番外編(500PVお礼): 言葉のアレンジ
500PVありがとうございました!
予定通り、言術士コマの番外編みたいなものをUPします。
時間軸でいうと、「聞いてないよ!」の前のお話です。
イリキと行動を共にするようになって、5日。
コマの目から見て、イリキはとても不思議な“口”だった。
まず、若い“口”にありがちな、相手をなんとしても言い負かして自分の意見を押し通そうとする感じがない。
頭っから思い込んでいなければ僕の意見にも耳を傾けるし、説得にも応じる。
本来“口”は“言”を発声することで、その“言”を知るものの力を借りることで、効果を発揮する。だからこそ、いかに自分の言葉で影響を与えるかを重視しているはずなのに。
“言”を日常的に使っている様子もないし、コマがこれまで会った“口”とはだいぶ違ってる。
かといって、その能力が低いわけではないのは、身をもって理解している。
何よりも、あの声。
あれだけの美声の持ち主なら、普段はそっけない精霊たちでさえ喜んで手を貸してしまうだろう。
驕る要素がそろっているのにそれがない。
一体、セイランでは、どれだけ厳しい訓練が行われているのだろう。
それとも、イリキのもともとの性格だろうか?
知りたい、と思った。
そして、あの美声でぜひ一曲歌ってもらいたい。
そうすれば、もしかしたら。
コマはのんびりと船に揺られ風を受けているイリキを見た。
ほとんどシュルとシュリスンに釣られて同行を同意した自覚はあるものの、いくら三度のご飯が何より好きなコマでも、それだけで本当に行動をともにしたりはしない。
まだ、予感に過ぎないけど。
たぶん、彼は、『きっかけ』になりうる。
コマは期待に揺れ動く瞳をそっと閉じた。
―――
イリキからの不思議そうな視線を感じて、コマは目を開け、小さくため息をついて見せた。
「イリキと一緒に移動するようになって、もう5日か、と思って」
あわよくば、歌わせるチャンスだと思って賭けをしたのに、このペースで乗り物を使い続けるなら、イリキの勝ちだろう。
余裕たっぷりな笑顔を思い出して、思わず眉間に皺が寄る。
どんな賭けでも、負けるのは悔しい。
「私の都合でもあるからな。早くスイシャに行けば、その分早くセイランへ向かえるだろう? そうなったら、きちんと道中でも指導するよ」
セイランの“口”の訓練に、非常に興味があるコマとしては、本当なら今からでもぜひ指導して欲しいところだけど、あまり人の多いところでは無理だといわれ、スイシャに着いてから、教えてもらう約束になっている。
ふと、コマはイリキが使った数少ない“言”のうちのひとつを思い出した。
とんでもない大声で名前を呼ばれた後、めまいと頭痛に苦しむコマに、イリキが発声した“言”。
『静まれ音色、我が声にこたえてなじめ』
どこかで聞いたことがあるような気もするんだけど、あんな効果がある“言”ではなかったような気がする。
「そういえば、初めて会ったときの大声のあと、不思議な“言”を使ってたでしょ。あれ、一体何? なんだか凄く違和感があったんだけど」
柔らかく包み込むような心地よい音が染み込んできた、あの不思議な感覚を思い出しながら言うと、イリキはああ、と頷いた。
「そうか? 一応私のアレンジは入っているが、“言”自体はコマも使ったことがあると思うんだけどな」
特に隠す様子もなく、“言”の構造を説明するイリキ。
その正体を知って、コマは絶句した。
“言”の中には、本来持つ性質と異なる性質とつながりを持つことを好む“言”がある。
イリキが使ったのは、音色を整えるための“言”に、料理に味をしみこませるための“言”を織り交ぜてアレンジした、“調和”を図る効果を持たせた“言”。
「そんな組み合わせを考え出すなんて反則でしょう……」
っていうか、そんな組み合わせで当たり前のように効果を出せるってありえないだろう!と心の中で叫んで、コマは思いっきり脱力した。
「聞いておいてなんなんだけど、それ、僕に教えちゃってよかったの?」
自分で編み出した“言”は、“口”にとってはいわば切り札にもなる重要なもののはずなのに。
「別に、新発見の“言”を使用しているわけでもないし。それに、ここからさらにアレンジが生まれれば、それだけ有用な“言”が増えるだろう?」
こともなげに言われて、コマは軽く頭を抱えた。
そうだ、そうだった。
目の前のこの男は、ただの“口”ではなく、セイランの“口”だった。
数少ない限りある“言”をいかに活用するか。
そのための努力と研究を一日たりとも欠かさないというセイランの民の実力を改めで実感したコマだった。
・・・・・・セイリカで、その実力を恐怖とともに体感することになることは、このときのコマはまだ知らない。