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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど
第一章 廃棄ダンジョンの回収屋
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5.魔剣

 結局、アカリは買ってきたパンを全部食べやがった。3日分は買ってきたつもりなのに、参ったぜ。あの細身のどこに入ってるんだか。


「さてアカリ、今後のことを少し話そうか」


 そう声をかけると、名残惜しそうに空の皿を眺めていたアカリが顔を上げる。


「ふむ、今後の話とは?」

「アカリの親も心配してると思うんだ。だから、一度家に帰るべきだと俺は思う」


 とりあえずダンジョンで倒れているところを助けた。

 自分はダンジョンなどと言い放ち素性を明かそうとしないから、一晩だけは面倒を見た。

 ささやかな家出であれば、もう十分だろう。


「はーっ。リレオン、お主はまだ理解していないのか? 妾ははダンジョンであると言っておるであろう」

「その設定、まだ生きてるのかよ!」

「設定もなにも事実だ。いい加減認めるが良い」

「あーそうですか。でもアカリに親もいないとなると、俺はちょっと困ったことになるんだよ」

「困ったこと?」


 む……首をコテンと傾げる仕草、ちょっと可愛いじゃないか。


「ああ、俺はアカリを助けたことで報酬でも貰おうと思ってたんだ。だけどその当てが外れちまうってことになる」

「ほう……つまりリレオンは妾を使ってお金を手に入れようとしていたのか?」


 真正面からまじまじと言われると、さすがに情けなくなるな。でも事実だ。


「まあそういうことさ。ところがアカリはどこの貴族様か分からないから、俺は報酬を貰うことができない。これが当てが外れたってことだよ。幻滅したか?」


 幻滅したならさっさと家に帰って欲しい。

 金にならないなら金食い虫でしかないからな。

 残された俺はまた、いつもの日常に戻るだけだ。


「心配無用だ、妾は心が広い。その程度のことは何とも思わんよ」

「はぁそうですか、そりゃありがたいことで」

「リレオンは何のために金が必要なのだ?」

「何のために? そんなの決まってる。〝魔剣″を買うためさ」


 魔剣があれば、俺はまた前に進むことができる。そう信じて10年以上も廃棄ダンジョンに潜り続けてきた。

 だけど俺は……今でもまだ本気で、魔剣が手に入ると思ってるんだろうか。

 本当は無理だと気付いてるのかもしれない。ただ受け入れられないだけかもしれない。惰性で今の生活を続けているだけかもしれない。

 薄々は気付いてる。だけど──俺はまだみっともなく、その夢か希望か何か分からないものにしがみついている。


「どうして魔剣が必要なのだ?」

「魔剣がないと、上位ダンジョンに入れないからだよ」

「なぜ魔剣がないと上位ダンジョンに入れないのだ?」

「理由は簡単だ。上位ダンジョンに出没するエネミーには物理攻撃が効かないんだよ」


 いくら剣の腕が立とうと、物理攻撃が効かないエネミーを前にしたら無関係。ただ無抵抗に殺されるだけだ。

 だから上位ダンジョンに潜るためには、物理無効のエネミー相手に戦える〝魔剣の所持“か、〝武器強化の魔法である《魔装》を使えること“が必須条件となっている。

 ただ、後者──《魔装》を使える魔法使いなんて、存在自体が希少だからまずお目にかかれない。条件を満たすことはほぼ不可能だ。

 だから俺が上位ダンジョンに挑むためには──魔剣を手に入れるしか方法がないのだ。


「ところがこの魔剣ってのがえらく高くてなぁ。最低でも100万ペルはする」


 貴族にとってははした金かもしれないが、俺にとっては大金だ。

 実際、今の俺の貯蓄は10万ペルくらい。

 この調子で俺は生きてる間に魔剣を買って、上位ダンジョンにもう一度挑戦アタックすることは出来るんだろうか……。


「そうか、リレオンはダンジョンに潜るために魔剣が欲しいのだな」

「ああ、そうだ」

「なぜリレオンはダンジョンに行くのだ? 生きていくためか?」

「いや、生きていくために必要だからじゃない」


 生きていくための術なら、他にいくらでもある。

 俺がダンジョンに潜り続けるのは──。


「俺が──俺らしく生きていくために必要だからだ」


 本当はそんなかっこいいもんじゃない。

 このまま諦めたら、自分のこれまでの人生を全否定することになってしまうからだ。

