道程 ②
地の底まで沈みこむように落ち込んでいたが、いつまでも自己嫌悪に浸っていても仕方がない。
コマが空を仰いで立ち止まっているのに気付き、これからのことを考えなければ、と気持ちを切り替えた。
「コマ。こんなことになってしまって、本当に申し訳ないと思っている。今は文無しになってしまったが、ここから東にあるロクルスタに知り合いがいるから、そこまで行けば旅費を用立てることが出来ると思う」
いきなり話しかけると、空を見上げていたコマが驚いたように視線を合わせ、大きな瞳をくるり、と回した。
「ここまで来たんだから、目的地のスイシャまでもうちょっとじゃない。歩こうよ」
確かに、二日も歩けばスイシャにつける。
食料と水は無事だったコマの所持金で十分足りるだろうし、スイシャまでの道のりは分かる。
しかし、何が起きるかわからないのが旅というもの。
「旅を続ける上で、先立つものはどうしたって必要だ。スイシャへはロクルスタの後に行っても遅くはないだろう?」
「……僕は早く村に行きたい。せっかくもうちょっとで着くんだから、先にスイシャに行って、それからロクルスタに行けばいいんじゃない? 食料ならあるんだし」
何の問題もない、というように意見を述べるコマに、イリキは小さく眉を寄せた。
この小さな同行者と旅するようになって、ひとつ気付いたことがある。
コマは食料と水の確保だけはしっかりと徹底しているが、それ以外は、かなり行き当たりばったりだ。
そのおかげで、ランカクまで同行できることになったのだが、コマの将来のためにも、イリキはあえて小言をすることにした。
「コマ、よく考えてみて欲しい。確かに村に着くまでの食料も水もある。だけど、村についた後はどうする? スイシャに入れば、その後の街へ入るには通行税が必要になる。また足止めされるぞ?」
所持金がほとんどない状態で小さな村に行けば、村から出られなくなる可能性もある。
その危険性を指摘すれば、コマはちょっと考えるように首をかしげたが、やがて自信満々に大きく頷いた。
「大丈夫。ロクルスタには入れるよ」
「……その根拠は?」
「僕は何度もスイシャからロクルスタに行っているんだよ? だから、大丈夫」
いつもはどちらかというと優柔不断気味なくせに、少しのためらいもなく、胸を張って断言する。
そこまで言うなら、本当に大丈夫なのだろうか。
イリキは全然根拠になっていないコマの言葉に、若干嫌な予感がしつつも、財布をすられたという失態分強気にも出れず、コマの意見を通して、まずはスイシャ村に向かうことにした。
丁度スイシャ村近くまでいく乗り合い馬車があったので、それに乗り込み、今に至るわけだが。
どう思い起こしても、情けない気持ちが膨らんでくるこの状況。
コマが本に集中しているのをいいことに、イリキは大きくため息をついた。
「『失敗して、初めて失敗を知る。ゆえに、成長がある』」
不意に響いてきた“言”に、はっとして顔をあげると、本を大切そうに閉じたコマがくるりと黒い瞳を動かしたところだった。
「僕のじいじがよく言ってたんだ。いい言葉でしょ?」
閉じた本をそっと抱きしめるように抱え込みながら、コマがのんびりという。
「今の“言”は、コマが?」
信じられない気持ちのままつぶやけば、ムッとしたように口を曲げて睨みつけてくる。
「……あのね。僕の職業忘れてるでしょ? 言術士なんだってば!」
言術士が“言”を扱えるのは当たり前でしょっ! と、コマは自分が言術士であることをムキになって主張してくる。
が、イリキはたった今受けた衝撃に、それどころではなかった。
全身が粟立ち、心臓が大きく鼓動を打つ。
今の“言”は。
イリキは小さく息を吸い込み、目を閉じる。そして気を落ち着けて、己の中から結論を引き出す。
間違いない。
今。
“言術士”が発した“言”は。
セイランの“口”である自分が初めて聞く、“言”だった。