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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど
第一章 廃棄ダンジョンの回収屋
9/42

9.初陣

 アカリから与えられた魔剣を腰から抜剣する。

 刃渡りはさほど長くなく1メリル未満くらいだろうか、以前使っていた長剣ロングソードよりは少し短い。

 質素な装飾だが剣自体はしっかりしており、実用性の高さが伺える。

 実に俺好みの、実直な見た目の剣だ。


「さあ相棒、俺たちの初陣だ。しっかり頼むぜ」


 上位ダンジョンに入宮早々に現れたエネミーは、人型──ふむ、手に剣や斧のように見える武器を持ったオーガタイプだな。

 廃棄ダンジョンには現れない危険度の高い敵対的なエネミーだ。

 奴らは横一列に規則正しく並び、武器を構えると俺に向かって一斉に襲いかかってくる。


「さっそく切れ味のテストをさせてもらうぜ」


 俺は剣を斜め下に構えたまま、流れるようにエネミーに近接する。

 まずは左の一体が振りかぶったところで横に薙ぐ。さらに返しの一閃で真ん中のエネミーを切り裂く。これで二体。

 最後の一体が斬りつけてくるところを魔剣で弾き、そのまま顔の真ん中を突きで貫いた。

 それぞれたったの一撃。エネミーは活動を停止し、はらはらと崩れながら霧散していった。


「こいつは凄い。上位ダンジョンのエネミーをまったく相手にしないどころか、紙を切るくらいに手応えがなかったぞ」


 おそるべし切れ味。

 上位ダンジョンともなると多少なりともエネミーが固くなる・・・・のだが、ほぼ何の抵抗もなく切り裂くことができた。この魔剣、とんでもない業物だぞ。


「良い動きだな、リレオン。さすがは妾が見込んだ者・・・・・・・だ」

「お褒めに預かり光栄だよ、アカリ」


 うそぶいてみたものの、俺自身が思っていた以上に体のキレもいい。上位ダンジョンのエネミーをまったく苦にしないのは嬉しい誤算だ。


 これなら、やれる。

 俺は上を目指せる。


「リレオン、何かが残っているぞ」

「おお、さっそくドロップが出たのか」

「ドロップはこのようにして出るのか……それで、なんなのだこれは?」

「アカリ、幸先がいいぞ。こいつは魔法道具のペンだな」


 込められた魔力によって文字が書けるペン。

 こいつは貴族のニーズが多く、良い値で査定してもらえる。

 普通なら大喜びするところだが──今日の目的は金稼ぎではない。


「さてアカリ、そろそろ教えてくれよ。この魔剣はどんな〝武威ぶい“を持ってるんだ?」


 魔剣が発現する〝武威ぶい″には様々なものがある。

 たとえば王家が所有する国宝『火焔皇剣』は、文字通り火の玉を出す剣だ。他にもリリザレス英雄譚に出てくる『幻影剣』なんかは、自分の分身を作ることができるという。

 果たしてどれほどの武威ぶいを、この魔剣は持ってるのだろうか。昂る気持ちが抑えきれない。


「くくっ、気になるか? お前好みだぞ?」

「たのむアカリ、勿体ぶらずに教えてくれよ」

「ダンジョンに入るまで散々に振り回された妾の気持ちは分かったか?」

「分かったよ、悪かったよ、謝るから教えてくれよ」

「仕方ないのう……では教えてやろう。その剣はな──お主の思う長さに刀身が伸縮・・・・・するのだ」

「はあ?」


 な、なんだその能力は。

 刀身が自在に? 意味がわからない。


「別に難しいことはない。頭の中で思い描くがいい。己がイメージする〝剣の長さ″を」

「長さを思い描く──おおっ!?」


 少し力をこめると、刀身が魔力の刃となり一気に伸びていった。


「こ、これはすごいな……本当に刀身が伸びたぞ!」

「それがその魔剣の持つ力だ。満足か? リレオン」

「ああ、満足なんてもんじゃない。これ以上俺に適した剣は無いくらいだ」

「ははっ、そうであろう。なにせお主は〝近くと遠くの敵を・・・・・・・・瞬時に切り替えて・・・・・・・・戦うための準備″をしていたのだからな」


 ん? なんでアカリがそのことを知ってるんだ?

 たしかに剣のリカッソを活用して遠近織り交ぜて戦う戦闘スタイルは、俺がと戦うために編み出した特殊な剣術ものだ。

 ただ、アカリの前ではまだ見せたことがないはずだが……さてはこいつ、以前どこかで俺のことを見ていたな。

 まあ今はいい、いずれちゃんと話してもらうとしよう。


「その剣であれば、きっとお主の思い通りに戦うことができるだろう。ほら、ちょうど良いところにエネミーが来た。今度は前後からだ」

「なっ、後ろからもだと!? アカリ俺の後ろに隠れ──」

「その必要はない」


 冷静にアカリが返す通り、なぜかエネミーはアカリを無視して・・・・・・・・俺の方に向かって来る。


「マジか……本当にアカリを無視してやがる」

「言ったであろう? こやつらが妾を襲うことはないと」


 思い返せば、アカリを抱えて廃棄ダンジョンから脱出する際もエネミーが出現することはなかった。


「もしかしてエネミーを排除する魔法だか権能だかを使ってるのか?」

「いや、これは権能ではない。妾がダンジョンであるからだ。ダンジョンがダンジョンを襲う道理はないであろう?」

「あーそういう設定だったな……」


 これだけ誤魔化すということは、貴族や近衛騎士だけに伝わる秘匿の技なのかも知れない。アカリが廃棄ダンジョンの最奥で倒れていた理由に関係しているのかもしれないな。


 ただ──今は詮索している場合ではない。

 目の前のエネミーの排除が先だ!

 俺を取り囲むように陣取った5体のエネミーに向かって魔剣を構える。


「さぁ、かかってこいエネミーども! 今の俺は──ちょいと手がつけられないぜ!」


 俺は魔剣を腰に構えると、一気に横に薙ぐ。

 刀身よ、伸びろ!

 心の中でそう念じると、瞬く間に刀身は伸び──5体のエネミーを、たったの一閃で真横に真っ二つにした。


「はぁ……はぁ……。マジかよ……5体のエネミーを、たった一太刀だなんて……」

「ははっ、やるではないか」


 こいつは凄い、凄すぎる。

 これならば。

 この魔剣ならば、いずれに届く。


 ──【原色の悪夢】に。


「どうだ? リレオン、嬉しいか?」

「ああ、嬉しいなんてもんじゃない。アカリ、本当にありがとう」

「くくく、妾にしっかりと感謝するが良い」


 偉そうに胸を張る仕草も、今は可愛らしく見える。


 こんなにもやる気が漲るのは久しぶりだ。

 与えられたおもちゃの箱を開けたいような、我慢できない気持ち。

 ああ俺はガキかよ。でもこの気持ち、もう止められない。溢れ出そうだ。


 俺は──駆け上がってみせる。



 〜 第一章 完 〜


これにて第一章 「廃棄ダンジョンの回収屋」は完となります!


次話からは続けて第二章です。


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リレオン、魔剣をさっそく使いこなす。
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