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廃棄ダンジョンで拾った、ちょっと変わった貴族令嬢の話  作者: ばーど@ホーリーアンデッド3巻&コミックス2巻10月31日発売!
第三章 貴族令嬢の捜索願い

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26.本当の絆

「……儂は大きな罪を犯した。罪は償う必要がある。その覚悟は──もうできておる」


 アカリから身を離したヴァルザードルフ伯爵がそう告げる。

 今の彼の表情に、俺は見覚えがある。あれは──命の覚悟を・・・・・決めた者・・・・・の顔だ。


「伯爵、あなたは──死ぬつもりか?」

「……君たちには本当に迷惑をかけた。詫びにもならぬが、儂にはもう──生きている意味を見出せないのだよ」


 愛娘を失った伯爵は、生きる目的を、生そのものを諦めてしまったのだろう。

 娘を失った辛さは、それほどに辛いものなのだろうか。

 ミーティアを失った時の喪失感を思い出し、伯爵の気持ちを察した俺は何も言えずにいた。

 だけど──。


「愚か者め」


 空気の読めないアカリがピシャリと叱りつける。


「アカリ殿……」

「死んでどうする? 死んだら全てが終わりだぞ? なぜ人はそのように意味のないことをしようとするのだ?」

「だが、儂にはもう生きる目的が無くて──」

「無いなら、新たに作れば良い・・・・・ではないか」

「おいおいアカリ、無茶言うなよ。伯爵は心の傷を負ってだな……」

「心の傷? なんだそれは、見えないものに傷など無いであろうが。そもそも伯爵よ、お主の娘はそんなこと・・・・・を望んでいるのか?」


 アカリの言葉に、俺はハッとして伯爵に視線を向ける。

 ヴァルザードルフ伯爵は──呆然とアカリを見つめていた。


「妾はそなたの娘では無いから気持ちは分からん。だがお主の娘は、お主に何と言ったのだ?」

「……アーデルハイドは……最期に……『ありがとう』と……」

「ありがとう、とは感謝の気持ちではないのか? 妾はリレオンにそう教わった・・・・・・ぞ?」


 確かに教えたが、ここで言うことかね。


「ありがとうには『死ね』という意味でも込められているのか? お主は娘から死んで欲しいと願われていたのか?」

「……いや、そんなことは……」

「であれば、なぜ死のうとする? むしろお主は──娘のためにも生きなければならないのではないか?」

「う……うう……」

「ここにいるリレオンは、かつての仲間を失ったときに『生きろ』と言われたそうだ。だから今も生きている」


 伯爵が驚いた表情で俺を見た。

 俺は黙って頷く。


「死にゆくものは、残されたものに『生きて欲しい』と願うものなのではないのか? お主は、娘の願いをも無碍にするつもりなのか?」

「おおぅ……おおおぅ……」


 アカリは相手の気持ちを察しない。

 ズカズカと心の傷に踏み込んでくる。

 だが──アカリのこの無茶のおかげで、俺も過去の呪縛から解き放たれたのは事実だ。

 そしてヴァルザードルフ伯爵も──。


「少し……時間をくれないだろうか。その間、この館でゆっくりとしていて欲しい」


 彼にはあまりに色々なことが起こりすぎたので、受け入れるための時間が必要なのだろう。

 拒否する理由もないので、俺たちは伯爵の申し出を受け入れることにしたんだ。



 ◆


 ……ということで、今日は丸一日伯爵邸で待機することになった。

 今は元アーデルハイドの部屋でアカリと寛いでいる。

 いや、俺は寛いでなんかいない。落ち着かず椅子に座ったまま出された紅茶を飲んでいる。伯爵令嬢の部屋で落ち着けるわけがないだろう。


「リレオンの家も悪くないが、このふかふかのベッドは捨てがたいな」


 ポヨンポヨンとベッドで嬉しそうに跳ねるアカリ。こいつ本当に空気が読めない奴だよな。


「アカリはその、ずっと一人だったのか?」

「そうだな、一人だった」

「寂しくなかったのか?」

「寂しい、という感情はよく分からない。だが人のようになってみたいと、混じってみたいとは思っていた。だから今の妾があるわけだな」

「なあアカリ、お前はその──家族といた方がいいんじゃないか」


 ヴァルザードルフ伯爵のやったことは到底受け入れられるものではないが、彼の娘への愛情は本物だ。

 この家に居ればアカリはきっと幸せに過ごせるだろう。

 だがアカリの返事は──。


「愚か者め」


 怒られてしまった。


「お主は何も分かっておらん」

『リレオンってホント、女心がわかんないよねぇ』


 かつて──ミーティアに似たようなことを言われたことを思い出す。

 俺は何年経ってもたいして変わらないらしい。


「で、でもよ、この館に居た方が恵まれた生活は送れるぜ?」


 娘を溺愛する父、豪華な家、傅くメイドたち。何不自由ない生活が約束されているわけだし。


「そうだな、その通りだ。では聞くがリレオン、妾の〝家族″は誰だ?」


 アカリの言葉に思わずハッとする。


「……やっと気づいたか、愚か者め」

