道程 ⑤
目を凝らすと、馬上の人が大きく手を振っているのが見えた。
フードで顔は見えない。
誰だろう、と考えている間にあっという間に駆けてきて、コマたちのすぐ傍で馬が止まった。
「よう、言術士どの! また来たのかい?」
フードをとったその男の人の顔をみて、あっ、と声をあげた。
人懐っこい笑顔と両頬に出るエクボ、特徴あるがっしりとした体格。
スイシャ村の村長さんの3男坊、ミズハだ。
コマはイリキに知り合いだよ、と声をかけてから、馬上のミズハに近づいた。
「ミズハさん! うわぁ、久しぶりだね。どこか出かけてたの?」
「セイリカの市に行ってたんだ。ちょっと緊急で必要なものがあってな。後で村に来るんだろう?」
「うん、またお世話になります」
「カーシャんとこのばぁさんが待ってたぞ。ついでに寄ってってやってくれよ」
話好きのおばあちゃんを思い出して、コマはうん、と大きく頷いた。あそこのおばあちゃんの話はとても面白いし、こっそりくれるおやつもすごくおいしかったっけ。
「後で寄らせてもらうね。湖の方はどう?」
「ああ、あれか。ありゃ、もうだめだな。今じゃほとんど池っつーか水溜りみたいなもんだ」
「・・・そうなの? 泉は?」
「そっちもだめだ。干上がっちまうのも時間の問題だな」
「・・・そんな・・・」
「湖を気に入ってくれていたあんたには気の毒な話だけどな。ま、後で見にこいよ。じゃ、急ぎだから先に行くぜ」
じゃあな、と声をかけたミズハは、馬上からイリキに小さく会釈をすると、馬のわき腹を蹴って走り出す。軽快な足音が遠ざかっていくのを聞きながら、コマは呆然とその後ろ姿を見送った。
「あれは、スイシャ村の?」
ミズハが見えなくなった頃、イリキが声をかけてきた。
「・・・うん、ミズハさんっていうんだ。村長さんとこの5人兄弟の3男坊。今年の初めに結婚したばかりの新婚さんで、蝶が苦手なんだって」
そんな豆情報まで要らないだろうな、と頭の片隅で考えながら、頭の中はさっきのミズハの言葉でいっぱいになっていた。
湖が、水溜りのよう?
泉が、干上がるのも時間の問題?
この前行ったときは、確かに湖の水位が低くはなっていたけど、そこまで深刻には見えなかったのに。
無意識のうちに内ポケットを服の上から握って、中に入れてあるものの存在を確かめる。服越しに伝わるひんやりと心地よい感触。
迷いは一瞬。
とにかく、今は一刻も早く、村へ。
「イリキは、ここからスイシャまでの道はわかるよね?」
「ああ。問題ないな」
「じゃあ、僕、先に行くね」
「あ、おい、コマ!?」
コマはイリキを振り返らずに歩き始めた。