第22話
一旦紗蘭と別れ、別行動中の結月は森の中を駆け抜ける。道中遭遇した狼型の魔物を二体討伐し携帯端末を確認してみたのだが、順位は大して変わっていなかった。
それはそうだろう。明確な安全圏などない以上、全プレイヤーがこのミッションに死に物狂いで挑んでいる。正攻法で差を縮めることは事実上不可能なのだ。だから零の『裏技』に頼るしかない。
「それにしても、流石は零さん。考えることがエグいなぁ」
零の考案した裏技とは、タイムリミットまでの三時間で三十五名のプレイヤーを殺し尽くすというものだった。つまり、運営が間引くはずの三十五名を一足早く零が間引く。そして強制的に参加プレイヤー数を五十名にする。そうすれば例え最下位だろうと結月はゲームをクリアできるというカラクリだ。
「ヤバイ、疲れた。もう限界……」
普段から自室に引きこもり、外出は週二回の人間に体力などあるはずもない。結月は足を止めると、近場の洞窟に背中を預けるようにして座り込む。
「もうちょっと運動しておけばよかったかな……」
全力疾走したせいで痛む足を撫でながら結月がポツリと呟いた。その時洞窟の入り口から一人の男性プレイヤーが姿を現す。結月は咄嗟の判断で刀の柄に手をかけた。
「あれ? 君、もしかして結月ちゃん?」
「え? あ、うん。そうだけど……」
どうやらこのプレイヤーは結月のことを知っているらしい。だが結月には全くと言っていいほど身に覚えがなかった。
目元を覆い隠すほど長く伸ばされた前髪と銀髪のウルフカット。身長は零よりも高くスタイルが良い。さぞ女性プレイヤーからは人気があるのだろうと結月は推察した。いくら人の顔と名前を覚えるのが苦手な結月でも、ここまで個性的なプレイヤーを忘れはしないだろう。
「零に聞いてない? 俺、唯斗っていうんだけど」
「……ごめん。全然聞いてない」
唯斗、と名乗ったプレイヤーは結月の隣に腰を下ろして苦笑する。
「そっか。零って意外と肝心なこと伝え忘れるんだよねー」
「二人は、知り合いなの?」
「うん、ここに来た時から仲良くしてもらってる。まぁいっつもこき使われてるけど、もう慣れちゃったなー」
唯斗は足を気にしている結月に気がついたらしく、首を傾げて口を開いた。
「結月ちゃん、足怪我しちゃったの? 大丈夫?」
「あ、これは怪我じゃなくて、単に疲れただけだから気にしないで。ちょっと痛いけど、大丈夫」
「そういう時は冷やすとマシになるよ。すぐ近くに川があるから連れて行ってあげる。おいで」
言うが早いか、唯斗は結月を横抱きにして歩き出す。一拍遅れて状況を把握した結月は全力で抵抗するものの、落とされそうになったため諦めた。
「ねぇ、私自分で歩けるよ。骨折してるわけじゃないんだし……」
「でも痛いんでしょ? じゃあダーメ。大人しく甘えておきな」
結局唯斗になだめられながら川まで辿り着き、結月はようやく解放される。ローファーと靴下を脱いで川の水に足を浸けると、確かに痛みが和らいでいくのを感じた。
「どう? 少しは良くなった?」
「うん、冷たくて気持ちいい。ありがとう」
「はい、どーいたしまして」
結月はスカートから携帯端末を取り出して順位を確認する。ミッション終了までの残り時間は約十五分。生き残っている参加プレイヤー数は、四十九名。結月は当然最下位だったが、それでも生存枠は勝ち取れた。
「良かった。零さんに感謝しないと……」
「俺は?」
「え?」
「俺も零に言われて十人くらい殺して回ったんだけど、俺には何もないの?」
それは初耳である。まさか唯斗に協力を要請していたとは。だが冷静に考えてみれば、いくら零でも一人で三十五人を仕留めるのは無理だろう。しかも三時間というタイムリミット付きなのだから。
「そうだったんだ。じゃあ唯斗さんも、あとでお礼させてね」
「マジ? やった。何してもらおっかなー」
「無茶なお願いはやめてよ……?」
言い知れぬ恐怖を感じながら結月はゲーム終了の時を待つ。やがて端末から最後のブザーが鳴り響いた。
『プレイヤーの皆様にお知らせいたします。現時刻をもってゲームは終了。これより現実世界への転送を行います』
そして第二ゲームは終わりを告げた。




