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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
第四章 原色の悪夢

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34.原色の悪夢

 じゅる……。

 耳をつく──不快な音。

 鼻をつく──あらゆる廃棄物が混じったような悪臭。

 姿を現したのは──生理的な不快感を総動員したかのような〝冒涜的な存在″だった。


 赤や青、ピンクや黄色、さらには緑や黒まで……まるで子供の落書きのように様々な色を混ぜた体色。

 大小織り交ぜた五つの目。

 全身から不均等に伸びる大小無数の触手。


 ああ……10年前より凶悪な姿になってやがる。

 間違いようがない、こいつが──。


 こいつが──【原色の悪夢】だ!


 ピィィィーーーィイッ!

 俺は鋭く笛を吹くと、すぐに投げ捨てて戦闘態勢を取る。

 だが──【原色の悪夢】は五つの目をアカリに向け、その動きを止めた。

 アカリもまた、同様に動きを止める。


「……アカリ?」

「あれは──妾と同じだ」

「同じ? あれが?」

「ああ。一歩間違えたら・・・・・・・、妾もああなっていた・・・・・・・であろう」


 アカリは【原色の悪夢】と向き合いながら話を続ける。


「あれは……妾と似た原理によって生まれた、上位ダンジョンに・・・・・・・・おける妾・・・・だ。ただ、あやつに人に対する憧れはない。あやつは単に──生き物を・・・・作ってみたかった・・・・・・・・だけなのだ」

「なんだ……それは」

「だが──ダンジョンは生き物のことを知らない。見よう見まねでしか作れない。そうして生まれたのが──あの歪な存在・・・・だ」

「……そんなくだらないもののために」

「ん?」

「そんなもののために、ミーティアは殺されたってのかよっ!?」


 俺は歯を食いしばる。

 ミーティアは……あの娘は──。

 そんなつまらないヤツに未来を奪われたってのか!


「生命を冒涜しやがって……」


 こいつは、存在していてはいけないヤツだ。

 なんとしても、こいつだけは──滅ぼさなければならない!


「……◆●△♯$◇◎……」


【原色の悪夢】の真ん中がバックリと裂け──歪な歯牙が並ぶ〝口″らしきものが開く。聞こえてきたのは、異様な唸り声。

 こいつ──アカリを見つけ、歓喜の声を上げてやがる!


「認識された。リレオン──来るぞ!」


【原色の悪夢】から黒いモヤのようなものが放たれる。

 なんだあれは──!?


「ヤツの魔力だ、気をつけろ!」


 モヤは少しずつ形を作り、具現化していく。

 現れたのは、エネミー? いや、あれは──〝死者″だ!


「こいつ、〝死者″を呼び出して邪魔者を排除する気かっ!?」

「リレオン、これから妾はヤツと〝魔力の食い合い″を始める! なんとか〝コア″を見つけて叩けッ!」

「なっ!? 無茶言うなよっ!?」


 だが俺のことをそっちのけで、アカリは【原色の悪夢】と睨み合いを始める。

 俺に対しては──ヤツの周りから湧き出る〝死者″たちがわらわらと襲いかかってきた。


「くっ!?」


 いきなり騎士たちや探索者の〝死者″による攻撃を浴び、俺は魔剣を振るって切り裂く。

 俺の【如意在剣(フリーダムコンクエスト)】はエネミーや″死者″に対して防御無視の攻撃を仕掛ける。

 だがさすがに無限に湧き出る〝死者″を相手にするのは至難の業だ。

 できればアカリを援護するためにも【原色の悪夢】に直接攻撃をしかけたいが──物量で攻められては、その機会すら訪れない。


「ぐっ……」

「◯◆▼◎……」


 アカリは押されているのか、苦しげな声を上げる。

 ヤツの触手が、じわりとアカリに伸びていく。

 くそっ! その汚らしい触手をアカリに伸ばすんじゃねえっ!!


「────《緋爆斧撃(レッドバーン)》!」


 激しい爆発が──俺の目の前にいる〝死者″たちを吹き飛ばした。

 最高のタイミングでの援護をしてくれたのは──。


「リレオン! 間に合ったぜ、お前は相変わらずせっかちだな! 二人で突入するなんてアホかよ!」

「バーパス! メルキュース殿も! 本陣が間に合ったか!」

「【原色の悪夢】! 10年ぶりだな! ミーティアの仇を討ちにきたぜ! メルキュースの旦那、いまだ!」

「────《染雷迅剣斬ライトニングブレイド》」


 強烈な電撃を浴びた一閃が、溢れ出る〝死者″たちを殲滅する。

 さすが【貴公剣士】メルキュースだ、すごい攻撃だぜ!


