表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
最終章 人の業

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/42

【最終話】本当の家族

 ──熱い……。

 腹が焼けるように熱い……。

 いや、実際に焼けているのか?


「ぐふっ」


 次の瞬間、猛烈な吐き気が込み上げてくる。

 堪えられずに吐き出したのは──大量の血?


「リレオン!?」


 俺に押し倒されたアカリが、物凄い表情を浮かべている。

 なんだよ……。

 こいつの、こんな表情を見たのは初めてだな。


 急に全身の力が抜けて膝をつく。

 おそるおそる腹を見ると──ぽっかりと穴が空いていた。


 ──いやぁマジかぁ。

 こいつは……さすがにマズいな。


「はは……ははは……やったぞ!」


 メルキュースが狂ったような笑い声を上げている。

 アカリの表情が、怒りに染まった。


「貴様──ッ! よくもリレオンを! ──《異界の無限顎(アヴィス・ヴォイド)》 」


 ──バグンッ!!

 空間が裂けて巨大な口が開き、メルキュースの両腕を魔法道具ごと丸呑みにする。

 一瞬にしてメルキュースの両腕が消失した・・・・


「ぐわぁぁぁああぁぁぁーーっ!」

「死ね、消えろ、この──ゴミめがっ!!」

「やめ……ろ、アカリ……げほっ!」


 俺の言葉に、アカリの動きが止まる。

 良かった、止まってくれた。

 何かを言おうとすると、代わりに口から大量の血が溢れ出す。

 うわ、こいつは本格的にマズいな……。


「リレオン、なぜ止める!?」

「ころ……すな……。アカリには……誰も、殺して……げほっ……んぐっ、欲しくない……ぐふっ」

「あひっ、あひっ、あひひっ……」


 両腕を失ったメルキュースが、虚ろな目で涎を垂らしながら消え去った腕を眺めている。

 もうこいつに出来ることは何もないだろう。上へ登ることも……。こいつはもはや価値のない存在となったのだ。


 だけど「アカリが殺した人」という価値は、絶対に与えてやらない。

 メルキュース、あんたに相応しいのは──「狂気に冒されて一般人に手をかけた殺人犯」ってレッテルだ。

 そのためにも──生きて償え。


 だが、その言葉を発するだけの力も残されて無かった。

 ものすごい勢いで、俺の中から大切なものがどんどん流れ出ていっているのだ。


 ……ミーティアはすごいよな。

 同じような傷を負ったのに、死の直前まで【原色の悪夢】に立ち向かったんだぜ?

 両手を広げて、あの化け物の前に立ち塞がった──すごい勇気だ。俺には出来そうもないや。

 今の俺には、立ち上がるのも──難しそうだ。


 あーあ、ミーティアあいつには一生勝てなかったな。

 あの世でも、あいつに小馬鹿にされそうだな。

 でも……それもまた一興かな。


「リレオン……」

「わかってる、アカリ……げほぅ、これは……致命傷だ」


 腹に穴が空いている。

 飯を食うどころか腹筋にも力が入らない。

 大事な血の流れも分断されている。

 どう考えても助からない。そのことはよく分かっていた。


「リレオン、妾は命を奪うことはできても傷を癒すことはできない。ましてや──死者を生き返らせることも……」

「分かってるよ、アカリ。だから……ぐふっ、そんな顔をするな」


 素直に言葉が出た。その奇跡に感謝する。

 だって、あのアカリが──不遜で尊大なアカリが……涙を流してるんだぜ?


「妾は……?」

「ああ、泣いてるな……げほっ」

「泣いてる、のか?」


 俺はアカリの頬を伝う涙をそっと拭う。

 ごめん、俺の血が少し顔についちゃったな。


「この剣を……カイルに……」


 俺は力を振り絞って、魔剣をアカリに渡す。

 俺に何かあったら渡す約束だったからな。


 さぁ、これでやるべきことはやった。

 あとは──アカリ。

 お前と──。


「アカリ……お前は俺の……本当の家族だ」

「リレオン、妾もだ」


 ああ、死にたくないなぁ。

 これから幸せになる予定だったのに。


 だけど──こうなったのがアカリじゃなくて良かった。

 もう大切な人がいなくなるのに耐えられそうも無かったから。


「アカリと過ごした日々は……本当に幸せだった」


 底辺回収屋としてせいにしがみつき、復讐という本当の目的も忘れかけながら……ただ無為に呼吸をし、腐って朽ちていくだけだった俺の前に──アカリは現れてくれた。


 人に誇ることもできない、無様な生き様を送っていた俺を──救ってくれた。


 だからこそ──。


「アカリ、俺は……げほっ、お前と一緒に……ずっと過ごしたかった。ごほっ……どこまでも、一緒にいたかった……」

「ああリレオン、妾もだ。だから──死なないでくれ!」


 ははっ、アカリが「死なないで」なんて言うんだな。

 ああ、ほんとだよ。

 死にたくなんてないよ。

 これからが──俺たちの羽ばたく時だっていうのにな。


 でも……もう痛みも感じない。

 眠たくなってきた。

 すごく瞼が重いんだ。

 瞼が閉じようとするのを堪えられそうにない。



 ふと、唇に何かが触れる。

 アカリの──唇?


 ああ、アカリからキスしてくれるなんてな。

 ──感動だな、すごく大きな変化だ。

 もう──思い残すことはない。



 いや、ある。


 あるが────。





 森の中にある小屋で、俺とアカリは過ごしていた。


 側には──俺たちによく似た子供。


 普通の、ごくありふれた家庭。





 ああ、ちゃんと──。



 アカリと本当の〝家族″になりたかったな。







 一瞬、脳裏に浮かんだ──決して叶わない未来。






 すまない、アカリ──。



 俺は──。


 お前を────。








「あいして……る」







 俺の中に残された最後の命の残滓。


 その一言をこの世に残して──。








 ──永遠の闇が。


 俺の身体を包み込んだんだ。






エピローグ に続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