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アルカディア・ゲート  作者: 葉月エルナ


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第60話

 あれから約一ヶ月。結月は一時的にゲームから離れ、まるで東京にいた時のような生活を送っている。

 

(本当に、これでいいのか? このまま、仮初めの安寧にすがり続けたって……)

 

 何も変わらない。東京で自堕落な生活を送っていたあの日の自分は、一体何を思ってここに来たのだったか。

 

(本気になれることを見つけたい)

 

 そして、本当は。


 起こるはずのない非日常に初めて(・・・)心を動かされたから。どんな高難易度のゲームでも結月の手にかかれば一週間でクリアできた。だったら、命がけのデスゲームはどうだろう。まだ誰もクリアしたことのないゲームをクリアできたならば。

 

(もっと、人間らしくなれるかもしれないと思った)

 

 人と違う自分が嫌だった。誰にも負けたことのないゲームで人生を変えたいと思っていた。だが、蓋を開けてみれば自分には何の力もない。そう思い知らされ、挙げ句の果てには初めてゲームで負けた(・・・)

 

 とは言っても結月はまだ生きているし、傍目に見る分では負けていないと言う人間もいると思う。それでも、結月は確かに負けたのだ。守りたいと思っていた命を、守れなかった時点で。

 

 そのことを自覚して、結月は一週間ほど全てがどうでも良くなった。そもそも結月がゲームを選んだのは一度も負けたことがなかったからで。決して好きでやっていたわけではない。

 

 それでも、二週間ほど経った頃には周囲の人間の手助けもあり結月は再びプレイヤーとしてやり直すことを考え始めた。ならばなぜこんな部屋の片隅で膝を抱えて燻り続けているのか。


 答えは単純で携帯端末を手に取ると、より正確に言うならばゲームの開催スケジュールを目にすると、あの日の光景がフラッシュバックしてしまうから。つまりはトラウマである。

 

「お邪魔します、結月さん。お久しぶりですね」

 

 と、雑なノックと共に怜央が姿を現した。今日は零が来る予定だったのだが、何かあったのだろうか。

 

「久しぶりだね、怜央。カジノゲーム以来かな」

「そうですね」

 

 怜央はベッド隣の椅子に腰を下ろして足を組む。

 

「来てくれるとは思わなかったよ。零さんは一緒じゃないの?」

「兄さんは忙しいので」

「そっか」

 

 口下手な結月ではそれ以上会話を続けることができずに、二人の間を静寂が支配する。これが唯斗であれば放っておいても一日中話していてくれるのだが。

 

「結月さん」

 

 気まずい沈黙に結月が耐えきれなくなったタイミングで怜央が口を開く。

 

「いつまでそうしているつもりですか?」

「……」

「まさか、怖くなったなんて言いませんよね」

 

 沈黙以上に気まずい言葉の弾丸を浴びせられた。

 

「別に怖いわけじゃないよ。ただ、思い出しちゃうだけで……」

「それをビビってるって言うんですよ」

 

 どうやら怜央に優しさを期待した結月が馬鹿だったらしい。

 

「いい加減、あなたの甘えた感情で兄さんに迷惑をかけるのはやめて下さい。それができないなら……ゲームでも何でもしてさっさと死ねばいいんじゃないですか?」

 

 結月が何か言う前に怜央は席を立った。そして振り返ることすらせずに部屋を出ていく。結月はその後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。

 

 一方、廊下に出た怜央は予想外な人物と遭遇する。

 

「やっほー」

「……唯斗さん。どうしてここに?」

「零から様子見てきて欲しいって言われてね」

 

 意外と心配性だよね、と唯斗は苦笑した。

 

「必要ありませんよ、僕は子供ですか」

「……あれで本当に死んじゃったら怜央のせいだよ」

 

 不機嫌そうな怜央を引き留めるように唯斗が言う。怜央は扉の前で立ち止まってため息をついた。

 

「誰も言わないから、僕が言ってあげたんじゃないですか」

「嫌われ役を買って出てるってこと?」

「お譲りしましょうか?」

「いやいや、誰がどう見ても俺は癒やし担当でしょ。唯斗さん唯斗さんって慕われてたいの、俺は」

「それ、都合が良い男だって思われてるだけですよ」

 

 おどけて見せる唯斗に怜央が冷や水を浴びせる。相変わらず容赦がない。

 

「……まぁ、真面目な話あの子は大丈夫だと思います。そのくらいは信用してますから」

 

 最後にそう言い残して怜央は今度こそ去っていく。その背中が見えなくなると唯斗は部屋の中に向かって声をかけた。

 

「だってさ。良かったね、結月ちゃん」

 

 廊下でのやり取りに聞き耳を立てていた結月は一瞬身体を硬直させる。

 

「さすがは唯斗さん。バレちゃってたか……」

 

 扉に背中を預けて、結月は意を決したような表情で携帯端末に手を伸ばした。

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