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22.ヴァルザードルフ伯爵

 家のドアを開けると、重装備の騎士たちが10人近く揃っていた。おそらくはヴァルザードルフ伯爵の私兵だろうか。

 これは──抵抗するだけ無駄だな。


「俺がリレオンだ、何の用だ?」

「ここに我々が捜索している女性が居るとの情報提供があった。確認させてもらおう」

「おいおい、なに勝手に人ん家に入ってこようとしてるんだよ? 騎士ってのはそんなに横暴なのか?」


 俺の後ろから牙を剥き出しにして騎士たちに噛み付くバーパス。

 やめてくれよ、マジで誘拐犯か山賊みたいだからさ。


「落ち着けよバーパス」

「なんでだよ!」

「こんな日が来ると……なんとなく思ってたんだよ。ちょっと待っててくれ、連れてくる」


 意外にも騎士たちは俺の提案を抵抗もなくすんなりと受け入れてくれた。

 彼らを待たせたまま、アカリが寝ている寝室へ向かう。


 アカリはぐっすりと寝ていた。

 こいつは一度寝るとなかなか起きないんだよなぁ。ベッドからシーツを剥ぐと、抱き抱える形でアカリを持ち上げる。

 アカリを抱えるのは最初に来た時以来だ。ずいぶんと重たくなったもんだ……。

 ついでにアカリと出会った時に着ていた服も持っていくことにする。


「待たせたな。服はちょっと持ちづらいから持っててくれないか」

「この服は──」


 アカリの服を見て息を飲む騎士たち。

 やっぱり見覚えのある服なのかな。


「あんたたちが探してるのは、こいつで間違いないのか?」

「我々の任務はお前とこの女性を屋敷まで連れて行くことだ。馬車に乗れ」

「待てよっ! 何勝手に連れて行こうとしてんだよっ! お貴族様ってのはそんな横暴が許されるのかっ!?」


 再び噛みつこうとするバーパスを、今度は他の騎士たちが抑えにかかる。


「やめろ」


 俺が制すると動きを止める騎士たち。


「バーパスは無関係だ。俺だけ行かせてもらう」

「おいリレオン!」

「大丈夫だ、取って食われやしないさ。……バーパス、いろいろありがとうな」


 バーパスに礼を言い、アカリを抱えたまま馬車に乗り込もうとすると、馬の影から小さな影が姿を現す。


「あーっはっは、ざまーみろだリレオン!」


 声の主は──カイルか?


