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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
最終章 人の業

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エピローグ 〜 此処ではない何処かへ 〜

 力を失ったリレオンの腕が──パタリと地に落ちた。


「リレオン!」


 アカリは大きな声で彼の名を呼ぶ。

 だが──もう彼から返事が返ってくることはなかった。


「リレオン……妾は……妾は……ぐぅぅ……」


 命の灯火を失ったリレオンを抱きしめながら、アカリは──泣いていた。

 今まで感じたことのない感情に揺り動かされ、意味もわからず両の瞳から涙を流していた。



 ──ぐぅううぅぅぅうううぅぉぉおおんっ!!


 アカリの全身から、黄金色の魔力が噴き出す。

 うねりを伴う魔力は徐々に形を成し──いく筋もの渦となった。


「あぁぁ……」


 半ば狂いかけたメルキュースが、怯えたような声を上げる。

 彼の目にはアカリの姿が──【原色の悪夢】のように見えたのだろう。

 うねる魔力の渦が──まるで〝触手″のように。


 爛々と輝く黄金色の瞳のアカリが、メルキュースの前に立つ。

 背後には複数の《異界の無限顎(アヴィス・ヴォイド)》 が口を開き、今にもメルキュースの全身をズタズタに噛み切ろうと待機している。


「うわ、あああ……」

「メルキュース、貴様は万死に値する」


 アカリはメルキュースを見下しながら断罪する。


「だが貴様はリレオンが助命した。ゆえに貴様のことは生かしておこう。だが──それだけだ!」


 無数の口が、メルキュースの周りを囲む。

 さらには黄金色の触手が天を覆い尽くすかのように蠢く。


「貴様は犯した罪の重さを自覚し、一生怯えながら生きるといい」


 アカリが言い終えた途端、黄金の触手も、無数の口も、全てが消え去った。

 あとには──両腕を失い完全に正気を失ったメルキュースが、泡を吹いて倒れているだけだった。



 アカリは、リレオンを抱えた。

 線の細い少女が、大人の男性を抱える姿は異様ですらあった。

 様子を見守っていたものたちも一歩二歩と後退りし、彼女に道を開ける。


 アカリが向かった先には──カイルがいた。

 カイルは震える手をリレオンに伸ばす。


「リレオンは……死んだのか?」

「……そうだ。だがリレオンはいなくなったわけではない」


 カイルにはアカリが言っていることの意味が理解できなかった。

 何も言えずに呆然と立ち尽くしていると、アカリが何かを前に差し出す。


「カイル、これはリレオンからだ」

「これは……魔剣?」

「リレオンは、カイルに魔剣を渡すことを望んでいた。だからこの剣はお主のものだ。好きに使うといい」


 カイルは震える手で魔剣を受け取る。


「こんなの……オレには荷が重すぎるよ」

「リレオンは、カイルのことを『目が良くてきっと伸びる』と褒めていた。お主ならば使いこなせるだろう」

「リレオンがそんなことを……ううぅ……」


 カイルの頬から涙が零れ落ちる。


「リレオンは……オレに良くしてくれた。そりゃ最初の出会いは最悪だったけど──そのことを気にかけてくれて、ずっと優しくしてくれたんだ」

「……そうだな」

「オレさ、まだリレオンに一度もお礼を言ってないんだよ。なんか反抗的な態度を取っちまって、ありがとうも言えないまま……ああっ、クソッ! オレはなんてバカなんだよっ!」


 カイルが拳を自分の足に打ち付ける。


「気に病むことはない。リレオンは全く気にしてなかった。なにより──お主の将来が見たいと言っていた」

「でも……リレオンは──もう……うぅぅぅ……ごめんよ、リレオン。お礼も言えなくて……本当に……ありがとう……」


 剣を抱き抱え、泣き崩れるカイル。

 その様子を眺めながら、アカリはリレオンを抱えたまま歩き出す。


「アカリ、さん……一人でどこへ?」

「妾にはリレオンがいる。一人ではない」


 そう語るアカリに、カイルは何も言うことが出来ずに──。

 アカリはカイルの横を通り過ぎていった。


「アカリ殿!」

「アカリちゃん……」


 続けて近寄ってきたのは、胸を切られ大怪我を負ったヴァルザードルフ伯爵と、彼を支える片腕のバーパス。


「ヴァルザードルフ伯爵、バーパス。傷は問題ないか?」

「儂のことよりリレオン殿だ。……なんてことに……おおぅぅ……良い人ばかりが、儂を置いて先に逝ってしまう……」

「リレオンまで俺より先に死んじまうなんて……クソッ、これからが人生で楽しい時だってのによ……メルキュースめ」

「やめるのだ、バーパス。メルキュースにはもう決着を付けた。これ以上はリレオンが望んでいない」

「ああ、分かってるよ……リレオンは優しい奴だからな……だからミーティアにも好かれていた」


 涙を拭いながら、バーパスが呻くように呟く。


「ああ、本当は知ってたさ。ミーティアはお前にぞっこんだったってな。気付いてないのはお前くらいだったよ。俺はお前に嫉妬してたさ。だけど──最後までお前には勝てなかったな。勝ち逃げしやがってよ……ちくしょうめ……」

「儂は……人を見る目がなかった。メルキュースなどではなく、そなたのような男にこそアーデルハイドを託すべきだったのに……」


 涙を流す二人に、アカリは無表情のまま微笑む。


「お主たちには世話になったな。妾は──リレオンと共に旅立つ」

「ど、どこに……行かれるのですかな」

「さあな。此処ではない・・・・・・何処かへ・・・・、だ」


 ヴァルザードルフ伯爵は引き留めようとして──アカリの瞳を見て諦める。

 決意を秘めたアカリの前に、もはや言うべき言葉は見つからなかったのだ。


「一人で……いっちまうのか?」

「妾にはリレオンがいる。リレオンとともに妾は在り続ける」


 バーパスもまた悟った。

 アカリはこれからリレオンと共に生きるのだろうと。

 思えば不思議な少女であった。バーパスにとっては最後まで正体不明な子であったが、リレオンを託すには唯一の人物だと思っていた。


「リレオンを、俺の親友を……頼むぜ。アカリちゃん」

「ああ、わかった。では──さらばだ」




 そうしてアカリは──。


 リレオンを抱えたまま──。



 立ち去っていった。









 ──此処ではない何処かへ。


 ──どことも知れぬ場所へ。






true story(正史)に続く。

次で完結となります。

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