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アルカディア・ゲート  作者: 葉月エルナ


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第57話

 何度経験してもこの瞬間に慣れることはできない。深く息を吐き、呼吸を整える。何気なく待機スペースを一瞥すると、気楽な結月のサムズアップが返ってきた。

 

(……そうですね。私はまだ、こんなところで死ぬわけにはいきません)

 

 ややぎこちなく、だがしっかりと同じジェスチャーで応じて紗蘭は前を向く。ほぼ同時に響くスタートの合図。他の三名を置き去りに、紗蘭は躊躇うことなく飛び出した。残り五十メートルを切った辺りで地面が蠢き隆起する。


 微妙に速度を落として歩幅をずらし、紗蘭は壁の一歩手前で踏み切った。足が少しでも当たらないように余裕をもって高く飛び、緊張でバランスを崩しながらも何とか着地。手堅く一位を奪取する。背後から聞こえる爆発音には気付かない振りをして、二人が待つテントに戻った。

 

「お疲れさま、圧勝だったね」

「紗蘭さん、すごいです……!」

 

 水の入ったペットボトルを手渡され、紗蘭は椅子に座り込む。

 

「ありがとうございます。流石に今回ばかりは肝が冷えました」

 

 紗蘭は水に口をつけると胸を撫で下ろした。その間もNPCは校庭を忙しなく動き回り、次の競技の準備をしている。第二種目はハードル競争のようだ。その様子を見た莉乃が結月の隣で青ざめる。

 

「わ、私、あれ跳べたことないです……」

「ハードルって難しいの? 私やったことないんだよね」

 

 不登校かつ万年引きこもりの結月にハードルを経験する機会など訪れるはずもない。一応テレビで見たことはあるがそれだけだ。失敗が即死亡を意味するぶっつけ本番は勘弁してもらいたいところである。

 

 そんな結月の真摯な願いが通じたのか、モニターに表示されたのは無関係な番号ばかり。莉乃と結月は二人揃って安堵のため息をついた。

 

 競技が始まり、ハードルに接触したり倒してしまったプレイヤーが次々に脱落していく。計五個のハードルを全て飛び越えられたプレイヤーは八名中三名のみだった。半数以上が爆発に巻き込まれて命を落とす結果となる。

 

 第三種目は障害物競争。ここに来て初めて結月の番号がモニターに映し出された。

 

「結月さん、お気をつけて」

「応援してます……!」

「うん。行ってくるよ」

 

 設置されている障害物を観察しながら結月はスタート位置に並ぶ。NPCの合図で一斉にプレイヤーが走り出した。最初の障害物は平均台渡り。体力のない結月はスタートこそ出遅れたものの、持ち前のバランス感覚で他のプレイヤーを引き離す。思いの外結月はこの競技に向いていたらしい。

 

 だが、網くぐりの網を持ち上げた結月の手に突然鋭い痛みが走った。見ると網の隙間に無数の針が仕掛けられている。簡単に終わらせるつもりはないということか。結月は思いきって網を被ると地面を這うようにして進んでいく。

 

「いった、痛いなぁ!」

 

 体操服はどうしても露出が多い。身体の至るところに針が突き刺さり皮膚が裂ける。痛みに耐えながら無限にも思えた網の中から脱出し、最後の障害物に向かった。現時点で結月は二位。距離を詰めるならここしかない。

 

 趣向を変えたのか最後の障害物は射撃。結月が最も得意とする競技だ。素早く拳銃を手に取り、数メートル離れた的に向かって照準を合わせる。初弾で正確に中心を撃ち抜いた結月は苦戦しているプレイヤーを尻目に一位に躍り出た。そしてゴールテープを切る。

 

「結月さん! 大丈夫ですか……?」

「ある意味一番性格の悪い競技だったかもしれませんね……」

 

 腕や足に無数の細かい切り傷を作った結月は椅子に座るのも一苦労の状態だ。その時、最後尾を走るプレイヤーが最後の障害物である射撃に取りかかる。だが。

 

「え……?」

 

 鼓膜を震わせるほどの爆発音。握られた拳銃がバラバラのパーツと化して地面に落ちる。暴発だ。

 

 拳銃は全部で四挺用意されていたが、その中に外れ(・・)の銃が紛れ込ませてあったのだろう。結月は特に深く考えることなく銃を選んだが、あれを選んでいたら今ごろ自分はこの世にいなかった。

 

 あの競技で本当に試されていたのは射撃の腕などではない。極限状態で確実に当たり(・・・)を引く、生まれ持った運だったのだ。

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