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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
第四章 原色の悪夢

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29.死者氾濫

 突如、上位ダンジョンから湧き出してきた〝死者″たち。

 その姿は──かつて上位ダンジョンで命を落としたものたちであった。


 彼らは、時代も装備も姿もバラバラであった。

 あるものは、100年以上前の騎士団の鎧を身に纏っていた。

 さらに古いものでは、石斧や獣の骨を使った槍を持つものもいた。

 逆に新しい死者もいた。つい先日行方不明になった四人の探索者たちの姿もあったのだ。


 志半ばで命を落とした探索者や騎士たち。

 声もなく、意思もなく、ただ武器を手に持ち歩くだけの存在。


 だが──〝死者″たちが街を襲うことはなかった。

 代わりに彼らが向かった先は──近くにある〝廃棄ダンジョン″であったのだ。


「死者たちが──〝廃棄ダンジョン″に潜ってる?」

「いったい……何が起こってるんだ?」


 人々は恐怖に慄きながら、何も出来ずに──ただ〝死者″たちの行進を眺めているのであった。


 ◇


 朝から伯爵邸が慌ただしい。

 どうやら何かあったみたいだ。


 メルキュースがわざわざヴァルザードルフ伯爵を訪ねて来てるから、ダンジョン絡みで間違いないだろう。今度は何が起こったのやら。

 アカリは朝から寝込んでいる。いよいよ調子が悪いらしい。ただ風邪とかとは違うようだが──。


「リレオン、こんなところにいたのか」

「悪いなバーパス、いつも情報を持ってきてくれて」


 メルキュースに付いて来たバーパスがもたらしたのは、とんでもない話だった。


「どうやら上位ダンジョンから〝死者″が溢れて来たらしい」

「……マジか?」

「ああマジだ。だからメルキュースの旦那は過去の伝承を知る伯爵のところに話を聞きにきたらしい」

「たしかに……伯爵は200年以上前の死者氾濫の知見を持ってたからな。だがよ、ただの死者だろう? 兵士たちで対応できないのか?」

「それが──死者たちは魔剣以外の・・・・・攻撃を(・・・)受け付けない・・・・・・そうなんだ」

「はぁあっ!?」


 そんなの、上位ダンジョンに出現するエネミーと同じじゃないか。


「そりゃ大事おおごとじゃないか! 〝魔剣″持ちの戦力なんて限られるだろうし……もしかして王都はヤバいのか?」

「いや、それが〝死者″たちは王都に向かっていない・・・・・・・んだ」

「は? じゃあ何処に向かってるっていうんだ?」

「それがどうも──〝廃棄ダンジョン″に向かっているらしいんだ」

「なんだって!?」


 ちょっと待て。

 いま廃棄ダンジョンには──カイルが潜っているはずだ!


「いかん、廃棄ダンジョンにはまだカイルたち〝回収屋″たちがいるぞ!」

「カイルも潜ってたのか!? だが……どうにもならないだろう。彼らは魔剣を持っていない・・・・・・


 バーパスの言う通りだ。

 魔剣を持たない回収屋たちでは絶対に対処できない。


 だが──カイルが!

 カイルの命が危ない!!


