第28話
元々一人で挑むつもりだったゲーム。美玲に邪魔されてしまい、ここまで好き勝手に引っ張り回されたがそもそも彼女はリーダーに向いていない。見切りをつけるならここだ、と結月は思った。
「分かった、非常階段を使おう。私はどこか分からないから案内してくれる?」
結月の返答が意外だったのか、莉乃は顔を上げてきょとんとしている。だがすぐに頷いて立ち上がった。
「美玲、私たちは別のルートで脱出するよ。じゃあね」
引き留める美玲の声を無視し、結月は莉乃の手を引いて走り出す。タイムリミットは、既にギリギリだ。
「こっち、です……」
「こんな道あったんだ……気づかなかったな」
莉乃に連れられ結月は非常階段に続く扉の前に辿り着く。鍵が開いているか不安だったのだがその心配は杞憂に終わった。懐中電灯で先を照らしながら罠を警戒しつつ早足で進む。
「あ、あの。聞いても、いいですか?」
と、結月の背中に張り付いている莉乃が唐突に口を開いた。恐らく無言の時間に耐えられなくなったのだろう。
「結月さんは、どうしてこんなゲームに参加されたのですか?」
「本気になれることを見つけたかったからだよ」
結月は即答した。莉乃はあまり理解できていない様子だったが「そうなんですね」と相槌を打って黙り込む。
「莉乃は? なんでここに来たの?」
「私は、親がいなくて施設で育ったんですけど、その施設で上手くいかなくて。学校でも馴染めないですし、居場所がほしかったんです。そんな時、案内役さんが訪ねてきてゲーマーの街があるって。だから、そこでならって、思ったんですけど……」
「そっか。大変だったんだね」
結月には一応両親がいて、学校にも行っていない。だが莉乃はそうではないのだ。結月は生まれて初めて、自分の人生が他人に比べればまだマシなものなのかもしれないと思った。
「……ここから解放される方法って、ないのでしょうか?」
莉乃は結月の制服を掴みながらポツリと呟く。独り言のようなその問いに結月は案内役から聞いた答えを返した。
「百回のゲームクリアで元の場所に帰れるみたいだよ。それまではここでゲームを続けるしかない」
「こんなことを、あと九十九回も……」
結月の背後で莉乃が項垂れる。未開発エリアでは売春でその日暮らしの生活をしているプレイヤーもいるが、結月はあえて莉乃にこのことを伝えなかった。彼女にはあくまでもプレイヤーとして成長してほしいと思ったからだ。
「ちなみに、百回クリアを達成した人っているんですか?」
「いや、まだいないらしい。九十九回クリアしたプレイヤーはいるって聞いたことがあるけどね」
結月は以前、零に莉乃と同じ質問をしたことがある。その時に九十九回で引退した伝説のプレイヤーの存在を教えてもらったのだ。あと一回クリアするだけで解放されるというのに、自らここに留まることを選んだプレイヤー。
「すごい人ですね。でも、どうして引退してしまったのでしょう?」
「多分、帰りたくないからだろうね」
零曰く、彼女はかなりの変わり者で人付き合いを極端に避けているのだとか。零も三回程度しか会ったことはないと言っていたが、ゲームの腕は達人級らしい。
「私なら、すぐにでも帰りたいです……」
「大抵の人がそうだと思うよ。ただ、彼女にとっては……」
ここが、楽園なのだろう。