 俺自身に、なによりあいつ・・・に申し訳が立たない。

 だから俺は、上位ダンジョンを目指さなければならないのだ。


「ほう、大きく出たな。さすがリレオンだ、なかなか気に入ったぞ」

「お褒めに預かり光栄だが、このままじゃ俺は魔剣どころか破産してしまう。なにせアカリがたくさん飯を食うからな」

「ははっ、そうか。そうだな」


 いや、笑い事じゃないんだが。


「なるほど、よく分かった。たしかにリレオンには借りがある。なにせ妾をあそこから連れ出してくれたのだからな」

「おお、分かってくれたか。そしたらさっさと家に帰って──」

「リレオンは魔剣が手に入ればいいのだな」

「えっ? あ、ああ。そりゃまぁな」


 こいつ、何が言いたいんだ?


「ではリレオン、妾から特別に報酬を出そう」

「報酬?」

「これだ」

「これだって……えっ? 剣?」


 アカリが差し出してきたのは、一本のロングソード。

 一体どこから取り出した? 何も持ってなかったよな? どうやって……ってちょっと待てよ。

 アカリが持つ、淡く蒼い輝きを放つその剣は──。


「お、おいアカリ! まさか、それは……」

「これだろう? リレオンが欲しかったものは」

「もしかして、これは──魔剣なのか?」


 う、うそだろう?

 俺がずっと欲してやまなかったものが。

 俺の運命を変えると信じて求め続けた〝魔剣″が──いま俺の目の前にあるっていうのか?


「どうしたリレオン。手に取らないのか?」

「えっ!? あ、ああ……触ってもいいか?」

「もちろんだ」


 ぐいと突き出されたロングソードを震える手で掴む。

 不思議と──手にしっくりと馴染んだ。

 同時に、全身に魔力がピンッと通る。魔剣を握ったのは初めてだが、俺の身体がまるで別の存在になったかのようだ。


「はぁ……」


 ため息と共に、忘れていた呼吸を取り戻す。

 ごくりと唾を飲み込んで、やっと言葉が出てきた。


「これが──魔剣なのか。こいつは……凄いな。かなりランクの高いロングソードじゃないのか?」

「ランク?」

「ああ、魔剣の格だ。含有魔力量によって評価が変わる。こいつは──素人の俺でも分かる、かなりの上物じゃないか」


 たぶんB級は堅いだろう、間違っても廃棄ダンジョンで出る格の魔剣じゃない。


「こ、これを俺が受け取ってもいいのか……?」

「リレオンにはこれが必要なのだろう?」

「ああ……」


 必要なんてもんじゃない。

 これがあれば俺は──上位ダンジョンに挑める。

 またあの場所に、行くことができる。


「信じられない……」


 俺は夢を見ているのか。

 だがこの輝き、間違いなくこいつは魔剣だ。


「リレオン、その剣にはお主好みの力・・・・・・備わってる・・・・・ぞ」

「なん……だって?」


 ちょっと待て、もしかしてこの魔剣は『武威ぶい』持ちなのか。


「マジかよ……『武威ぶい』持ちの魔剣なんて、普通の魔剣の10倍以上の価値がある激レアもんじゃないか! なんでそんな凄いものをアカリが持ってるんだ!?」

「ははっ、驚いたか? それが妾の実力だ。もっと妾を敬うがいい」

「ああ、たいしたもんだ」


 凄いのは魔剣であってアカリじゃないけどな。


「それで、この魔剣にはどんな能力が備わってるんだ?」

「ははっ、それはダンジョンに行って確認するが良い。ここだと色々と不都合がありそうだからな」


 確かに、レアな武威ぶいであればおいそれと街中で披露するもんじゃないからな。確認はダンジョンの中でのお楽しみに取っておこう。


「すげぇ……まさか俺が本当に魔剣を手にするとは……」

「ふふふ、気に入ったか?」


 気に入ったどころの騒ぎではない。

 下手すると上位貴族の家宝レベルの代物だ。


「これを……俺が貰っていいのか?」

「ああ、ただし条件がある」

「こいつを貰えるんだったら俺はどんな条件だって飲むさ。それで、どんな条件なんだ?」

「なぁに、そんなに難しいものではない」


 アカリはニコリと微笑む。


「妾を──ダンジョンに一緒に連れて行くのだ」

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― 新着の感想 ―
リレオン、生き方とか思考が色々と刺さりますね。 アカリさん、大分人(リレオン)には慣れたみたいですね。
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