「バーパス、〝死者″たちが溢れて来たのはいつの話だ?」

「今日の昼過ぎだと聞いてるが──まさかお前、行くつもりか!?」

「ああ、当然だ」


 善人ぶるつもりはない。

 だが、目の届く知り合いを──見捨てるつもりもない。

 俺は腰の魔剣【如意在剣(フリーダムコンクエスト)】に触れると、すぐに部屋から飛び出す。


「待てリレオン! 俺も行くぜ!」

「いいのか、メルキュースを放置して」

「旦那は放っておいても大丈夫さ、それよりお前こそアカリちゃんを放っておいていいのか?」

「体調悪くて寝てるからな、今回は置いていく!」

「そうか、じゃあ行くぜ!」


 俺たちは伯爵邸を飛び出すと、迷うことなく廃棄ダンジョンへ向かって駆け出した。


 ◆


 廃棄ダンジョンに辿り着くと、異様な光景が目に飛び込んできた。

 わらわらと沸き出した〝死者″たちが、〝廃棄ダンジョン″へと入って行っているのだ。

 魔剣持ちが少ないのか、兵士たちはただ眺めているだけ。

 ったく、何やってんだか。

 俺は魔剣を抜くと、躊躇なく奴らの群れに飛び込む。


「──《大剣化(スクルド)》」


 大剣化させた魔剣を一閃すると、一気に5〜6体の〝死者″たちを真っ二つにする。

 よし、エネミーと感触は変わらないな。

 人の姿をした相手に魔剣を振るうことに若干の抵抗感はあるものの、時間が惜しい。


「お、やるじゃねぇか!」

「時間がない、行くぞ!」


 驚く兵士たちを無視して、俺とバーパスは廃棄ダンジョンへと飛び込む。


「──《赫き高揚(レッドパージ)》! おらおらおらっ!」

死者こいつらには技を繰り出すまでもないな、《大剣化(スクルド)》でゴリ押しするっ!」

「がははっ! リレオン、お前と組むのは10年ぶりだな!」

「そうだな、お前も訛ってないようで良かったぜ!」


 魔剣と魔斧。

 俺とバーパスは〝死者″の群れを切り裂きながら突き進んでいく。

 ダンジョン内には、回収屋たちの死体が点々と転がっていた。やはり魔剣無しでは〝死者″に対抗できなかったか……あいつはアカリと呑んでいたヤツか、クソッ。

 本来ならば〝回収″しなきゃならないんだが、そんな時間も余裕もない。


「しかしなんだ、この〝死者″たちは!? 気色悪い!」


 バーパスの違和感の理由は分かる。

 魔剣は通じる。切るとまるで煙のように溶けて消えていく。

 この動きはまるで──〝エネミー″のようだ。


「まるでダンジョンが、死者の魂をエネミーみたいに復活させたみたいだな!」


 だだ……何か違う気がする。

 〝死者こいつら″には意志を感じない。

 とはいえ今は死者のことは無視だ。やるべきことは──カイルたち生き残りの回収屋の救出だ。


「なあリレオン、カイルは何処にいると思う?」

「あいつには命を大切にするように言っている。無理はしないはずだ。であれば──」


 俺はかつてここ〝廃棄ダンジョン″に10年も潜っていた。

 マップは手に取るように分かる。


 ──俺は思考を巡らす。

 カイルはまだ二層までしか降りてない。

 ここまでのエリアで、確実に命を守るために選ぶ場所は──。


「こっちだ!」


 廃棄ダンジョン第二層の──もっとも隅。

 迷路のように入り組んだ一帯ゾーン


 ──ギィィン。

 金属が鈍く弾かれる音がして、俺は全速力で駆けつける。


 剣が通じない相手から逃げるのであれば、ここしかないという場所で──カイルは交戦していた。

 いや、魔剣ではないので一方的に防ぐだけだが……それでもカイルは生きていた。

 傷だらけではあるものの、他の回収屋と思しき3人と共に、かろうじて生きていたのだ。


「よく頑張った! カイル!」

「リレオン!?」


 俺が目の前の〝死者″を切り捨てると、へたり込むカイル。

 おそらくギリギリのところだったんだろう。だが間に合って良かった。


「バーパス、カイルを担いでくれ! 他は歩けるか!? 俺が切り開くから付いてこい!!」


 俺たちは来た道を逆に辿るようにして、〝死者″が氾濫する廃棄ダンジョンから脱出した。



 ◆



 この日、〝廃棄ダンジョン″に潜っていた回収屋は20名ほど。

 その中で助かったのはカイルと、一緒にいた回収屋たちの4人のみ。他は──残念ながら帰ってくることはなかった。


「……廃棄ダンジョンも立ち入り禁止になったぜ」

「当然だな、というか入りたくても入れないだろう」


 ダンジョンから帰還した俺とバーパスは、メルキュースに状況を報告したあとヴァルザードルフ伯爵邸に戻って来た。

 カイルは疲弊して寝ている。生き残れる確率が極めて低い過酷な状況だったんだ、仕方ないだろう。


「カイルのやつ、よく生きていたな」

「ああ、いい状況判断が出来ていた。生き残るための最善策を尽くしたからだろう」

「生き残ったやつから聞いた話によると、カイルは生き残りを集めて即席チームを組んで、あらゆる手を尽くして逃げ回っていたらしい」

「……たいしたもんだな」


 それでも、俺たちの出発が遅れていたらどうなっていたかは分からない。

 たとえどんな形であったとしても……命を助けることが出来たのはよかった。


「リレオン、お前変わったな」

「え?」

「いや、昔に戻ったというべきか」

「昔に?」

「いや、なんでもねえよ。じゃあ俺は一旦役所に行くわ。お前の代わりに無断突入を怒られてくるぜ。お前はカイルやアカリちゃんの様子でも見とけよ」

「ははっ、済まないな」


 お言葉に甘えて全部バーパスに任せる。あいつ昔からガタイに似合わず面倒事をやってくれるんだよなぁ。助かるぜ。


 バーパスと別れたあと、俺はアカリの様子を見にいく。

 アカリは──窓際で外を眺めながら立っていた。

 既に外は夜になっていたが、月明かりを浴びるその姿があまりに美しくて──しばし言葉を失ってしまう。

 まるで儚いような……消えてしまいそうな……。


「……アカリ、元気になったのか?」


 俺が声をかけると、振り返ったアカリが微笑む。


「ああ、大丈夫だ。リレオンは何をしていたのだ?」

「廃棄ダンジョンにカイルを救出に行っていた」

「そうか……すまなかったな」


 なぜ──アカリが謝る?


「カイルは無事か? 他の回収屋たちはどうなった?」

「ああ、カイルは別室で寝ているよ。生き残ったのは、カイルを含め4人だ。廃棄ダンジョンも立ち入り禁止だ」

「そうか……気のいい奴らだったのだがな」


 アカリにしては珍しく落ち込んでる……のか?

 アカリの顔からは表情を読み取ることはできない。

 俺はらしくもなく気遣いの言葉をかける。


「まあでもしばらくは安心だろう。街を襲ってるわけじゃないしな」

「いや、油断はできん。いつ来るかわからんぞ」

「え?」

「確かにあやつらがすぐに街を襲うことはないだろう。だがそう長くは持たない。なにせ──あそこに妾はいない・・・・・からな」

「おいアカリ、そいつはどういう意味だ?」

「あやつらの目的は──妾を探すこと・・・・・・なのだよ」


 アカリを──探すため?


「ああ。妾はようやく思い出した・・・・・のだ」

「なにを──思い出したんだ?」


 アカリは──妖艶に微笑む。


「──妾が生まれて来た〝理由″を、だ」

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