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19.捜索願い

 回収屋たちが居るエリアに近寄ると、アカリの周りにむさい男どもが群がってくる。


「よーアカリちゃん!」「相変わらず可愛いな!」「【独剣】なんかと別れて俺たちと廃棄ダンジョンに行こうぜ!」

「ははっ、お主らは妾の廃棄ダンジョンでしっかりと頑張ると良い」


 アカリは相変わらず回収屋たちに大人気だ。

 俺はアカリのおかげで空いた掲示板を眺める。


「どれどれ、これが一千万ペルの依頼か……えっ!?」


 ……なんだこれは。


 依頼内容は〝行方不明となった女性の捜索″。

 対象人物の名前は『アーデルハイド・エーデンフィリア・ヴァルザードルフ』

 年齢は18歳。

 依頼主は〝ヴァルザードルフ伯爵″。

『探しだして伯爵家へ連れてきたら、報奨金一千万ペルを支払う。』

 実にシンプルな依頼内容の下には、ドレスを着て椅子に座る、銀色髪シルバーブロンドの痩せ細った少女の姿が描かれていた。


 おそらくこの〝アーデルハイド″という女性はヴァルザードルフ伯爵家のご令嬢なのだろう。

 ただこの令嬢──顔が似ているのだ。

 他の誰でもない、出会ったときの・・・・・・・アカリに。


 あの時のアカリはガリガリに痩せ細っていた。その姿が依頼書の女性とよく似ている……気がする。

 確証はない。なにせ今では飯を食いまくって健康的な肉体となり、当時とはまるで別人のようだ。だが──やはりよく似ている。


 ただ決定的に違うのは〝髪の色″だ。

 依頼書の少女は〝銀色″の髪。一方のアカリは──ポニーテールにしているが輝くような〝黄金色″だ。


 さすがに髪の色なんて簡単には変えられないだろう。だからこそアカリを囲んでいる回収屋たちも、依頼書の女性と同一人物だとは思ってもいないようだ。


 似ている。でも同一人物との確信は持てない。

 俺は受付にいる少し年増の女性係員に声をかける。


「なあ姉さん、あの依頼書を俺にも一枚くれないか」

「ああ、リレオンじゃないか。最近上のダンジョンで随分稼いでるみたいだね。ダフネが言ってたよ」

「ああ、じゃあお礼も弾まないとな」


 いつもの倍額のチップを渡すと、顰めっ面のまま依頼書を一枚渡してくる。


「しけたやつだね、そんなんじゃダフネに見捨てられるよ」

「ははっ、もっと稼げるように努力するよ」


 俺は礼を告げると受付をさっさと立ち去ることにする。


「アカリ、行くぞ」

「今日は久しぶりに可愛いこ奴らと酒でも酌み交わす。お主はバーパスとでも酒盛りしてるがいい、はははっ」


 ったく、こいつは……。

 俺は舌打ちしながらも魔法道具を換金するためにアカリを置いてダフネのところへ向かう。


「……ん?」


 その途中、誰か見覚えのある奴とすれ違った気がする。

 あれは確か──以前俺が同行を断った少年?


 すぐに探そうとしたものの、何処かに行ってしまったようで……結局その日は少年の姿を発見することはできなかった。


 ◆


「なあバーパス、似てると思わないか?」


 その日の夜──回収屋たちとしこたま酒を飲んだ挙句腹を出したまま眠っているアカリにシーツをかけながら、酒のつまみに依頼書を眺めるバーパスに話しかける。


「うーん、どうだろう。確かに似てると言われれば似てるが……髪の色も違うし別人じゃないか?」


 他人から見るとそう感じるのか。

 だがずっと一緒にいた俺の直感が、これは本人だと告げている。

 そもそも似たような顔の貴族令嬢の捜索依頼なんて、偶然として片付けるにはさすがに違和感がある。

 ただ、なんで4ヶ月も経った今のタイミングなのか……実に謎だ。


「この手配書の人のこと調べられるか?ヴァルザードルフ伯爵」

「ああ、構わないが……アカリとは別人だと思うぜ。それにその令嬢はどうせどこの馬の骨ともわからん野郎と駆け落ちでもしたんじゃないか」


 まあ……確かにありうることだろう。

 もしそうだったら、俺は人を見る目が絶望的に無いことの証明になるだけだな。


 ◆


「おいリレオン、驚くべきことがわかったぞ!」


 翌日の夜、バーパスが慌てた様子でやってきた。

 アカリは幸いにも今日は回収屋たちと飲んでいて不在だ。


「なんだ、昨日の今日でもう分かったのか?」

「ああ、この娘──アーデルハイド嬢だがな、とんでもない情報を手に入れたぞ」

「勿体ぶらずに早く言えよ」


 こういう時のバーパスのニヤけ顔は殴りたくなる。


「へへっ、聴いて驚くなよ? この子はな、うちのチーム『栄光への挑戦者(ネクストグローリー)』のリーダー、【貴公剣士】メルキュースの婚約者だったらしいんだよ」


 は?

 メルキュースの元婚約者だって?


「ああ、メルキュースの旦那は伯爵家の三男だからな。貴族令嬢と婚約しててもおかしくはないだろ」

「だが元ってことは今は婚約してないんだろ?」

「ああ、どうも──メルキュースの旦那側から婚約解消したらしいな」


 メルキュース側から婚約解消か……。


「ああ見えて旦那は女遊びが好きだからなぁ。探索者としても名声が高まってきたし、あんなやせっぽっちの子じゃなくて、もっとグラマラスで上のランクの貴族令嬢に狙いをつけたのかもな。あははっ」

「おい、笑いすぎだ」


 笑いながら酒を飲むメルキュースを睨みつける。

 しかし、婚約解消か……。

 これは一度ちゃんとアカリと話す必要があるな。

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― 新着の感想 ―
髪の色だけが違うそっくりさん、だとしても単独であんな奥にいけるとは相当な手練れ。
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