閉幕
血に染まった双剣をマンティコアの毛で拭い、軽く一振りした。それだけで、元の綺麗な双剣に戻った。
「ヴァン様!」
ロアが駆け寄ってきた。
「お怪我は?」
「見ての通り。一つもないよ。」
ほっとしてロアは笑った。
「ご無事で何よりです。」
「ああ。お前も大丈夫そうだな。」
ぽんとロアの頭に手を乗せた。すでに二人とも、瞳は元に戻っていた。
「さて、行こうか。」
「そうですね。荷物、持ってきて良かったですね。」
辺りは不気味なほどに静まり返っている。魔物がすべて倒されたというのに、誰一人出てくる者はいなかった。
皆、恐れていた。
魔物より遥かに強い、噂以上の二人に。
どう接していいか、わからないのだ。
町の外へと歩き出した二人に、美しい声が呼び止めた。
「待ってください、ヴァンさん!」
振り向くと、シルキーが震えながら立っていた。
「シルキーさん・・・お分かりになったでしょう?」
優しく、ヴァンは微笑んだ。
「あなたは・・・人間、ですよね?」
「・・・さあ、どうでしょうか。」
「・・・人間でも、人間じゃなくてもかまいません。ヴァンさん、私、あなたのことが―。」
「おやめなさい、シルキーさん。」
シルキーの次の言葉を、ヴァンは優しく制した。
「あなたは美しい星の姫君です。俺は血で汚れきった獣だ。あなたとは到底釣り合わない。わかりますね?」
諭すように、そっと、呟いた。
「あなたに、幸せになってほしいから。」
そう言ったヴァンの顔はとても優しく、そしてどこか寂しげであった。
「ヴァンさん・・・」
涙ぐむシルキーに笑顔を返すと、行くぞ、とロアを促した。
振り返りもせず、二人は町の外へと出た。
しんと静まり返った中で、動いているのはただ二人だけだった。
「ヴァン様。」
「ん?」
ロアを見ると、悲しげにヴァンを見上げていた。
「あの星役の方、本気でヴァン様をお慕いしてましたね。」
「・・・どうだろうな。ただ、内面も外面も美しい人だった。もし俺がこのままで、こんな境遇じゃなかったら、惚れてたかもな。」
「・・・こんな境遇じゃなかったら――」
ふん、とロアは鼻を鳴らした。
「私はヴァン様の付き人になることは出来ませんでした。私は幸せ者です。」
ははっとヴァンは楽しげに笑った。
「そういやそうかもな。まあ、長い旅なんだ。楽しくいこうな。」
「でも女性を口説くのはもうやめていただかないと・・・私、父に合わせる顔が・・・」
「ああ? お前だって綺麗な物は愛でるだろ? それと同じだよ。」
「違います! ヴァン様は何か・・・何か違うのです!」
ロアが持っていた重そうな荷物を軽々と担ぎ、にやりと笑った。
「それがわかれば、お前は大人の仲間入りだな。」
「教えてくださらないのですか?」
「自分で考えな。」
「むう。ヴァン様のひねくれ者!」
「ロアのガキんちょー。」
ロアはむうう、と口を尖らせ、すたすたと先に足を速めた。笑いながら、ヴァンがその後を追う。
その先には、月が煌々と輝き。
旅路を、照らしていた。
ちょっと急ぎ足で終わってしまいました。機会があれば、もっと長くしていこうかと思っています。長らくお付き合いいただけたら嬉しいです。駄文失礼いたしました!