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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
第四章 原色の悪夢

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35/42

35.誰も知らない秘密

 「んがあっ!?」


 俺は全力で後ろに跳ねた。同時に胸に走る衝撃。

 胸を抉るように斜めに走る傷。

 ……だが──致命傷じゃない。



 なんだ!?

 エネミーが、俺のことを守った!?

 奇跡が起きたのか……俺はまだ生きている。


「リレオン、大丈夫か!?」


 慌てた様子で駆け寄ってくるバーパス。

 俺は無事を知らせるためにもすぐに立ち上がる。


「ああ、ギリ助かった。エネミーが……俺を庇ってくれたんだ」


 あれはおそらく──【案内人ガイダー】だ。

 なぜ俺を守ってくれたのか……だが今は考える余裕はない。


「油断した、もう一度俺が出る!」

「お前一人じゃ見てらんねぇよ! 俺も出るぜ!」

「守る余裕はないぞ!?」

「要らねぇよ、俺にも──ミーティアの仇を討たせろや!」

「……知らねえぞ?」


 俺とバーパスは互いにニヤリと笑うと、二人で再度【原色の悪夢】へと迫ってゆく。


「……◆●△♯$◇◎……」


 ヤツが発する謎の声に、なんとなく苛立ちを感じる。

 ヤツも苦戦を認識してるのだろうか。


「リレオン、妾がヤツとダンジョンとの繋がりを断っておる! これで条件は互角だ! あとは任せた! コアは──あそこだ!」


 アカリが顔を歪めながら叫ぶ。

【原色の悪夢】の身体の真ん中に──光輝く〝球″のような部分が現れた。

 あれが〝コア″かっ!

 アカリのやつ、やりやがったな。だがあの様子だと長くは持たなそうだ。一気に──決めてやる!


「うぉぉぉぉっ!」

「おりゃあぁぁぁぁあっ!」


 俺は迫り来る触手を魔剣で切り裂く。

 切断された触手の修復のために、僅かにヤツの攻撃が緩む。

 初めて生じた、【原色の悪夢】の隙。

 俺たちはその隙を見逃さず、更に間を詰める。


 ──いける! 届く!

 だが──ふいに、背筋に悪寒が走る。

 いかん。これは──【原色の悪夢】の〝罠″だ!!


「バーパス、下がれ! 誘われてる・・・・・ぞ!?」

「っ!?」


 瞬時に切り飛ばされた触手が復活し、四方八方から俺たちに触手が襲いかかってくる。やはり復元に時間がかかるのは〝(ブラフ)″だったか!


 俺は必死に触手を切り飛ばしながら、なんとか後ろに下がる。

 だがバーパスは──。


「バーパス!?」

「こんちくしょう、俺の大好きだったミーティアを喰いやがって! この命に賭けても──キサマだけは殴らねぇと気が済まないんだよ!!──《緋爆斧撃(レッドバーン)》!」


 激しい爆発が、触手たちを弾き飛ばす。

 だがそのうちの3本が──バーパスの左腕を貫いた。


「があぁぁぁーーっ!! ──《赫き高揚(レッドパージ)》!」


 ──ぶちぶちぶちっ!!

 鈍い音と共にバーパスの左腕がちぎれる。


 片腕となったバーパスは、勢いのまま──。

 ──【原色の悪夢】の巨大な目玉に向かって、魔斧を打ちつけた。


「ミーティアの仇だーーっ!! ──《緋爆斧撃(レッドバーン)》!」

「──●△♯$◇●△♯$◇!?」


 激しい──爆発音。

 声にならない悲鳴を【原色の悪夢】が上げる。

 緑や黄色の混じった体液を噴き出しながら、ヤツの目玉が二つも吹き飛んだ。どうやら目玉だけは完全に攻撃を防ぐことができなかったらしい。


「見たかミーティア! 俺はやってやったぜ! ザマァみろだ!! ぐはっ!?」


 怒り狂ったヤツの触手を喰らい、弾け飛ぶバーパス。

 しかも破裂した目はすぐに修復を始めている。

 ──させるかっ!

 バーパスが作ったスキは──絶対に逃さない。


「うぉぉぉぉおおおぉおっ!!」


 相討ちでも構わない!

 俺は防御を全てかなぐり捨てて【原色の悪夢】へと突撃する。


 迫り来る無数の触手。

 防御を最小限にして、前へ進む推進力へと注力する。

 身体のあちこちを触手が掠めていくが、構わない。

 致命的なものだけを剣で弾き、アカリが輝かせるヤツの〝コア″へと接近する。


 俺の刃が届く範囲レンジ──ついに足を踏み入れた。

 俺は魔剣に力を込める。


「──《長剣化(ヴェルザンディ)》!!」


 これでヤツの中心を──コアを抉り出せる!

 そう確信した俺の視野に──左上から迫る鋭い触手を捉えた。


 やはりヤツは一筋縄ではいかない。【原色の悪夢】による悪意を凝縮した鋭い一撃は、間違いなく俺の心の臓を貫く勢いだった。

 だが──ここで剣を止めてしまえば、再び【原色の悪夢】を捉えることは難しくなるだろう。

 バーパスが腕を失ってまでして創出つくった機会を、絶対に逃すつもりはない。


 だから──俺は止まらない!

