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アルカディア・ゲート  作者: 葉月エルナ


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第18話

 伊織と別れ、洞窟へ戻った結月は仮眠を取っている紗蘭の隣へ腰を下ろす。すると寝返りを打った紗蘭がゆっくりと瞳を開いた。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「いえ、大丈夫です。そこそこ眠れましたから」

 

 普段の調子を崩さず答える紗蘭はとても寝起き姿には見えない。数多くのゲームを経験してきた彼女は浅く眠る技術を習得しているらしい。そうしないとVRMMOのゲームにすぐ適応できないのだとか。

 

 それを聞いた時、結月は絶望したものだ。何せ結月は寝起きが壊滅的なまでに悪い。起きてからの三十分間は全く頭が働かないし、一時間は動きが鈍る。果たして結月がこの技術を習得できる日は来るのだろうか。

 

「そんなことより結月さん、どこかにお出掛けされていたのですね」

「うん、ちょっとその辺を散策してたんだ。暇だったからさ」

「そうなんですか。ちなみに何か収穫はありましたか?」

 

 毛布を結月に手渡しながら紗蘭が問う。込み上げてくる欠伸を噛み殺して結月は口を開いた。

 

「収穫かどうかは分からないけど、さっき伊織に会ったよ。他には特に何も」

「……なるほど。伊織さん、今回のゲームに参加しているんですね。颯真さんの一件がありましたから、しばらくはゲーム自体を避けるものと考えておりましたが……」

「それがむしろ逆。無茶してゲームをこなしてるみたい。大分参っちゃってたし」

 

 あの様子では長くは保たないかもしれない。素人の結月にもそう思わせるほど伊織はやつれてしまっていた。

 

「やはり、お辛かったのですね。伊織さんはもしかしたら、己の死に場所を探しているのかもしれません」

「……そうかもね」

 

 自身の運命をゲームに委ねる。紗蘭曰く、そういうプレイヤーは案外多くいるらしい。

 

「まぁ、私にできることはしてきたつもりだしここから先は伊織次第だよ。立ち直るのも、どこかのゲームで終わるのも」

「……はい」

 

 冷酷なようだが、これは本人の問題だ。赤の他人に解決することはできない。


「……」


 気まずい沈黙が二人の間を支配しかけたその時、携帯端末から自動音声が流れてきた。

 

『プレイヤーの皆様にお知らせ致します。これより三十分の後、魔物討伐ミッションをスタート。各携帯端末に表示されるエリアへお集まりください。なお、召集に応じられなかった場合やミッション終了を待たずにエリア外へ離脱された際は即失格と見なし、死亡判定と致します。それでは、ご武運を』

 

 昨夜とほぼ同じ文言の宣言。唯一違うのは、その時間帯だ。

 

「今日は随分早いですね。まだ午後三時ですよ」

「うん、とりあえず移動しよう」

 

 結月と紗蘭は揃って洞窟を出ると携帯端末を開く。だが、紗蘭が地図を表示させている最中に結月は急激な眠気を感じた。先ほどから欠伸が止まらず嫌な予感はしていたのだが。


(よりにもよって今か……!)

 

 結月が寝落ちするまでにかかる時間は約十五分。これは調節することができない。今寝てしまったら確実に死ぬと分かっていても眠気に抗えず、結月は紗蘭の後をついていくことが精一杯の状態だ。やがてそれすらもおぼつかなくなり、結月は木に背中を預けて地面に座り込む。

 

「結月さん? どうされましたか?」

「……ごめん、紗蘭。寝落ちしそう」

「え……?」

 

 不安げに結月の顔を覗き込む紗蘭の目を見る余裕もなく、結月は端的に状況を伝えた。

 

「先に行って。タイムリミットに間に合わなくなったら大変だ」

「でも、それじゃ結月さんが」

「私はどうだっていい。端から長生きするつもりなんてないんだから」

 

 結月の説得にも応じず、紗蘭は黙って首を横に振る。

 

「駄目だよ、紗蘭。紗蘭はようやくここで自由になれたんだから、生きなくちゃ駄目だ。私なんかのせいで紗蘭が死ぬなんて、私が許せない」

「…………分かりました。ですが、またお会いできると信じております」

「……うん。きっと」

 

 そんな確証はどこにもなかったが、紗蘭を安心させるために結月は頷いた。名残惜しそうに、だが覚悟を決めて走り去る紗蘭の後ろ姿を霞み始めた視界に捉え、結月は笑う。

 

 そうだ。それでいい。彼女は手に入れた楽園で新たな人生を歩まなくてはならないのだから。

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