緑の星姫
緑色の何かがふわりと飛びながら、踊るようにこちらに飛んできている。
その下では、踊りに合わせてしゃんしゃんと鈴を鳴らす一団いた。
近くで見て、その緑の正体がわかった。
まだ若い、美しい女であった。
皆が皆、その姿を見てうっとりとため息をついた。
「あれが、主役だよ。」
「あ、あれは人なのですか?」
「もちろん、人だよ。ただ、その下の集団はちょっと違ってね。魔人族なのさ。」
「魔人族っていうと、最も魔力が高い種族の?」
ロアの問いに、前を見つめながら女主人が頷いた。
「その通り。賢い坊やだね。魔人族は魔族と違って友好的だからね。人間族と最も親しいのさ。この町も魔人族と共存しているんだよ。」
「あの緑の女性は?」
「彼女は主役に選ばれた子なのさ。この町で最も美しい娘が星役をやるんだよ。下の集団は魔術で彼女を空に飛ばし、光を纏わせる。星と人、そして人間と魔人が共に生きているという意味を込めた祭りなのさ。」
「美しいですね。あの人も、この祭りも。」
ほう、とヴァンが柔らかく息をついた。
「そうだろう? あの子の綺麗さは昔から評判だからね。今年で主役をやるのも四回目。慣れたもんさ。」
「ええ。とても綺麗だ。」
穏やかな笑みを浮かべ、緑の美しい星が飛ぶのを眺めていた。
「あの子に選ばれた人は、その年一年、星の加護を得られるんだよ。」
「本当ですか?」
ロアの目がさらにきらきらと輝く。
「私、選ばれてみたいです。」
「まあ、ただの迷信だけどね。」
「迷信ですか・・・」
しゅん、とロアが残念そうに言った。
「ふふっ。それでもね、選ばれるのは名誉なことなんだよ。娘と一緒に飛んで、人々を祝福するのさ。」
「そうだぞ。だから顔を上げて、選んでくれますようにって祈ってな。」
「はい、わかりましたっ。」
ぽん、と頭に手を乗せられ、再びわくわくしながら緑の星を見つめた。
それにね、と女主人が優しく言った。
「この祭り最大の見所なのがね、この『星選び』なんだよ。星役の娘が一人を選ぶわけだが、これは前日の打ち合わせも何も無い。娘が気に入り、魔人たちが気に入った者だけが選ばれるのさ。」
「旅人が選ばれたりしますか?」
「ここにいる全員が対象さ。まあ、旅人が選ばれるのは滅多には無いがね。おっと、来たよ。」
眩いばかりに美しい緑の女が、笑みを浮かべながら飛び回っていた。
「ここは最後の地点だね。多分、ここから選ばれるよ。」
どきどきとロアは両手を胸の前で握り締めた。
ふわりふわりと浮かびながら踊りながら、女は一人一人に笑いかけた。町の男どもはそれだけでもう、暗闇でもわかるくらいに顔を赤くしている。
時折星役の娘が、しゃんと鈴を鳴らしたり、魔人が鈴を鳴らす。
ただ、全員が鈴を鳴らすことは無かった。
「あの鈴は誰を選ぶかを決める合図なんだよ。娘が一人一人を確認して選んだ者の前で鈴を鳴らすんだ。ただね、娘と魔人たち全員が鳴らなきゃ、選ばれたことにはならないんだ。」
少女が空中で一回転をすると、ロアたちの前に降り立った。
音も無く着地すると、挨拶するかのように女主人に笑いかける。女主人もほんの少し、手を振った。
ロアを見て、にこりと笑んだ。魔人の何人かから、しゃん、と音がした。しかし、娘の鈴は鳴らなかった。
「残念だね、坊や。」
がっくりと肩を落としたロアに、にやにやしながらヴァンが見た。
「残念だな、ロア。」
「はいです・・・」
星役の娘が顔を上げ、ヴァンを見た。
「・・・!」
その途端、娘の目が見開いた。
魔人たちもぴたりと止まり、一様にヴァンを見た。