第61話
夢を、見る。もう何度も見た夢だ。
暗い、昏い闇の中、ただ静かに佇む少女が二人。片方は結月で、もう片方は莉乃だ。二人は互いに向かい合い、見つめ合っている。
何か、言わなければならない言葉があるような気がした。だが声が出ない。やがて、莉乃が口を開く。吐き出される台詞を聞きたくなくて、結月は数歩後ずさった。
(やめてくれ……)
その先は、言わないで。きっと、紡がれる言葉は結月を。
(私を……壊さないで)
耐えきれずに背を向ける。そして走り出した。結月は今でもなお、莉乃から逃げ続けている。
※※※
目を開くとそこは夢とは正反対の場所だった。一面の白い床と壁。五十名ほどのプレイヤーでひしめく正方形の部屋で結月は目を覚ました。ここが今回のゲーム会場。通算十回目のゲームに結月は挑んでいる。かつては紗蘭すら追い詰めた節目のゲーム。
十回目や二十回目のような区切りの良いゲームでは不運が重なるというジンクス、もとい都市伝説はプレイヤー間でまことしやかに囁かれ続けている。結月の現在の状況を鑑みるにそれもあながち間違いではないのかもしれない。
『大変お待たせいたしました。プレイヤーの皆様は携帯端末に表示されているサイコロを振ってゲームを始めて下さい。道中、他プレイヤーとの【決闘】で手持ちのサイコロを増やすことも可能です。では、ご武運を』
と、NPCのアナウンスが流れゲームの開始が宣言された。いつものことながら雑な説明である。結月は端末に視線を落とし、表示されているサイコロをタップした。画面の中で回転を始めたサイコロはやがて止まり【一】という数字が映し出される。
「なんて幸先の悪い……」
次々と部屋を出ていくプレイヤーの後に続いて結月は次の部屋に足を踏み入れた。多くのプレイヤーはさらに扉を開けて進んでいくが、結月はここで一度サイコロを振り直さなければならない。不正防止のためか、扉の上には二挺の銃器が取り付けられていた。無理矢理突破することはできそうにない。
結月が再びサイコロを振ろうとすると背後から何者かに声をかけられた。振り返るとプラチナブロンドの髪をポニーテールに括ったプレイヤーが立っている。
「何か?」
「ここで立ち止まっているということは、あなたも【一】が出てしまったんでしょう? こんな調子じゃ私たちは無事にクリアできるかも分からない。そこで……私と【決闘】しませんか?」
どうやら、このプレイヤーは余裕を持ったクリアを目指したいようだ。早々に【決闘】で多くのサイコロを獲得しておきたいらしい。まだ手持ちが多く残っている状態であれば交渉もしやすいし、後々泣きを見るよりは賢い選択か。
「いいよ。やろうか」
「では、対戦内容を決めて下さい」
【決闘】は持ち掛けられた側に選択権が存在する。結月は少し迷ったあと、射撃を選んだ。この少女には申し訳ないが、確実に勝てる種目で勝負させてもらう。選択後、二人の身体は光に包まれ次に目を開けると眼前に簡素な射撃場が出現していた。
賭けるサイコロは互いに二つ。五回勝負で片をつける。結月は拳銃を手に取ると数十メートル離れた的に照準を合わせた。そして自身の感覚を信じて連続で引き金を引く。放たれた銃弾は的の中心を正確に撃ち抜いた。こうして結月は手堅く百点満点を叩き出す。それを見て相手の少女は苦笑した。
「……お見事です。これでは勝てませんね」
そう言いつつも少女の合計点は九十五点。あと少しで同点に並ばれるところだった。
「やはりダメでしたか。最初の約束通り、これはあなたに差し上げます」
端末を経由してサイコロを二つ受け取り、二人はあの白い部屋で別れる。結月は【三】以上の数字が出ることを願ってサイコロをタップした。
回転するサイコロ。ゆっくりと回転が緩やかになっていき、動きが止まる。表示された目は【六】。




