吹奏楽部からのお願い-3
そして下校のタイミング。美玖ちゃんもこの後用事があるようで、「美術部の見学行ったらキリの良いところで切り上げて帰っちゃうね」と言われているので、今日は1人で帰ることになっている。本当はみんなで一緒に帰りたいけど、用事なら仕方がないか。と思いつつ、階段を降りていく。その時だった。
「あのっ!」
後ろから誰かに声をかけられ、私はその方へ振り向く。そこには1人の女の子がいる。黒縁メガネにストレートヘアの美少女だ。この子、私と同じクラスの子だ。
「確か……愛依ちゃんだよね?」
「はい!」
そう、この子は同じクラスの松山愛依ちゃん。愛依ちゃんは中学入学のタイミングでお隣の県から引っ越してきた子。だから、しっかりと話したことはまだ一度もない。
私、こういうときになんて話を続ければ良いかわかんないよ……! しかし、そのまま愛依ちゃんが話を続けてくれる。
「あの、優夢さんは吹奏楽部に入るんですか?」
「え? うん。できれば吹奏楽部に入りたいなぁとは思ってるけど。愛依ちゃんは?」
「私も、第1希望は吹奏楽部です。私、全くと言っていいほど運動が苦手で、昨日は別の文化部に見学に行ったのですが、正直言って、他の部活は私には合ってない気がして……」
「私も、運動って大の苦手で。運動会の徒競走とか、学校のマラソン大会とか、下から数えたほうが早くて……」
「あ、私もそうでした。だから運動会とかそういう系のイベントとかは苦手で……」
「共感。あれの何が良いのか……」
そんなことを言うと、愛依ちゃんはクスっと笑ってくれる。
というか私、初めて話す人に対してスラスラと話を続けられてる! 中学に入って初めて新しい友達ができたんだと思うと、心の底から嬉しいと思えた。