい…』
『宇宙……。
ごめんなさい。
』
宇宙はまだ熱を持ったコーンポタージュをゆっくり飲みながら、答えた。
『何がです…?早く行かないと、遅刻しますよ?』
『え、ええ。
今日は撮影だから帰れないからね。
…じゃあ。』
結花はそういうと玄関の扉の向こうに消えていった。
宇宙は腕時計を見ると、9時を指していた。
予備校に行かなきゃと思い、飲みかけのコーンポタージュを流しに捨てた。
宇宙が予備校に着いたときは11時をまわっていた。
一通り授業を受けて、宇宙は本屋に寄った。
小説を買おうとしたのだが、なぜか、1つの本に目が行った。
『片翼の想い』
手にとり裏返してあらすじを見た。
(小さいころ母親を亡くした16歳の少年が、徐々に自分の苦悩と共に旅にでる。自分の中の自分を見つけに…)
「ふぅん。誰だこの作家?青蘭齋兎…?知らないな…。まぁ、いいや。すぐに読めそうだ。」
宇宙は電車の中で『片翼の想い』を開いた。
文章自体は堅くなく、読みやすかった。
結局、降りる駅までくるのに3分の1は読み終ってしまった。
宇宙は本を閉じる頃には違和感ができていた。
まだ途中だが不思議な類似がそこにはある。何かが似ていた。
宇宙はとりあえず家に帰った。
「ただいま…。」
家には誰もいない。
母は撮影なのであたりまえだ。宇宙の家は母子家庭だった。空虚な空間で夕食を採った。
宇宙は風呂に入ると布団に入り、『片翼の想い』を開いた。
やはり似ていた。
なにかが似ていた。まるで自分のカケラみたいなのを見つけた気分になった。
乾いた喉を潤すためにスポーツ飲料を飲んでいたとき…
ソレハオコッタ…
「トゥルルルルルル…」
リビングの方から無機質な機械音が響いた。次いで子機が鳴った。
「はい、藤咲ですが…」
宇宙はこんな夜にかけてくるなんてと思っていたので、余計な電話なら切ろうと思っていた。
「藤咲さんのお宅ですね?」
さっき言った。
「あ、もしかして宇宙君でしょうか」
?
早くしてくれ。
「大変申し上げにくい事なんですが…。あの、先程お母様が帰宅中交通事故に遭われまして、現在三島病院の方で治療を受けております。重症なので…今から来ていただけますか?」
一瞬固まった……。母さんが事故?
「すいません。母は今日帰れないと申しておったのですが…なぜ。」
相手はそんな事を聞いてきて驚いたのだろうか、
「はぁ…。当初、予約したホテルに泊まる予定だったのですが、なぜかいきなり帰りますと言い出されまして…とにかく。三島病院でお待ちしております。」
電話を切ると、宇宙は身支度を整えて、車のキーを掴み、外に飛び出した。
「ちっ…どうしてこんなことに…!」
けたたましいエンジン音とともに満天の星空の下走り出した。
宇宙にはそれがあるはずの日常が軋んで壊れる音に聞こえた。
普段の道を車でかけていくと不思議に空虚な気持ちになる。
それはナゼかはわからない。ただ、わかるのは母が危ないということだけだった…
母親は好きじゃない…が、普段からあるものが壊れていくのは怖かった。無事を祈り三島病院へ……………
誤字脱字が目立ちますが、是非、最後までおつきあいください。読まれたかたは是非メッセージを。読んだとだけども結構なんで。励みになります。