星の祭り
「ヴァン様、あれってなんでしょうか。」
テーブルについて注文した後、ロアが不思議そうに入り口を指差した。
入り口のドアは開け放たれていて、中から外を見ることができる。
なんだか騒がしい太鼓や鳴り物の音と共に、被り物を被った人間たちが楽しげに踊っていた。
「さあ? 祭りか何かじゃないか?」
二人で興味深げに見ていると、料理を運んできた給仕の男が話しかけてきた。
「お客さんたちは旅人かい?」
料理を早速口に入れながらこくりと頷いた。
「そう。俺たち、アカネから来たんだ。」
へえ、と男が意外そうに目を丸めた。
「あの商業国アカネから? ずいぶん遠くから来たんだね。」
「はい。遠かったです。」
ロアがにこりと笑って料理を受けとった。
「なあ、お兄さん。あれは何やってんだ?」
にこ、と快活そうな笑顔で答えた。
「あれはね、この町独特の祭りなんだよ。ここは昔は星信仰の村だったんだ。今では信仰自体は無いけど、でもお祭りだけは残っているんだ。」
「お祭り、ですか?」
「うん。ここではちょうど今の時期がお祭りなんだ。面白いだろ?」
「私、お祭りは初めて見ました。」
きらきらと目を輝かせ、食事も忘れて見入っている。
「そうか、ロアは初めてだったか。」
「はい。あの・・・少し、見に行ってもいいでしょうか?」
「ああ。これ食べ終わったら、一緒に行くか。」
「はい!」
急いで食べようとするのを諌め、ようやく食べ終わった頃には、祭りは最も盛り上がっていた。
お茶を飲んでいたヴァンがちらりと外を見た。
「お、ちょうどいい具合に盛り上がってんじゃねえか?」
「ヴァン様、行かれますか?」
そわそわしながらロアが身を乗り出した。
「そうだな。行くか。」
お金を支払い、外に出ると、祭りの熱気がぶわりと頬を打った。
わあわあと人々の楽しげな声に混ざり、太鼓の音や鈴の音や、愉快な踊りをしながら練り歩く道化。
一人の道化が、ヴァンたちの前に来た。
ちょろりとお辞儀すると、両手を上に広げた。
その手を前に出した途端、両手から白い花が一輪ずつ現れた。
どうぞ、と言うように差し出される。笑って、ヴァンとロアは受け取った。
受け取った瞬間、花はまるで星のように光り輝いて分裂し、消えていった。
「す、すごいです!」
またちょろりとお辞儀をすると、集団の中に戻っていった。
「今の花は何だったのでしょうか?」
くす、とヴァンが軽く笑った。
「あれも魔法だよ。炎系の魔法。」
「では、私にも出来るでしょうか?」
「ああ。練習すればすぐに出来るんじゃねえかな。」
満面の笑みでロアが笑った。
「出来るようになったら、ヴァン様にたくさん差し上げます!」
「おう、楽しみにしてるよ。」
と、どこからかどおぉんと大きな音がした。太鼓の中でも一際大きな音だった。
その途端、今まで踊りまわっていた道化たちや太鼓たたきたちの動きが止まった。まるで、彼らのまわりだけ時間が止まったかのようだった。
そう思うが早いか、道化たちは人ごみに飛び込み、姿を消してしまった。
「・・・何が始まるのでしょうか?」
町の人たちは何が起こるのかわかっているらしく、期待と興奮で皆、目が輝いていた。
「主役が来るのさ。」
いきなり、ヴァンの隣から声がかかった。
見れば、宿屋の女主人であった。
「あんたたちはこの祭りを見るのは初めてなんだね。」
少し酔っているのだろうか。目元が赤い。
「大きな太鼓の音は主役が来るって合図なのさ。」
「主役・・・ですか?」
ヴァンの問いに、得意げに頷いた。
「まあ見てなよ。『星選び』が始まるのさ。」
再び沈黙が辺りを包む。しかしよく見れば、誰も彼もが頬を上気させて待ち構えていた。
しゃん。
どこからか鈴の音が鳴った。
甲高く美しい、透き通った音色だった。
その音は、徐々に徐々にこちらに近づいてきている。
「来るよ。」
そう言うが早いか、道の向こうから緑色の光が光った。