盗賊から強奪
ふん、と腹に力をと入れる。
「サンダークラウド!」
そう言った途端、前方の雲が一瞬にして真っ黒に変化し始めた。
「ターゲットを確認。」
両手の人差し指と親指を合わせ、円を作った。その円から盗賊たちを見つめる。
「ローリング・ボルト! ショット!」
いきなり黒雲からいくつもの雷が飛び出し、盗賊たちに降りかかった。
「うお、うわあぁぁ!」
「なんだぁ!?」
「うあああぁぁ!」
口々に叫ぶが早いか、全員雷にぶち当たり、悲鳴を上げながらどさりと倒れた。
立ち上がる者は一人もいない。
襲われていた人物は頭を抱えてしゃがみこんでいたが、自分には何も当たっていないことに気づき、そっと顔をあげた。
その目の前には、いつの間にいたのか、ヴァンがにこにこしながら立っていた。
「これ、は・・・あんた方が、助けてくれたのか?」
「ああ。まあ、今の雷はこいつだけどな。」
ぺこ、とロアが頭を下げた。
「こんな小さな子が?」
む、と口を尖らせた。
「今年で十です。子どもではないのです。」
ぽんぽん、とヴァンが頭を軽く叩いた。しかし不機嫌顔は直らない。
「さて、もう三日は食ってないんだ。飯食うぞ。」
早速盗賊の荷物をごそごそ漁り始めた。
「はいです、ひ・・・ヴァン様。」
ロアも金目の物には一切目もくれず、食料だけを袋に詰めていった。
男は、盗賊から物を盗む二人を唖然と見つめている。
「ヴァン様。ここで食べるのはお行儀悪くないですか?」
その場で食料を口に放り込むヴァンを、ロアが諌めた。
「ああ? 行儀も何も、もうそんなのとっくに必要ねえだろ? お前もここで食っちまえよ。」
「ヴァン様・・・もっと気品とか、意識されたほうが・・・最近のヴァン様はどんどん野生的になられて・・・」
心から悲しげにため息をついた。
「ヴァン・・・?」
はっとして、男が立ち上がった。
「も、もしかして、あんた、ヴァン・ガンダルヴァか!?」
口に肉を頬張りながら、ヴァンが振り返った。
「むぅむむっむんむ?」
何か言いたそうにしているが、もごもごして聞こえない。
「ヴァン様。お行儀悪いです。」
ごくん、と大きな塊を飲み込むと、ヴァンは改めて聞いた。
「何で俺の名前知ってんだ?」
男が目を輝かせ、珍しそうに二人を見比べた。
「じゃあやっぱり! 『護り屋』ヴァンと言えば知らない者はいないよ。実は私の町も救われたんだ。魔物に襲われていたところを助けられたと人づてに聞いていて・・・」
「へえー。」
さも他人事のように返事をすると、再び肉を食べ始めた。
「お礼させてくれないか? 一度ならず二度も救われたんだから。」
背中を向けながら手を横に振る。
「いらねえって。欲しい物はとりあえず食料だし・・・あとは・・・」
水を飲みながら、ヴァンは振り返った。
海のように深い瞳は、ひどく真剣な眼差しをしていた。
「あんた、商品に詳しいか?」
「商品、かい?」
ヴァンの迫力に気圧されながら、男は自分の馬車から紙を取り出した。
「一応、私は商人をしているからね。何が知りたいんだ?」
ちらりとヴァンとロアが目を見合わせた。
「分類名は宝石です。」
ふむ、と男は紙を捲った。
「商品名は・・・『龍眼』。」
男はぎょっとして手を止めた。
「あ、あんたたち、『龍眼』を探しているのか?」
「知ってるのか?」
「そりゃあ、商人仲間の間で知らないやつはいないよ。幻の商品だからね。本物の瞳だと噂される身の毛が立つほど美しい宝珠。でもどうしてそんなものを?」
「・・・興味本位ってやつさ。んで? どこにあるのか知らないのか?」
紙を見つめながら、男はむうん、と唸った。
「残念だが、私のリストには載ってないね。まあ、当たり前だ。仲間内でもその情報がやりとりされたことは聞いたことないしなあ・・・」
「そう、か。おっさん、有難う。」
もう満足したらしく、ヴァンは腹をさすって笑った。
「さてと。飯も食ったし、行くか。」
「はい。」
さっと立ち上がり、二人は歩き出した。
「あ、待ってくれ! どうしてあんたたちは龍眼を探しているんだ? 手に入れることは元より出会うことすら至難の業なのに。」
首だけを男に向け、にやりと笑った。
「言ったろ? ただの興味本位だよ。」
じゃあな、と振り向きもせずに言った。
男はただ、二人を呆然と見つめるしかなかった。