宿探し
二人は町に着くやいなや真っ先に宿屋を探し始めた。
腹いっぱいになったので、とにかく寝たいとヴァンが駄々をこねたからである。
確かにロアもどこかで休みたかったので即座に賛成した。辺りを見回しながら歩き続ける。
「そうだ、ロア。」
「はい?」
「また高そうな宿なんか選ぶなよ。そんなに金があるわけじゃないんだし。」
「で、ですが姫様・・・」
ごちん、と頭をはたいた。
「いだぃ!」
「俺らには貧乏宿で十分なの。あと姫様はやめろ。」
「わ、わかりました・・・」
しょぼんとロアが肩をすぼめる。その頭に、ぽんと手を乗せた。
「悪い悪い。ほら、あそこに宿、見えてきたぞ。」
見ると、すぐ近くにいかにもぼろそうな宿が見えていた。
「行こうぜ。早く昼寝してえ。」
「はい、ヴァン様!」
人ごみを掻き分け、ぼろいドアを開けた。
かび臭さがつんと鼻をつく。いかにも古宿といった感じだ。
「ヴァン様・・・ここですか?」
「嫌か?」
「いえ、私はいいのですが、ヴァン様は・・・」
「いや、俺は大丈夫だけど。お前が嫌っていうなら替えるぞ?」
「いえ、そんなことは。」
さっさとヴァンは中に歩き出していった。慌てて後を追う。
カウンターには、仏頂面したおばさんが座っていた。
「すいません。部屋は空いてますか?」
本を読んでいたのか、下を向いていたおばさんが面倒くさそうに顔をあげた。
「何人だい?」
「二人、泊まりたいんですが。」
「んー?」
眼鏡をかけ、ヴァンの顔を凝視した。
その途端、おばさんの顔がぱっと赤くなった。
「あらあら、いい男だねえ。」
「いえ、そんなことは。」
少し恥ずかしそうに笑う。それが女心をくすぐるのだろう、おばさんは顔を上気させて聞いた。
「いくつなんだい?」
「今年で二十一になります。」
「あらぁ、若くていい男。あたしがもう少し若ければねえ。」
「いえいえ、今でも十分魅力的でお美しいですよ、奥様。」
にこ、と爽やかな笑顔を向けられ、おばさんはよりいっそう顔を赤くした。
「部屋は空いてますか?」
「ああ、空いてるよ。ええっと、二人一部屋でいいのかい?」
「ええ。お願いします。」
にこにこしながら宿帳に名前を書いた。
「はい、これが部屋番号。二階だよ。ゆっくり休みな。」
おばさんは後ろを少し振り返った後、こそりと耳打ちした。
「宿代は安くしておくよ。旦那には内緒だからね。」
「ありがとうございます。」
にこにこしながらおばさんに挨拶して、番号を確かめながら廊下を歩いた。その後ろにいたロアが不満そうにぼそりと呟く。
「相変わらず流石ですね。女殺し。」
部屋のドアを開けながら、にやりとヴァンは笑った。
「ふっ。処世術と言って欲しいな。」
中に入ると、重そうな荷物をどさりと落とした。
「はあぁー。重かった。結構歩いたなぁ。汗かいちまった。」
ベッドに腰掛けると、汗だくになった上着を脱ぎ始めた。
下に着ていた服も脱ごうとして、ロアが慌てて止めた。
「お、お待ちください姫様! 私、外に出てますから!」
「あぁ? 何言ってんだよ、お前。」
ばさりと服を脱いで上半身裸になった。
ひゃあ、と慌ててロアが目を手で覆う。
「何してんだよ。」
くすくすと笑う。それで、はっと気づいてロアは顔をあげた。