金色と瑠璃の瞳
「ヴァンさん!」
横の建物から声がかかった。
驚いてみれば、シルキーが窓から身を乗り出すようにして必死にヴァンに呼びかけていた。
「シルキーさん!」
「早くこちらへ! もう魔物はすぐそこにいます!」
「あんたら何してるんだ! 早く!」
後ろの男たちも早く来いとジェスチャーをしている。
ちらりとロアを見た。もの凄い集中力らしく、声が聞こえていないようだった。
シルキーたちの方に向き直り、にこりと優しい笑顔で答えた。
「俺たちは大丈夫です。それより、早く窓を閉めたほうがいいですよ。」
「ダメです、ヴァンさん!」
身を乗り出さんばかりに叫ぶシルキーに、よりいっそう穏やかな瞳を向けた。
「シルキーさん。先ほどのお話しですが。」
はっとしてシルキーが動きを止めた。
「申し訳ありませんが、俺はあなたの気持ちに答えることは出来ません。何故なら、俺たちの旅の目的は――」
す、とロアがヴァンを見つめた。
ロアの瞳の瞳孔が細くすぼまり、闇夜にもわかるほど輝いていた。
「ヴァン様。わかりましてございます。」
茂みを指差し、鋭く言い放った。
「手前の最も大きな魔獣。奴が、頭です。その他、六匹ほど。」
にやりとヴァンが楽しげに笑った。
「よくやった、ロア。」
そう言ったヴァンの瞳も、ロアのように瑠璃色に輝いていた。
それはまるで龍のような、鋭い瞳だった。
「シルキーさん、話は後です。窓を閉じていなさい。」
ちらりと見ることもせず、ヴァンは静かに双剣を構えた。
シルキーはさらに声をかけようとしたが、星団の一人によって抑えられた。窓がバタンと閉じる。
「ダメ! まだヴァンさんが!」
「やめろ、シルキーちゃん! まだわかんないのか?」
まだ駆け寄ろうとするシルキーに、別の星団の男が言った。
「俺たちは魔力を持ってるからわかるけど、大型の魔獣が何匹か来てる。この町の魔人じゃ勝てないくらいのやつだ。だけど、そいつなんかよりも・・・」
こく、と窓を押さえていた男が頷いた。
「そいつらなんかよりも、あいつらのほうがやばい。」
シルキーが動きを止めた。
「どういう、こと・・・?」
「あの旅人の名前、『ヴァン』なんだね?」
意味がわからず、こくりと頷いた。
「それならわかる。あいつ、『護り屋』ヴァンだよ。シルキーちゃんだって聞いたことあるだろ?」
「え・・・?」
シルキーは唖然としながら呟いた。
「あの、『護り屋』・・・?」
「そう。向かうところ敵無しの、最強のガーディアン、ヴァンだよ。だから、大丈夫だよ。」
シルキーを押さえていた男が手を離し、慰めるようにシルキーの頭に手を置いた。
「だから、シルキーちゃん。あの男は諦めな。」
気持ちに気づいていたらしく、皆一様に頷いた。
「で、でも、ヴァンさんがあの『護り屋』だって、あたし・・・どうしても信じられないよ・・・」
「それなら・・・」
窓際にいた男が、シルキーを促した。
そっと窓辺に立った。
そこからは、ロアもヴァンもよく見えた。
「見てると、わかるよ。」
シルキーはぎゅ、と両手を握り、外のヴァンを見つめた。