第62話
第十ゲーム開始からおよそ三十分が経過した。結月はサイコロを賭けた【決闘】を繰り返し、今は五十二マス目まで到達している。ゴールは百マス目のようだからすでに半分は踏破した計算だ。
現時点での手持ちはあと五つ。全てのサイコロで【六】を出したとしても到底足りない。そろそろ【決闘】でサイコロを補充したいところである。だが【決闘】は持ち掛けられた側に内容の選択権が存在するため、安易に勝負を吹っ掛けるのは悪手だ。
結月が部屋の隅に座り込んで他のプレイヤーの動向を窺っていると、見覚えのある少女が険しい表情で声をかけてきた。
「お久しぶりですね、結月さん」
「…………ごめん、誰だっけ」
適当に話を合わせても良かったのだが、眼前の少女はお世辞にも友好的な態度とは言えなかったため素直に聞き返す。煌びやかな金髪をツインテールに結い上げた少女は、怒り心頭といった様子で結月を睨み付けた。
「まさか、私のことを忘れているとでも仰るおつもりで?」
「うん、ごめん。見覚えはあるんだけど、名前まではちょっと……」
やはり話を合わせておくべきだったかもしれない。やや後悔しつつ、もう後には引けなくなった結月は可愛らしく小首を傾げて見せる。これで零や唯斗は大抵のことを許してくれるのだが、この少女にも通用するだろうか。
「なんてことなの……。私はあの日の屈辱を一日たりとも忘れたことなどないというのに……! 一体どこまで私を愚弄すれば気が済むのですか、あなたは!」
するわけがなかった。
「ごめんって……」
このままでは埒が明かないと思った結月は、一刻も早く面倒な事態から逃げ出す口実として【決闘】を持ち掛けてみる。
「じゃあさ、そんなに私が嫌いなら【決闘】でもする? それで私が勝ったらいつかの恨みも水に流してよ」
「……いいでしょう。では、フィールドは廃ビルの一室。そこからの脱出ゲームで決着をつけましょう。私は手持ちのサイコロを全て賭けます」
何とも強気な賭け方だ。負ければこのゲームからの脱落が確定するというのに。それにしても。
(廃ビルからの脱出ゲーム、か)
そのゲーム内容に結月は覚えがあった。結月が挑んだ第三ゲームは確かそんな内容だったはずだ。あのゲームで、結月は莉乃と出会った。
閉じていた瞳を開くと、そこはすでに決闘会場。荒れ果てたビルの一室を丸々再現された空間にはどこか懐かしさすら感じる。
「……よし、やるか」
とはいえ感傷に浸っている余裕はない。結月は零のアドバイスを思い出しながら丁寧に室内を調べ始める。倒れたロッカーや机の引き出しを調べ、飛び出してきた針を紙一重で避けた。
競争相手がいると思うと結月の脳裏にも焦りや不安がよぎる。見落としがあるのではないか。何か思い違いがあるのでは。自分のやり方が根本から間違っているような気すらしてくる。
(大丈夫だ、これでいい。零さんだって私のことを考えて教えてくれてたんだから)
一瞬の隙をついて雨のごとく降り注いできた槍を結月は飛び転がって回避した。だが、どれだけ探しても鍵は見つからない。部屋の隅から隅まで探し回った結月は、一度散乱していた回転椅子を手元に引き寄せて腰を下ろす。
(考えろ。絶対、この部屋のどこかに鍵はある……)
冷静になって零の言葉を思い返していた結月は、先ほど落下してきた槍に視線を向けた。さほど太くも長くもない、どこのゲームでも罠として使われている槍。
『覚えておけ、結月。脱出型のゲームでは罠自体を利用しなければクリアできないものもある。俺の経験としてはそう多くないがな』
零は確かに、そう言っていた。結月は槍を手に取るとロッカーの上をその槍で探ってみる。すると小気味のいい音を立てて金色に輝く鍵が床に落ちた。その鍵を拾い上げ、鍵穴に差し込むと同時に結月の全身は光に包まれる。そして第十ゲームの舞台である白い部屋へと戻された。
「……ようやく思い出したよ。どこかで会ったなとは思っていたけど、あのゲームだったんだね」




