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13.暴露

「妾をスカウトだと?」


 エールを口に含んだあと、ジョッキをテーブルに置いて改めて尋ねるアカリ。バーパスはニヤリと微笑みながら頷く。


「ああそうだ。あんたを俺たち『栄光への挑戦者(ネクストグローリー)』に引き抜きにきたんだ。うちのチームは凄いぞ、リーダーの【貴公剣士】メルキュースを筆頭に、今一番上位ダンジョンで勢いがある……おいオヤジ、俺にもエールを頼むわ。あとツマミを適当に持ってきてくれ」

「自分の分だけ頼むのか?」

「そんなわけないさ。アカリも食ってくれよ、今日は俺の奢りだ。好きなだけ食べるといい」

「ほう、いいのか? では遠慮なく。店員よ、メニューのここからここまで全部持って来てくれ」

「おいおいマジかよ……」


 それから注文した品が来て、アカリがエールを3杯飲む間もバーパスの話は続いた。


「うちはいいぞ、全員が魔剣持ちだ。俺もこのとおり魔斧を持っている。戦力は十分だ」

「むぐむぐ」

「メルキュースの旦那は……ちょっと女好きだが大丈夫だ。もし手を出されても相手は伯爵家の三男だ、悪いようにはされないだろう」

「ごくごく」

「取り分は──最初は見習いだから、15分の1かな。だが戦力となるようなら均等割を相談しよう」

「もぐもぐ」

「っておい! 聞いてるのかよっ!」

「ああ、聞いているとも。それで──」


 ガンっとエールのジョッキをテーブルに置きながらアカリが問いかける。


「なぜ妾なのだ?」

「あんたが新進気鋭の『天差す光芒(クリパスキュラーレイズ)』のメンバーだからさ」

「ほう」

「あのリレオンを──廃棄ダンジョンで燻っていたリレオンを拾って、一端の剣士として上手く使っている。それだけであんたがかなりの人物であることは確かさ」

「リレオンは強いぞ?」

「知ってるさ、何か俺はあいつの元チームメンバーだからな」


 バーパスの言葉に、アカリは初めて呑み喰いしていた手を止める。


「お主が──リレオンの元チームメンバーなのか」

「ああそうさ。だからリレオンがたった一人の力で上位ダンジョンの、しかもレベル3まであっさりと来れるような奴じゃないことも知っている。間違いなくあんたの力さ、アカリ。だから俺はあんたをスカウトに──」

「おいっ! こんなところで何をしてるっ!」


 酒場に鋭く響く声。

 声の主は──息を切らせながら駆け込んできたリレオンだった。


 ◇


 くそっ、何でだ。

 どこに行ったのかと探してみたら──なぜバーパスがアカリと飲んでるんだ!?


「やあリレオン、遅かったじゃないか。おかげで妾は変な男に引っかかっておったぞ」

「遅いって……アカリが勝手にいなくなったんだろうがっ! こっちは探してたんだぞ! それよりも──バーパスと何の話をしていたんだ?」

「ああ、妾をスカウトしたいんだとさ」


 アカリをスカウトだと!?


「おいバーパス、それはどういうことだ?」

「チッ、もう少しゆっくりとくればいいものを……アカリの言う通りさ。俺は彼女に、お前なんかを捨てて『栄光への挑戦者(ネクストグローリー)』の一員にならないかと誘ってたんだよ」


 こいつ……なんてことを。


「なぜだ、なぜ俺じゃなくアカリにちょっかいをかける」

「別にちょっかいなんてかけてないさ、俺はお前なんかよりはるかに将来有望な若手探索者をスカウトしていただけだよ」

「そんなの……ルール違反だろうがっ!」


 探索者チームのメンバーを引き抜くことは、暗黙の了解で禁止されている。下手すると血を血で洗う抗争になりかねないからだ。


「別に彼女の意思なら問題ないだろう? それにルール違反を犯した・・・・・・・・・お前に言われても、何の説得力もないな」

「ぐっ……」

「彼女は廃棄ダンジョンで長年燻っていたお前を、一気に上位ダンジョンのトップクラスまで引き上げた。どんな手を使ったかは知らないが、たいしたもんさ」


 アカリ自身はそんなにすごくないというか、むしろダンジョンでは索敵以外はほぼ何もしてくれないんだが……。

 いや、今はそれよりもアカリの答えだ。もしアカリがバーパスたちと行くことを選ぶのだとしたら──。


「どうだいアカリさんよ。俺たちのチームに来ないか? リーダーは俺が説得するからよ」

「ふむ、妾を求めるとはなかなかに見どころがあるやつだな」

「む、むぅ?」

「だが断る。妾はお主とは行かぬ」


 まあそうだよな。

 アカリならそう答えるよな。

 心配は杞憂だった。だけど妙にホッとしたのも事実だ。


「ほう、断るのか」

「ああ、妾はリレオンとダンジョンに潜ると決めておるからな」

「アカリさんよ、あんたはなんでリレオンなんかとチームを組むんだ?」

「その理由はお主が一番分かっているのではないか? なにせリレオンの元チームメンバーだったのだろう?」

「ああそうさ、確かに俺はリレオンの元チームメンバーだった。元、な。そして元であることには当然理由がある」


 バーパスがエールを片手に掲げながら不敵に笑う。

 こいつ──アカリに言うつもり・・・・・なのか?


「どんな理由があるのだ?」

「おいバーパス、やめろ」

「おや、こいつはどういうことだいリレオン? お前もしかしてあのこと・・・・のことをアカリに話してないのか?」

「あのこと?」

「バーパス貴様っ!」

「おいおいリレオン、大切な仲間に大事なこと・・・・・をちゃんと話してないのかよ? そのほうがよっぽどルール違反じゃないのか?」

「くっ……」

「ふむ、興味があるな。話すが良いバーパスよ」

「そうかい、じゃあ俺の口からリレオンの真実をお話ししようじゃないか」


 アカリが促している以上、俺に話を止める権利はない。

 バーパスは邪悪な笑みを浮かべながら──アカリへと告げる。


「こいつはなぁ……仲間を見捨てて・・・・・・・ダンジョンから・・・・・・・逃げ出した・・・・・んだよ」

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