第63話
ハンドルネーム、美玲。結月の参加した第三ゲームでリーダーを務めた少女。だが彼女はリーダーに向いていなかった。美玲の指揮に従った結果、六人中二名のプレイヤーが命を落とし生き残った四名も別行動を強いられ、最終的には結月のフォローで何とか事なきを得ている。
結月はゲーマーとしてのプライドを守るために行動しただけであり、恩着せがましいことを言うつもりはさらさらない。が、正直記憶に残るようなプレイヤーではなかった。
「……」
「まだ続けてたんだね。今何回目?」
あんなプレイスタイルでよく死ななかったな、という辛辣な感想は胸の内に押し留めながら結月が問う。
「今回で、ちょうど三十回目です」
「……え」
まさかの数字に結月は思わず絶句した。いくら結月がサボり気味だったとはいえ、かなりのハイペースである。
「私は、あの日の雪辱を果たすことだけを考えてゲームを続けました。全てはあなたに借りを返すため。なのに……どうして? 私とあなた、一体何が違うと言うのです。私は間違えてなんていない、間違えて、ない……」
最後の方はよく聞き取れなかったが、結月に対抗心を燃やしていたことは理解できた。先ほどのゲームは、きっと美玲なりのリベンジだったのだ。自分の指揮が、選択が、正しかったと証明するための。結果的に今回も結月の勝利で終わったわけだが、美玲は納得できないだろう。
だが、本人の心持ちなど関係なく運営は公平にゲームを進める。結月の携帯端末には大量のサイコロが移されていた。これだけあればクリアも夢ではない。それでも、結月の心は晴れなかった。
ここで、美玲のゲームは終わる。この街においてゲームの終わりは命の終わりだ。負ければ自分が死に、勝てば相手の命を奪うことになる。少し前の結月なら、そんなものだと簡単に割り切ることができただろう。それが今は辛い。
それでも、結月は選択した。もう無意味に生き長らえることはしない。この一瞬に全てを賭けてゲームをする。だから。
「さようなら」
背後で嗚咽を噛み殺す美玲を一瞥し結月は扉を開けた。彼女の命を一欠片ずつ消費して歩みを進める。周囲から徐々にプレイヤーの姿が消えていく。部屋の隅で膝を抱えているプレイヤーは既に脱落が決定しているのだろうか。
身体に纏わりつくような視線を意識から排除して重い足を動かした。ゴールまでは残り十マス。手持ちのサイコロはあと二つ。強行するにはやや厳しい。補充が必要だ。そう判断した結月が顔を上げると、またもや見覚えのあるプレイヤーが白い床に腰かけていた。
「……来たのか、結月。久しいな」
「……伊織」
今度はスムーズに、その名が結月の口から零れる。結月が初参加したゲームで唯一無二の親友を失った男。死に場所を求めるかの如くゲームに挑んでいたプレイヤー。第二ゲームで再会した時でさえやつれていたというのに、今はもう生気すら感じられない。
「調子はどうだ」
「……まあまあ、かな。あと一回決闘で勝てればクリアできると思う。伊織は?」
「俺も似たようなものだ」
「そっか」
結月は何となく伊織の隣に座り込んだ。伊織は煙草に火をつけると静かに紫煙を吐き出す。
「少し、話をしないか」
「……いいよ。私も、誰かと話したい気分だったんだ」