 たとえ命が尽きようと!

 俺一人の命で届くなら安いもんだ。

 ヤツも、命をかけた攻撃までは想定していないだろう。


 俺の剣が、【原色の悪夢】を捉えようとする。

 同時に、触手が俺の胸を貫こうとする。


 ミーティア、いまお前の仇を討つ。

 アカリ、すまん。

 俺は〝命″と引き換えに──【原色の悪夢】を討つ!


 だがその時──。



 再び──奇跡が起きた・・・・・・



「っ!?」



 俺と【原色の悪夢】の間に、両手を広げるものがいた。


 あれは──固有ユニークエネミー【案内人ガイダー】!?

 【原色の悪夢】の魔力を間近で浴びたせいか、エネミーが色付き──。


 ──生前の姿・・・・を取り戻す。


 その姿は──。


「……あぁあぁぁ」


 懐かしい──水色の髪。

 生前は胸が無いことを悩んでいた、ほっそりとした身体つき。

 忘れたことない、忘れられるはずかない。

 ああ、彼女・・は──。


「──ミーティア!?」


 なんということだ。

 あのエネミーの正体は──。

 両手を広げ、探索者たちを守っていたエネミーは──。


 他の誰でもない──〝ミーティア″だったのだ!


「なぜ──」


 どうしてミーティアがここに──。

 だがすぐに思い出す。エネミーは、生前最期の行動を・・・・・・・・模倣したもの・・・・・・だと。


 じゃあミーティアは。

 彼女の最期の行動は──。


『あたしって、ほんとバカだな……最後にウソまでついて』


 エネミーから〝死者″へと彩りを得たミーティアの口が動き、心の中に彼女の声が蘇る。

 いや、これは幻聴などではない。

 10年ぶりに聴く、ミーティアの・・・・・・本当の声・・・・だ。


『本当はね、あなたのことが大好きだったんだよ……』


 もしかしてこれは──。

 誰にも知られずに逝ったミーティアの、誰も聴くことがなかった〝最期の言葉″なのか!?


『だけどウソ言わないと、あなたは行ってくれないから……』


 だが、だがっ!!

 ミーティアは──何を言っている・・・・・・・のか!?

 誰のこと・・・・を言っているんだ!?


『あーあ、ちゃんと告白しとけばよかったなぁ……』


 まさか、まさか……。

 ミーティアは──。


『あなたには絶対に届かない言葉だけど、ちゃんと言うね……。あたしの、誰も知らない秘密・・・・・・・・──』


 振り返るミーティアは──。

 彼女が最期に浮かべた表情は──。


『さようなら、リレオン……大好きだったよ。だから──あたしのぶんも生きて・・・ね……』


 泣きながら──笑っていた・・・・・




 ああ、ミーティア。

 お前は──。

 お前はーーっ!!



「うわぁぁあああぁぁぁぁああぁぁーーっ!!」



 ズンッと鈍い音と共に、ミーティアの姿をしたエネミーを触手が貫く。

 だが──軌道は逸れた。

 ミーティアは、またも──。

 10年前と同じように──。

 俺の命を守ってくれたのだ!


「ミーティアァァァアアーーッ!!」


 俺は──何も知らなかった。

 勝手に思い込んで、何も理解しようとせず──。

 俺は、救いようのない愚か者だ。

 そんな俺を、ミーティアは──命を張って守ってくれたのだ!


「があぁぁあぁぁぁーーっ!!」


 アカリは何度も言っていた。死んだものは蘇らない、と。

 だけど──死者の想い・・・・・蘇る・・

 何度でも蘇って──何度も俺の命を救ってくれた!


 ああ、ミーティア。

 お前は本当にすごい奴だよ!

 俺なんかじゃない。お前こそが本物の──〝英雄″だ!!


 触手の海を掻い潜った先には──【原色の悪夢】の〝コア″が輝いていた。

 俺の全身から、激しい衝動が溢れ出てくる。

 その正体が何なのか、分からない。

 目の前が滲む。

 俺は──泣いているのか?

 分からない。


 粒子となって消えていく──ミーティアの残滓。

 ──さようなら、俺の愛した女性ひと

 俺は貴女を──たしかに愛していたよ。


「やれーーーっ!!」


 バーパスの血を吐くような絶叫が聞こえる。


「決めるんだ、リレオン!」


 アカリの凛とした声が耳に届く。




 俺は力を全てを──。

 想いの全てを──。

 握りしめた魔剣に込めて──。



 ──目の前の〝コア″に叩き込んだ。

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― 新着の感想 ―
おやくそくをおやくそくとして、丁寧に丁寧に お見事でした だいすきです
最初の悲劇の時には見かけていなかった案内人ちゃん、ミーティアさんの生き写しだったのですね。  アカリちゃんが敵との均衡を保ち、バーパスの作った隙を、思いを告げたミーティアに護られながら、リレーを繋い…
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