第58話
第四種目は玉入れ。ただし使用するのは布製の普通の玉ではなく、何度か強い衝撃を与えると爆発する小型爆弾だ。そのため一つ一つ確実に投げ入れなくてはならない。
この競技には莉乃が選ばれたのだが、彼女は手が震えて上手く玉を投げられず同じく選抜された他のプレイヤーから戦力外通告を受けていた。代わりにゲームクリア数最多を誇る紗蘭が活躍し、僅差ではあるが白組に競り勝つ結果となる。
「お役に立てず申し訳ないです……」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。勝てたんですから良しとしましょう」
フィールドの隅で勝負の行方をただ見守っていた莉乃が、肩を落としながらテントに戻ってきた。紗蘭に励まされている莉乃に結月はペットボトルの水を手渡す。
「お疲れさま。二人とも無事で良かった」
椅子に座って三人で水分補給をしつつ次の競技の発表を待つ。
『第五種目は千二百メートルリレーです。対象のプレイヤーは十分以内に順番を決めてスタート位置にお並びください』
どうやら次のリレーでは走る順番をプレイヤー同士で決めることができるらしい。選手に選ばれてしまった結月と莉乃は残る四人のプレイヤーと合流した。
「よろしく」
「よろしくねー」
「お二人さんは知り合いかな?」
「うん。私は結月、こっちが莉乃」
「よ、よろしくお願いします……」
六人で端的に自己紹介を済ませ、すぐに本題に入る。
「この中で走るの得意だよーって人いる?」
一人のプレイヤーが全体を見渡して問いかけるものの、皆気まずそうに目をそらす。結月も決して遅いわけではないが体力に不安があるため手は上げない。
「じゃあ逆に苦手な人は?」
今度は莉乃を含め二名のプレイヤーが遠慮がちに挙手した。
「うん。なら希望者がいなければ私が最初に走って他のみんなで二人をフォローするっていうのはどう?」
「いいと思うよ。あと私からお願いがあるんだけど私の前は莉乃にして欲しい」
「分かった。でもその順番にするなら結月さんにはアンカーを任せたいな。大丈夫?」
少女の問いに結月は頷く。チームの最後を託されるのはややプレッシャーだが、人見知りの莉乃は渡す相手が結月であれば少しは安心するだろう。それからも順調に順番は決まり、あっという間に十分間の作戦会議は終わりを迎えた。
結月が話し合い中に渡されたバトンを見てみると四分間のタイマーが設置されている。この時間をオーバーしてしまうと爆発する仕組みらしい。千二百メートルリレーの平均時間など結月は知らないが、決して無茶な設定ではないと信じたい。
何せ結月はアンカーなのだ。一番リスクが高い配役になってしまった身としては余裕を持ってバトンを受けとりたいところである。
「頑張ろうねー」
「うん、そっちも頑張って」
他のプレイヤーと別れ、結月は不安そうに俯いている莉乃に声をかけた。
「莉乃、力みすぎなくて大丈夫だからね。気負わないで普通に走ってくれればいいから」
「は、はい。結月さんも頑張って下さい……!」
「もちろん」
そして競技は始まる。一番手を買って出てくれた少女は思いの外速かった。白組を突き放したまま次の少女にバトンを渡す。その後もトラブルはなく三番目のプレイヤーが走り出した。先ほど走るのは苦手だと言っていた少女だ。確かに今までより白組との差が縮まってしまっている。ギリギリ抜かされることはなく四番目の少女にバトンを渡したものの思ったより相手のプレイヤーが速い。
次の走者は莉乃だがバトンの受け渡しに手間取り白組に抜かされてしまった。差がかなり開いた状態で焦っているのか、莉乃が結月に向かって必死で腕を伸ばしバトンを渡そうとする。結月もすぐに受け取れるよう体勢を整えた。だが。
「……っ!」
爆発物を持って走っているという恐怖からか、震える莉乃の手をバトンがすり抜ける。あと一メートルほどの距離を残して乾いた落下音が二人の耳に届いた。反射的に結月の身体は後ろに逃げる。次の瞬間、強い衝撃を受けて地面を転がったバトンは莉乃の足元で爆発した。
「莉乃!」
我に返った結月は舞い上がる砂塵の中に飛び込む。
「莉乃、しっかり……」
最後まで言い終わらぬ内に結月は息を呑んだ。彼女の身体は大きく損壊し、崩壊が進んでいる。これでは助からない。見開かれた瞳からはすでに生気が感じられなかった。
「莉乃? 莉乃、莉乃!」
亡骸にすがり付く結月の手にポタポタと雫が落ちる。
「死んじゃダメだ……。莉乃! しっかり……私の、目を……見て……」
「結月さん!」
テントから飛び出してきた紗蘭が結月を背後から強く抱き締めた。
「結月さん、もう、休ませてあげましょう……」
「大丈夫だよ、まだ死んでない……! 莉乃! 返事、して、よ……」
「この子は十分、頑張りましたよ……」
その時、皮肉なほど眩しく輝く太陽の下に一人の少女の慟哭が響き渡った。