「ああ、やっと気づいたよ。アカリの家族は──この俺だったな」


 アカリはどういう運命の悪戯か、俺の元にやってきた。

 同じチーム『天差す光芒(クリパスキュラーレイズ)』として活動してきた。

 一緒に上位ダンジョンに潜り、数々の成果を打ち立ててきた。

 一緒の飯を食い、寝て起きて……。


「妾はお主と過ごす日々をとても気に入っている。お主は違うのか?」

「いや、そんなことはない」


 アカリとの日々は、俺に〝光″を与えてくれた。

 暗闇を照らし出す〝灯り″を──もう手放すつもりはない。


「悪かったな、もうアカリと離れようなんて思わないよ」

「うむ、分かればよろしい」


 ニカッと無邪気に笑うアカリ。

 その笑顔に、ずっと凍りついていた俺の心の一番奥にあるなにかが──ゆっくりと解け出していくのを感じたんだ。


 ◆


 その日の夜、俺たちはヴァルザードルフ伯爵の部屋へと呼び出された。

 朝とは打って変わって完全に落ち着きを取り戻した伯爵が、俺たちに向かって頭を下げる。


「今朝は無様なところをお見せした」

「うむ、構わないぞ。妾は心が広いのでな」


 ブレずに偉そうなアカリは大したやつだと思う。


「儂は……愚かにも大きな罪を犯した。その罪が許されることはない。儂は──【王国宝守隊】の座を辞するつもりだ」


 まあ……そうなるだろうな。


「アカリのことは、国王に報告するつもりですか?」


 もし返答次第では今後の身の振り方も考えなければならない。

 だが伯爵の答えは──。


「いや、そのつもりはない。罪を免れるつもりもないが……この件は儂が死ぬまで心の中に封じるつもりだ」

「逆に俺が国王に売るとは考えないんですかい?」

「それはないだろう、君たちの関係をみていればわかる」

「ああ、アカリは俺の家族だからな」


 俺の言葉に、ヴァルザードルフ伯爵は笑みを浮かべながら頷いた。

 俺たちは、アーデルハイドとアカリの秘密を共有する関係となった。

 だが貸し借りのような薄っぺらい関係では無い。

 かけがえのない大切なものを共有する──〝同志″とでもいうのだろうか。

 だから俺たちは、互いに決して裏切ることは無いだろうと確信できる。


「ところで二人に相談があるのだが」

「なんでしょう」

「よければ儂に、チーム『天差す光芒(クリパスキュラーレイズ)』の支援(パトロン)をさせてもらえないだろうか」


 ……予想外の申し出。

 確かに家族が有力な探索者のパトロンになることはある。バーパスなどがそうだ。


「アカリ殿は儂に生きる理由を見つけるように言った。儂にとっての新たな生きる理由は──そなたたちの活躍を追いかけることにしたのだよ」


 伯爵はアカリにアーデルハイドを見ている。

 だがそれも一つの理由になるのだろうな。


「そりゃ願っても無い申し出だが……アカリはどうだ?」

「別に構わないのではないか、もともと妾にはファンが多いからな」


 ははっ、確かにこいつは回収屋のファンが多いもんな。


「じゃあ前向きに検討させてもらうが、先に大事な話をさせてもらおう。いきなり報酬の話を切り出すのは世知辛いんだが、どういう利益配分の取り決めにするんだ?」


 パトロン契約は大事だ。

 たとえば魔剣を借りる代償として収益化8割を持っていかれる、なんてこともある。

 場合によっては身体を要求されることも。


「それなんだが──もしよかったら君たちも一緒にこの屋敷に住まないか?」

「え?」


 伯爵からの予想外の提案に、思わず間抜けな声が出る。


「この屋敷は儂一人には広すぎる。もし良ければリレオンとアカリ殿の〝宿代わり″として使ってもらいたいのだ。儂はパトロンとして宿泊場所を提供する。もちろん活動資金もそれなりに提供しよう。その対価として──ときどき君たちのダンジョンでの活動話を聞かせて欲しいんだ」

「話を聞かせるだけ?」

「ああ、どうかね?」


 アカリにしょっちゅう「愚か者」と揶揄される俺でも分かる。

 伯爵は──アカリの活躍を見ることで、亡きアーデルハイドに想いを馳せたいのだろう。


「アカリ、どうする?」

「どうするもなにも……リレオンがいいなら?」

「じゃあ断る理由なんて無いな、よろしくお願いするぜ──伯爵パトロン様」


 俺とアカリが手を差し伸べると、伯爵は心の底から嬉しそうに──俺たちの手を握ったんだ。



 こうして俺たちチーム『天差す光芒(クリパスキュラーレイズ)』は──。

 〝ヴァルザードルフ伯爵″という支援者パトロンを得ることが出来たんだ。



 〜 第三章 完 〜



これにて第3章は完結です。

次からは最終章へと連なる第4章となります。

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― 新着の感想 ―
ぶれないアカリさん、伯爵、心を入れ替え、リレオンも自分の気持ちに気付く。  伯爵からのパトロンの申し出により、仮の住居と資金を確保、よかったですね。
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