「雑魚は俺たちに任せろ! メルキュースの旦那、リレオン、行ってくれ!」

「応ッ!!」


 バーパスたち本陣のメンバーに湧き出る〝死者″を任せ、俺とメルキュースは【原色の悪夢】に向かって突入する。


「メルキュース殿、ヤツは触手を四方八方から突き刺してくる。俺が防ぐからあんたが本体を切りつけてくれ!」

「四方八方って……君は大丈夫なのか?」

「ああ、俺はこの時を想定して・・・・・・・・準備をしてきた」


 俺がこれまで、あらゆる距離感において剣を振るう特訓してきたのは──【原色の悪夢】の触手攻撃を想定していたからだ。

 脳内で、廃棄ダンジョンで、何度も何度もヤツの動きをトレースして戦ってきた。

 だから、俺は対応してみせる!

 絶対に──弾き返してやる!


「うぉぉぉぉーーっ!」


  ──《短剣化ウルズ》。

  ──《長剣化ヴェルザンディ》。

  ──《大剣化スクルド》。


 持てる全てを駆使して、俺は迫り来る【原色の悪夢】の触手を弾いていく。

 今の俺は──完全に【如意在剣(フリーダムコンクエスト)】と一体になっていた。

 声に出さなくても、心に念じるだけで自在に長さが変わっていく。

 近くの触手も遠くの触手も、死角から襲ってくる攻撃も叩きつけるような大技も、全て魔剣で弾き返す。

 俺の剣術は、対【原色の悪夢】専用に作り上げてきた俺の技は──確かに宿敵の攻撃を全て防ぎ切ったのだ。


「うぉぉぉぉっ!────《染雷迅剣斬ライトニングブレイド》! 」


 その隙に距離を詰めたメルキュースが、【原色の悪夢】に対して必殺の剣を繰り出す。

 だが──。


 ギィィィィーーーン!

 鈍い音と共に、【原色の悪夢】の身体はメルキュースの剣を弾き返した。


「なっ!? 剣が通らない!?」


 たしかメルキュースの魔剣はかなり高位の──それこそAランク級の魔剣だったはずだ。

 その攻撃を弾くなんて、どんだけ硬いヤツなんだよ!


「リレオン、お主がやるのだ!」


 アカリの声が、鋭く響く。


「リレオン、お主の剣だけが届く!」


 そうか──俺の剣には〝エネミーの硬さを無視する″力がある。

 これなら確実に、【原色の悪夢】に届く。


「妾がヤツの力を抑える、だから──リレオンがやれ!」

「応ッ!!」


 俺は攻撃が効かずに呆然とするメルキュースを突き飛ばす。

 悪いが、茫然自失してるやつを守る余裕なんてない。


「バーパス、メルキュースを頼む。〝死者″をなんとかしてくれ!」

「あ、ああ、だが──」

「あいつは、俺にしか届かない・・・・・・・・


 口にして、不意に──俺は一つの事実に気づく。

 アカリは、俺にこの魔剣をくれた。

 おそらくそれは偶然ではない・・・・・・

 この魔剣【如意在剣(フリーダムコンクエスト)】は──対【原色の悪夢】を想定した、俺に特化した・・・・・・剣だ。

 そんな都合がいいもの・・・・・・・が、簡単に存在するわけがない。


 だが、アカリの正体を知った今なら分かる。

 この魔剣は──俺の目的を・・・・・達成するため・・・・・・に、アカリが俺専用に用意した・・・・・・・・魔剣なのだ。


 ならば。

 この剣だけは──ヤツに届く。

 であれば俺が──【原色の悪夢】と対峙するしかないのだ。


 再び【原色の悪夢】と激しい撃ち合いを始める。

 ヤツは人のことをよく知っている。

 たぶん、ずっと観察していたのだろう。

 人の死角を、反応が鈍る攻撃を、よく理解している。

 だからまともに対峙できずに殺されてしまうのだ。


 だが──理解して準備してきた俺は違う。

 魔剣の長さを瞬時に切り替えながら、【原色の悪夢】の攻撃を弾き、少しずつ詰め寄っていく。


「なんだ……あれは……人の剣術なのか?」

「メルキュースの旦那、あれが──リレオンなんで」

「あんなの……無理だ。僕には届かない」

「今はあいつが全力で戦えるようサポートしましょうぜ」


 一見、互角にやり合っているように見える。

 だが──【原色の悪夢】はやはり狡猾だった。


 上下左右から迫り来る触手を魔剣と身体の動きで避ける。

 だが──太い触手の下に、ヤツは小さな触手を隠し持っていたのだ。


 剣を振り抜いて伸び切った左脇の下から迫る、鋭い触手。

 まずい、これは──死ぬ!?


 鋭い触手が俺の胸に刺さる寸前──。





 両手を広げたエネミー・・・・・・・・・・が──。




 ──俺と触手の間・・・・・・に出現した。


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― 新着の感想 ―
援軍到着。  ん、エネミーがまた守ってくれた?
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