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第1話

「どうしたものかな……これは……」


 眼前に広がる惨状を眺め、結月はポツリと呟いた。少女の視線の先には身体中を滅多刺しにされた女の死体が転がっている。場所は僻地に聳える洋館。その調理場だ。


 だがここは現実の世界ではない。ここはVRMMO、いわゆるゲームが作り出した複製空間の中だった。


「とはいえ……本当に死んじゃってるんじゃどうしようもないね」


 これはゲーム。ここはゲームの世界。ならばその中でゲームオーバーを迎えようと、現実の肉体に何かしらの影響があるはずもない。通常は、そうだ。


 ただこれは普通のゲームではない。ゲーム内での死が現実世界での死を意味する正真正銘のデスゲーム。結月を含む七名のプレイヤーは今、命がけのゲームに参加しているのだった。


 目の前の惨殺死体はクリア回数四十九回のベテランプレイヤー『雫』のものだ。昨日の顔合わせで辛うじて顔と名前を記憶していた結月は何とか彼女のハンドルネームを思い出す。得意なゲームジャンルは恋愛シミュレーションの、無口な少女だった。


 辺りに人影がないことを確認し、結月は静かにその場を離れる。誰かにこの現場を目撃されるのはまずい。第一発見者というだけで犯人扱いされるなどごめんである。早々に自室に引きこもり、結月はベッドに腰かけてため息をついた。


 ゲームの中とはいえ、生まれて初めての殺人現場。冷静な思考回路を維持できていたのは奇跡に等しい。胸焼けに近い気持ち悪さを覚えつつ、結月は現在の状況を分析する。


 昨日は参加プレイヤーの顔合わせが終わり次第全員に部屋が割り当てられ、すぐに解散となった。運営からは生存型ゲームとだけ説明されている。洋館の外に出ることは禁止されており、完全屋内型のゲームだ。結月は角部屋で、右隣には『紗蘭(さらん)』という名のプレイヤーがいる。偶然にも結月と同い年だった彼女のことは他のプレイヤーよりもよく覚えていた。


 他には結月と同じく、このゲームに初参加のプレイヤー『千花(せんか)』のことも印象に残っている。得意なゲームジャンルは育成シミュレーションだと語っていた彼女は果たして無事だろうか。


 何はともあれ、まずは雫を殺した犯人を探し出さなくてはならない。これがゲーム内のNPCが行った殺人ならば、まだいい。問題はプレイヤーの中に犯人が潜んでいた場合である。


「NPCならある程度行動を先読みして対処できるけれど、相手が生身の人間じゃそうはいかないからな……」


 結月がそこまで考えを巡らせたところで部屋の扉が何者かにノックされた。警戒しながら少しだけ開けてみると、扉の向こうで藍色のミディアムヘアが揺れる。紗蘭だ。


「結月さん! ご無事だったのですね……」

「紗蘭? どうしたの、こんな朝早くに」


 彼女の要件などわかりきっていたが、そんな素振りは微塵も見せずに問いかける。大方雫の件に違いない。紗蘭は一度頷くと震える口を開いた。


「落ち着いて、聞いてください。雫さんが殺されました」

「……っ、雫が?」


 もちろん驚く演技も忘れない。大袈裟にならないように、しかしある程度の動揺はして見せなければ不審がられてしまう。紗蘭はすでに三十回以上もゲームをクリアしているベテランだ。疑われる要素はなるべく排除しておかなければならない。結月の演技を見破ることなく、紗蘭は静かに首肯する。


「とりあえず、一緒に来ていただけますか? 皆さん、調理場に集まっていますので……」

「わかった。行くよ」

「ただ、あの……かなり凄惨といいますか……お辛い現場かもしれません」

「うん、覚悟はしておく」


 まさかもう一度見ているから大丈夫だよ、などと言うわけにもいかず、紗蘭に促されるまま調理場へと向かった。

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