鳩
私
高校に入って2年になって
初めて彼氏できたんだ
そんな彼女の自分が言うことではないけど
彼氏はさ
顔はごくごく平凡
人によっては
「えーあんまりー?」
くらいの
別にモテて仕方ないって顔でもなくて
きっかけも
相手が渡り廊下で落としたプリントを一緒に拾ってあげただけ
それでも
それがきっかけですれ違えば話すようになって
そのうち
「付き合おっか?」
ってなってね
あはは
恥ずかしいな
それでさ
別に周りに隠すようなことでもないし
一緒に登校したり
彼の部活がない時は一緒に帰ったよ
別に珍しくないよね
普通のこと
たださ
同じ学校って言うカテゴリの中にいると
「別に顔は良くないけど
彼女持ちだから
何かしらの魅力があるんだろう」
的なさ
「行列の店は美味しそうに見える現象」
に似てるのかな
後で知ったけど
そんなろくでもない理由で
別のクラスの女子が彼氏に近づいて
半年もしないうちに
その女子としばらく二股掛けられた挙げ句
私はフラれた
その女子にも腹立ったけど
それ以上に簡単に他の女に靡いた彼氏にも腹立った
勿論
天秤に掛けられた挙げ句フラれた魅力のない自分にもね
それでさ
さっさと切り替えて新しい彼氏でも探せば良かったんだけど
初めての彼氏だし
プラトニックだったけど
正直上手く割りきれずに未練たらったらなのもあったし
何より同じ学校
同じ電車
時間は変えたけどさ
そう簡単に切り替えることも出来ない
そう
我ながら面倒な性格で
毎日の様に溜め息吐いてた
そしたら
心配してくれたのと
いい加減に立ち直れ鬱陶しい
と見かねた友達が
「心強い知り合いがいるから」
って
友達の家の最寄り駅からだいぶ離れた場所にある
全然流行ってない
時代錯誤な雑貨屋みたいなお店に連れて行かれたんだ
昔ながらの金物屋さんに外国のよく解らない小物も一緒に並んでるような謎のお店
そこの店番らしいお姉さんは
(後で知ったけどオーナーさんね)
店の一番奥のレジでだるそうに頬杖付いてた
えっとね
例えるなら
もうとっくに死語なんだろうけど
お婆ちゃんとかが
「はすっぱな女だね」
とか言いそうな見た目のお姉さん
それで
お姉さんは私を見るなり
右手をパッと広げてきて
「いくら持ってる?」
って顎をしゃくるんだよ
何かよく
ううん
本当は全く分からなかったけど
お財布には5千円あったから
「5千円」
って答えたら
「なら、せいぜい小鳥程度だね」
って
小鳥?
何のことかと思ったけど
友達が
「私も3千円出すからもう少し強いのお願いっ」
って
更に何のことか分からずに
でもその場の勢いに飲まれて5千円出した
勿論
何も買わずにお金払っただけ
お店出たら
友達が
「お姉ちゃん凄いから大丈夫!」
って勇気づけてくれた
うん
話は全く見えなかった
私はさ
空っぽのお財布見て
(あれ?そう言えば何の5千円だったんだっけ?)
と思えるくらいには
段々と失恋から浮上してきた3日後
その日の朝は
週明けでぼんやりしてたからかな
つい失恋前の
彼氏と登校している時間に駅に着いちゃって
「あーあ、顔合わせたらやだな」
と思いつつホームへ向かったんだ
そしたらさ
なぜかいつもは静かな駅が妙にざわついていて
何だろうと思いつつ階段を降りたら
ホームでね
5羽位かな
鳩に追いかけられて
情けない悲鳴を上げながら逃げ惑う姿を元彼の姿を見かけた
鳩たちは
彼の頭とか追い払おうとする腕とか手とか肩とかを
飛びながら舞いながら執拗に攻撃してた
駅にいる人はみんなそれを遠巻きに見てて
誰も助けようとはせず
中には動画撮ってる人もいた
ちょっと気持ちも解った
だって
コントみたいなんだもん
半泣きでひたすら鳩に追いかけ回されてホームを駆け回る彼を眺めてたら
駅員さんたちがやっと駆け付けて来たの
虫取網のでっかいバージョンを持ってね
そしたら
鳩たちは捕獲される前にあっという間に逃げて行った
鳩なのに
鳩には見えない俊敏さだった
ビュンッてね
それで残されたのは
髪を毟られ糞も落とされ
制服も嘴でつつかれて
何なら鳩の爪痕まで背中にいくつも残された
半べそになった元彼の姿だった
私はね
そんな彼の姿を見て
「かっこ悪ぅ……」
って思ったの
同時に
元彼への未練もスーッとなくなった
学校着いて
もう席に着いていた友達に
朝の一幕を話したら
「ね、お姉ちゃん優秀でしょ」
って誇らしげに笑った
あのお姉さん
友達の近い親戚らしくて
雑貨屋兼呪い師
なんだって
転々と住むところも変えてて
「しばらくはここに住んでも大丈夫そう」
ってところを占って見付けては
お店を広げてるんだってさ
お姉さん曰く
「自分のこともバンバン占うよ、自分の身を守れるのは自分だけだからね!」
だって
なんかかっこいい
あの5千円(プラス3千円)も
超学割と可愛い従姉妹の頼みで
ほぼタダ働きみたいなものだと教えてくれた
それでね
「もっと大人になってもっとお金稼げるようになったらまた依頼に来な」
だって
うん
顧客の種蒔きも兼ねてるっぽい
たまに遊びに行くと
「金にならん奴は来なくていいよ」
って鬱陶しがられたけど
甘党みたいで手土産の大福とかプリンは嬉しそうに食べてた
でもね
私たちの高校卒業前に
ふと居なくなってしまった
気付いた時にはお店も空っぽ
いつもそうらしい
同じところには居られないんだって
友達曰く
あれでも随分長く居たくらいだって
海外へ行くって言ってたらしいけど
でも
気紛れに連絡来るからって
そっか
それならお姉さんから連絡きたら
お金貯めて
一緒に遊びに行こうねって友達と話してるんだ
どこいるか分からないから
お金たくさん貯めておかないといけないんだけどね
私は
大学入ってからも頑張って勉強してる
主に呪い師の
こっちはほぼ独学だけど
なんか思った以上に凄ーい大変
知らなきゃいけないことたくさんある
歴史から始まって人体のこととかもうね
全部だよ全部
この世のこと全部知らなきゃいけないレベル
なんでもかんでも知らなきゃいけないんだよ
鳩をあんな風に飛ばすのも
当然だけど奇跡に近いことだった
ちゃらんぽらんに見えたお姉さん
凄かったんだなーって知った
夏休み入ってから
やっとお姉さんから連絡来たって友達から教えてもらった
お姉さんね
地球の反対側行ってた
遠すぎ
遊びに行くのは諦めて
大人しく勉強して待つことにしたよ
あぁそうだ
もうね
あんまりにどうでもよすぎて忘れてたよ
元彼はね
新しい彼女にもあっさりフラれて
その後は卒業してからも
浮いた噂1つないみたい
元からモテるタイプでもないのに調子乗った罰だね
人生の早いうちにモテ期終わって残念でしたねーって
ふふふ
そんな感じ
目指せ呪い師
まずはお姉さんの一番弟子
な
私のお話でした♪
それはキジバトだった