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第2話

 複製空間のため血臭や死臭の類までは再現されていないが、それでも見ていて気分のいいものではない。雫の亡骸には白いシーツが被せられていた。料理場の入り口付近では栗色の髪のプレイヤーが顔を覆って泣いている。


 千花だった。このゲームに初参加の彼女には刺激が強すぎたのだろう。その隣では古参プレイヤー『楓華(ふうか)』が付き添い、小さな背中を撫でている。


「千花、大丈夫かい?」


 楓華の問いかけに、肩を震わせながらも千花は頷いた。楓華は次に結月へと視線を向ける。


「おはよう、結月。朝早くに呼び出して悪かったね」

「いや、いいよ。それよりも……」

「あぁ。まぁ、見ての通りだ」


 楓華は雫の遺体を指差すと続けて口を開いた。


「雫が殺られた。今は全員から話を聞いているところさ」


 なるほど、と結月は頷く。壁際には二名の男性プレイヤーが控えていた。颯真(そうま)伊織(いおり)である。紗蘭の言っていた通り、調理場に参加プレイヤー全員が集められているようだった。


 初心者らしい演技をしなければと思い立った結月は咄嗟に口元を手で押さえる。それを見た颯真が心配そうに結月へ声をかけた。


「結月ちゃん、大丈夫?」

「うん。ちょっと気持ち悪いけど、大丈夫だよ」

「そっか。でもあんまり無理しちゃダメだよ? 初参加なんだから」

「わかってる。ありがとう」


 どうやら疑われてはいないらしい。颯真は今回が十三回目のゲーム参加であり、この中では千花と結月の次に経験が少ない。そのため、初心者の二人を気遣っているのだろう。


「それはそうと、お前は昨日の解散から今までどこで何をしていた?」


 と、これまで沈黙を貫いていた伊織がやや威圧的とも取れる口調で結月に問いを投げた。


「伊織、初参加の、それも女の子相手にそんな言い方は……」

「自室に引きこもって寝ていたよ」


 颯真が結月を庇うように伊織を宥めたが、結月は怯むことなく即座に切り返す。


「命がけのゲームで、か?」

「もちろん警戒はしていたけれどね。部屋に戸棚があったでしょ? あれを扉の前に置いて、外から侵入できないようにしてたんだ」


 嘘ではない。いや、より厳密に言うならば結月はとある()()のせいで眠れていないのだが自室に引きこもっていたのは事実だ。


「まぁまぁ。これで全員の話が聞けたわけだし話を先に進めようか」


 その一言で五人の視線が楓華へと注がれる。


「ひとまず、一度解散にしようと思う。まだこの中に犯人がいると決まったわけじゃないし、NPCの仕業という可能性も残っているからね。それで夜になったら、全員で洋館を探索する。どうかな?」

「いいと思います。私は賛成です」


 楓華の提案に紗蘭は迷うことなく頷いた。結月としても異論はない。だが、そうではないプレイヤーもいた。


「悪いが俺はパスさせてもらう。やりたい奴だけで勝手にやれ」


 伊織だった。


「伊織、あまり非協力的だと疑われてしまうよ?」

「それもお前たちの勝手だ」


 たしなめる楓華のことも意に介さず、伊織は調理場を後にする。その後ろ姿を見送って楓華はため息をついた。


「まったく。伊織は相変わらずだね。一匹狼もいいけれど、少しは協調性という言葉を覚えてほしいものだ」

「彼は人とのなれ合いを極端に嫌うからなぁ。協力してもらうのは難しいだろうね」

「……わかっているさ。まぁいい、颯真はどうする?」

「もちろん、僕はやるよ」


 紗蘭に引き続き、颯真も参加の意を表明した。残るプレイヤーは結月と千花だけだ。紗蘭が心配そうに小首を傾げながら結月へと問いかける。


「結月さんは、いかがですか?」

「せっかくだし、私も参加しようかな。ゲームのことにも詳しくなっておきたいしね」

「そうか、よかった。歓迎するよ。千花は?」


 いまだに楓華の背中に隠れて目元を擦っている千花はゆっくりと首を横に振った。


「わた、しは……まだ、怖い、です。部屋から……出たくない……」

「うん、わかった。無理強いするつもりはないよ。今夜の探索はこの四人でやろう」


 そのあと集合時間と集合場所を決め、夜までは自由行動となった。

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