「カイルお前、まさか……」

「そうさ、オレがお貴族様に情報を売った・・・・・・んだよ! リレオンは悪いやつだからな、当然だろう! これは俺の正当な報酬さ!」


 手に握り締めている袋は──金か。

 そうか、カイルもアカリが捜索依頼書の女性と同一人物だと気付いていたのか。他の回収屋たちも、あまつさえバーパスですらも別人だと思ってたというのに……。


「カイル」

「なんだ? 恨み言なら聞かねーぞ!」

「いや……ありがとうな」

「え?」


 俺の言葉がよほど予想外だったのか、カイルがポカンとした表情で俺を見つめる。

 でも俺は本気でカイル少年に感謝していた。


「たぶん俺一人だとヴァルザードルフ伯爵のところに行く勇気は出なかった。カイルがきっかけをくれなければ行くこともなかっただろう。だから礼を言ったのさ」

「そんな……恨めよ! オレのことを憎めよ!」

「なんでだ? 俺はきっかけを得られた。お前は報酬を得た。伯爵は目的を達成できた。実に三方良しじゃないか、誰も損していない」

「バカな、バカなバカなっ!」

「それにお前は目が良い、あの捜索願いを見てアカリにたどり着いたのはお前だけだ。これからもっと伸びるだろうよ」

「な、なんでお前は……オレを……オレはお前を売ったのに……」

「まあ帰ってきたらゆっくり話そうぜ、あばよカイル」


 返事がわりにガックリと項垂れるカイル。

 こいつはますます俺に似てるな、気に入ったよ。


「なぁバーパス、カイルのことを頼む」

「あ、ああ。構わないが……」

「それじゃあ、ちょっくら行ってくるぜ。おやすみ、良い夢を見ろよ」


 俺は二人に軽くおやすみの挨拶をすると、アカリを抱き抱えたまま馬車に乗り込んだ。


 ◆


 しばらく馬車を走らせてたどり着いたのは大きな屋敷の前だった。窓は完全に閉められていたのでどこかは分からないが、おそらく貴族街の一画だろう。

 どうやらここがヴァルザードルフ伯爵邸らしい。


 結局目を覚ますことの無かったアカリを抱えたまま降りると、少し白髪の混じった紳士が近寄ってきた。

 彼がヴァルザードルフ伯爵だろうか。

 ただこの紳士、どこかで見覚えがあるぞ。

 ──ああ、思い出した。

 以前、バーパスと決闘する時にすれ違った【王国宝守隊】の隊長じゃないか。

 まさかこんな形で会うことになるとは思わなかった。


 そしてこの瞬間、俺がアカリについて色々と疑問に思っていたことが一気に解決した。

 アカリが複数の上質な魔剣を持ってたこと。

 異空間に荷物を収納する不思議な魔法──権能。

 エネミーを寄せ付けない謎の力。


 父親であるヴァルザードルフ伯爵は、【王国宝守隊】として上位ダンジョンのレベル5まで行って、ダンジョンに道具を喰わせたり魔法道具を回収する使命を負った責任者だ。

 だったら魔剣をたくさん持ってたり、荷物を効率的に運ぶための空間収納の権能を持っていたり、エネミー避けの秘術を使えたとしても何もおかしくないだろう。

 そうか……あのへんちくりんな技は父親から教わってたのか。


 ヴァルザードルフ伯爵のもとに騎士が駆け寄り、何やら耳打ちをしながら先ほどのアカリの着ていたドレスを手渡す。

 震える手でドレスを受け取った伯爵は、こちらに近寄り──アカリの顔を覗き込んだ。


「……アーデルハイド」


 伯爵がそう呟くのが聞こえた。

 やはりアカリはヴァルザードルフ伯爵家の令嬢だったのだ。


「君が……リレオンくんかね?」

「ええ、そうです」


 俺は素直に頷く。

 予想外に穏やかな問いかけ。どうやら俺のことを誘拐犯として即処刑するつもりではなさそうだ。


「儂はヴァルザードルフ伯ゲオルグだ。少し──儂と話をさせて貰えないかね」

「ええ、もちろんです」


 その後すぐに執事に連れられ、俺は来客用らしき部屋に案内された。

 アカリは〝アーデルハイド″の自室らしき個室のベッドでスヤスヤと眠っている。メイドも2〜3人はついているから安心だろう。

 しかしこいつ、ここまで異変があってもまったく起きなかったな。ほんと神経が太いというか、大したやつだと思う。


 高級家具が置かれた広い来客室で落ち着きのないまま待機していると、先ほどの執事から呼び出しがあり伯爵の部屋へと案内される。


「よく来てくれたね、リレオンくん。夜分に急に呼び立ててすまない」

「改めまして、リレオンです。しがない探索者をやってます」

「君の……いや君たちの噂は聞いてるよ。新進気鋭の探索者チームだってね」

「どうもありがとうございます」


 社交辞令?

 だが予想以上に穏やかなやりとり。


「アカリは──彼女はあんたの娘さんなのかい?」

「ああ、間違いなく娘のアーデルハイドだ。……かなり健康的になっていて髪が金色に変わっているが、娘を見間違えることはない」


 やっぱり髪の色は変わってるんだ。

 それにしても妙だな、4ヶ月も行方不明だったわりには随分と落ち着いてる。もっと半狂乱に責められると思ってたんだが……。


「俺は誘拐なんてしてないぜ?」

「ああ、儂はそんなこと微塵も思っておらん・・・・・・・・・よ」


 予想以上の断言。

 果たして俺は、他人をここまで信用できるだろうか。


「リレオン君、良かったら君がアーデルハイドとどのような形で出会ったのか、儂に話してもらえんか?」

「ええ、そんなことで良ければ……」


 俺はメイドから出された紅茶を飲みながら、アカリとの出会いについて語る。

 ある日、廃棄ダンジョンに潜ったらあんたたちの娘が最奥で寝ていたこと。

 家に拾って帰って世話をしたこと。

 彼女から魔剣を借り受けて、一緒に上位ダンジョンに潜ら始めたこと。

 それから──つい最近までのダンジョンでの冒険の日々。

 俺はアカリと、腰に差した【如意在剣(フリーダムコンクエスト)】とともに、ここまで歩んできた。


「伯爵が娘を大切に思っているのはわかる……わかってるつもりだ」


 身内が失われる辛さはわかるからな。


「だからアカリをあんたに返すことに俺は異論はない。ただ、俺には──成すべきことがある」


 ──【原色の悪夢】を倒す。

 そのためには、この魔剣が必要なのだ。


「だから、こんなおこがましい願いで申し訳ないんだが──この魔剣をもうしばらく俺に貸しちゃもらえねぇだろうか」


 別に娘を助けた礼なんて求めるつもりはない。

 だが今ここで魔剣が無くなるのは困る。

 俺は必死に頭を下げる。

 だが──伯爵からはなんの返事もない。


 さすがに家宝クラスの魔剣を貸してくれという申し出は図々しすぎたか。

 恐る恐る顔を上げ、相手の顔色を下から伺う。


 ヴァルザードルフ伯爵がその顔に浮かべていた表情は──。



 ──〝驚愕・・“だった。

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ん、伯爵も知らない魔剣という事ですかね?
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